彩浜のお誕生日 ~お母さんありがとう~
1
夜の帳が静かに降りて、輝く星が動物達の眠りを優しく誘います。
ゾウも白熊もライオンもイルカもペンギンも…みんながそれぞれの寝床で眠る白浜の夜です。
ブリーディングセンターのバックヤードでは、お母さんパンダの良浜がすやすや眠る楓浜の様子を眺めて微笑み、頬杖をついて物思いにふけっていました。
『今日は一日、盛大にお祝いしてもらったみたいやなぁ…良かったなぁ、彩浜』
そんな独り言がこぼれます。今日は良浜の娘の彩浜の三歳のお誕生日でした。
『あの日からもう三年…ほんまに一時はどうなるかと思った。こんな幸せな誕生日を迎えられるなんて、あの時は信じられへんかったけど』
良浜の心に、生まれた時の小さな小さな彩浜の姿がよみがえります。
自分の力だけでは育たないことが分かっていて、飼育員のみんなを信じて託した子。
それでも心配で悲しくて、胸が張り裂けそうな気持ちで子供を呼び続けたあの時のことも、今は微笑んで振り返ることができるのです。
それが良浜にはとても嬉しいのでした。
「ラウちゃん、まだ起きてる?」
その時、聞きなれた声がして、良浜のよく知るベテランの飼育員さんがやって来ました。
『あら、こんばんは。今日は彩浜がお世話になりました。盛大にお誕生日祝いしてもろたんやね』
「ええ、朝には虹の氷や雪でお祝いしてね、夜になってからまたネット配信でお祝いしたの。私も彩ちゃんのこと皆さんにお話ししてきたのよ」
『ご苦労さま。ほんまにあの子は幸せものや』
「彩ちゃんは小さく生まれたものね。いくつになっても、あの小さかった子が…と思って私達も感慨深いわ。
…ところで、ね、ラウちゃん」
飼育員さんはふいにいたずらっぽく笑うと、背中に隠していたものを、ぱっ、と良浜の前に差し出しました。
「彩浜のお誕生日、ありがとう! ラウちゃん!」
良浜に差し出されたもの。それは、きめ細やかな美しい氷に蜂蜜をたっぷりかけた、とてもとても美味しそうなかき氷でした。
『えっ、お誕生日…彩浜のお誕生日が、ありがとう…?』
戸惑いながらかき氷を受けとる良浜の後ろで、今度は、
『そうや、彩浜のお誕生日ありがとう、ラウちゃん!』
朗らかな声が響きます。振り向くと、永明がにこにこと笑っていました。
「あのねぇ、ラウちゃん。永明がね、今年の彩浜のお誕生日にはラウちゃんにも何かご馳走をあげてくれって言ったの。
子供のお誕生日は、お母さんが頑張って産んでくれた感謝の日なんだからって」
『うんうん、どの子もみんな大変やったけど、彩ちゃんの時は特にラウちゃんは辛い思いをしたからなぁ。感謝の気持ちを表したくて、僕が頼んだんや』
飼育員さんと永明さんのその言葉に、かき氷の器を持つ良浜の手が小さく震えました。
『そう…ありがとう…。私もちょうど、あの時のことを思い出していたところなんや。ほんまに彩浜はよう育ってくれた…ほんまに…』
そう言って涙ぐむ良浜を、永明さんと飼育員さんが優しく見つめます。
2人に見守られて、良浜は涙を拭いて、ぱくりとかき氷を一口食べて、
『ああ、おいしい! これは上等の蜂蜜やね!』
はじけるような笑顔になりました。
真っ白な氷の上で輝くような金色の蜂蜜。
とろりと甘くて、冷たくて、辛い記憶も悲しい思い出も全部吹き飛んでしまうような美味しさです。
『あれぇ、お母さん、何か美味しそうなもの食べてる! ねぇねぇ、結にもちょーだい!!』
『むにゃむにゃ…ふうちゃんも、ふうちゃんもたべたいでちゅ…』
そんな素敵なお祝いデザートの匂いを嗅ぎつけて結浜が飛んできて、眠っていた楓浜まで起きてきました。
にこにこと見守っていた永明さんまで、
『そうやなぁ、お父ちゃんも食べたくなってきたなぁ。…なぁ、とも子、今日も綺麗やで。ちょっと僕にもひとつ…メェェ~♪』
甘えんぼモード炸裂です。
「ハイハイハイ、こうなると思ってたわよ。すぐ作ってきてあげるから、みんな待ちなさい」
わーい、わーいと喜ぶ父娘たち。
飼育員さんは良浜を振り返り、そしてポケットに入れていた何かを差し出しました。
「あのね、ラウちゃん。これ、彩浜からのプレゼントよ。今日のお誕生日会であの子がもらった虹の氷のかけら」
良浜の持っているかき氷の上に、虹色の氷の小さなかけらが差し込まれました。
「さっき私が彩浜に、今日はお母さんにも美味しいおやつをプレゼントする予定なのよ、って言ったらね。彩浜が言ったの。
自分もお母さんに感謝してるからプレゼントあげたいって。今日の虹の氷のかけらをお母さんにあげて、って」
3
その飼育員さんの言葉を聞いた時。
良浜の耳には、元気いっぱいの彩浜の声が響いてくるような気がしたのでした。
『お母ちゃんに、うちの虹の氷をあげる! ちょっとかじったり、遊んだりして小さくなったけど、堪忍な!』
『…ありがとう、彩浜。彩ちゃんが元気にかじったり遊んだりした氷は、お母ちゃんの宝物や』
金色に輝く蜂蜜氷のてっぺんで、きらきら綺麗な虹のかけら。
また涙ぐんでしまう良浜を、永明さんが優しく後ろから抱きしめます。
『わぁ、お父さんとお母さんがイチャイチャしてる~!』
『いちゃいちゃでちゅ~!』
「はいはい、みんな夜中に騒がないの。じゃあ、氷を作ってきてあげるわね」
夜のブリーディングセンターに、楽しそうな笑い声が響きます。
カピバラもレッサーパンダもサイも鹿もキリンも…みんながそれぞれの寝床でぐっすり眠る白浜の夜。
たくさんの動物達が、いくつもの家族が寄り添って暮らすこの場所で。
『なんていい家族なんやろ。なんて素敵な夫と子供たちに恵まれたんやろ。愛するものがたくさんいて、見守ってくれる人たちに恵まれて、仲間たちもたくさんいる。
私は世界一の幸せものや』
賑やかな家族の声に包まれながら、良浜は嬉しそうに虹色の氷を見つめて微笑みました。
みんなが大好きなお母さん、良浜。
彩浜のお誕生日に、ありがとう。
おしまい
ゴワゴワ必要です…(T ^ T)
みんな元気でよかった!
ともこもありがとう!
ステキなお話ありがとうございます!
らうちゃんの想いと彩ちゃんからのプレゼントに泣けてきました…あ、ゴワゴワ貸してくだしゃい…グスン…
永明さんのとも子呼びも微笑ましいw
素敵なお話ありがとでしゅ グスグス
>>668
きゃわわわ
プミちゃんゴワゴワのおちごと頑張ってね
>>663
そうだよね、昨日はラウちゃんありがとうの日でもあったんだよね
改めてラウちゃんありがとう!
蜂蜜のかき氷が美味しそうで私も食べたくなりまちたよw
>>663
作家さん優しいお話をありがとう
飼育員さんとラウちゃんは盟友ですね
本当にここまで大きく育つなんて3年前は想像できなかったよね
ラウママも飼育員さんたちのおかげだよね
Rゴンしゃん、これからも気にせずたくさんプーしてくだしゃい
この子は小さすぎて危ないかもというのをラウゴンしゃんも察してたんでしゅかね