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良浜のバースディナイト -2021/09/07(火)

604: 名無しさん? 2021/09/07(火) 05:19:53.79 ID:XpwnP9mZ0

良浜のバースディナイト

「はい、ラウちゃん。ここにモニターを置くからね。それぞれが中国各地の施設とつながってるから」
9月6日の夜。ここは綺麗に飾り付けられたブリーディングセンターの室内運動場です。
飼育員さんが床にいくつもモニターを置いてくれて、良浜はわくわくしながらその前に座りました。
今日は良浜の21歳の誕生日。
朝からお祝いの会が何度も設けられ、夜には特別にパンダラブから桜浜桃浜と彩浜も遊びに来て、みんなで氷ケーキや果物を食べたり、良浜の「21」の文字の氷で遊んだりして楽しく過ごしています。
その上に、今回はとびきり素敵な企画が飼育員さん達からプレゼントされました。
中国に渡った良浜の子供たち、それに弟や妹たちとネットをつないで会えるというのです。
『なんだか胸がいっぱいやわ…。みんなの元気な顔が見られるなんて、一番のプレゼントやなぁ』
『良かったなぁ、ラウちゃん。僕も一緒に見られるんやから嬉しいわ』
永明さんが優しく笑って、良浜の隣に座ります。
『私、初めて会う兄さんや姉さんがいるわ』
『私も~! 楽しみやねぇ』
『結と同じ頭にピコンがあるお姉さんもいるもんね!』
『お母ちゃん、プル子寝てしもうたわ。うちがおんぶするから、ねんねこ着せて』
『むにゃむにゃ…プル…プルル…zzz』
みんながわいわいと待つうちに時間が来て、置かれているモニターの半分がパッと明るくなりました。
『お母さーん!』
『わぁ、お母さんや! うちら元気やで~!』
『お母ちゃん、お誕生日おめでとう!!』
まずは、良浜の子供たちの顔がいくつも映りました。どの顔も嬉しそうです。

 

605: 名無しさん? 2021/09/07(火) 05:23:25.06 ID:XpwnP9mZ0
2
『ああ、みんな…! 永浜、あんたはほんまに永明さんそっくりやなぁ…。体は大丈夫やな? しんどくなったら飼育員さんに言うんやで!
梅浜、すっかり大人の母親になって…あんたの娘はえらい人気者やなぁ。でももうちょっとダイエットさせた方がええで。
海浜、あれからどうや? そこの施設に馴染んで落ち着いたか? あんまいろいろ考え込まんと、どーんと構えとったらええねんで。
陽浜、なかなか好みの彼氏は見つからへんそうやねぇ…。お父ちゃんみたいなオスは滅多におらへんしねぇ。新しいとこ行っても頑張るんやで。
優浜、あんたもそろそろお婿さんの話が出る頃やろね。難しく考えんと、まずは会ってみることやね。嫌いな相手やったらぶっ飛ばしたったらええねん』
モニターに映る子供たちの元気そうな顔に、良浜も、そして永明さんも安心して微笑みました。
「じゃあ、次は上の兄弟たちね」
飼育員さんがそう言って、残り半分のモニターのスイッチを入れました。すると…
『うおーーーい! ラウ姉ちゃーーん!! 僕やでーーー!!』
『ラウ姉、お誕生日おめでとーーーっ!!』
『お姉ちゃん久しぶりーっ! お父ちゃんも元気~!?』
前にも増して賑やかな声が部屋に響きました。
雄浜、隆浜、秋浜、幸浜、愛浜、明浜…みんなこの白浜で元気に遊び、笑い、成長して巣立って行った兄弟たちです。
『うん、うん…みんな久しぶりやねぇ…』涙ぐみそうになる良浜の隣で、
『いやぁ、全員揃うと圧巻やねぇ。たいした大家族や』
まるで他人事のように言う永明さん。
『全部、父ちゃんが作ったんやで!』
雄浜が突っ込みを入れて、またみんなで大笑いです。
日頃から賑やかなのには慣れている桜浜桃浜、結浜に彩浜も、これだけの家族パンダが勢ぞろいする様子は初めてです。
目を丸くしながらも、楽しくてわくわくして、笑顔になってくるのでした。
『ああ、後ろにいるのは桜浜と桃浜やね。ほんまに美人の双子やねぇ』
『結ちゃん、久しぶりね。頭のピコンが立派になって。私とおそろいね!』
『ねんねこ着てるのは彩浜やな。妹おんぶして偉いなぁ。お父ちゃん似やから、ほら、僕にも似てるやろ』

 

606: 名無しさん? 2021/09/07(火) 05:26:54.34 ID:XpwnP9mZ0
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ずっと年上の兄や姉に口々に構われて、
『えー、美人やなんて、それは桜姉ちゃんが~』
『えー、桃ちゃんの方が可愛いんですぅ~』
『わーいわーい、ピコンがおそろい! わーい!』
『うちはボーイッシュな美少女やねん』
『……プルっ?!(あまりの賑やかさに目が覚めた)』
それからしばらくは、今のこと昔のこと、思い出話やら近況報告の合間にみんなそれぞれに用意してもらったご馳走を食べて、
夜のバースディパーティは楽しく続きます。
良浜は永明さんの隣でニコニコと微笑み、お上品にリンゴや人参を口に運びました。
永明さんが何か言う度に、口に手を当ててオホホと笑います。
そんな良浜の様子を不思議そうに見ていた雄浜が、ついに爆弾発言を投げ込みました。
『ラウ姉ちゃん、今日はなんでそんなお上品にしとるん? いつもと全然違うやん』
良浜はピタッとフリーズしました。
にこやかな顔の額に、ピキッと怒りマークが浮かびます。
『えっ…雄浜兄ぃったら、ラウ姉ちゃんはいつも上品よ? (馬鹿ねぇ! ラウ姉はお父ちゃんの前では乙女なんよ!!)』
『そ、そうよ、お母ちゃんはおしとやかやもん…。(お母ちゃんはお父ちゃんの前では猫かぶるんよね…)』
愛浜と梅浜が慌ててフォローしましたが、雄浜は無邪気に言い募ります。
『ええー? ラウ姉は短気でワイルドなパンダトルネードやで? 飼育員さんからつけられたあだ名が”ハマの悪浜”…』
『あらぁーーーっ?! 見て見て永明さん、向こうの泉に金のタケノコと銀のタケノコを持った飼育員さんが!!』
雄浜の言葉を無理やりぶっちぎって良浜が上げた声に、永明さんが振り向きます。
『えっ、金と銀のタケノコ? とも子が持ってるて? えー、泉ってどこやろ。おーい、とも子~』
飼育員さんを探して部屋を出て行く永明さんをニコニコと見送った良浜。
くるりと振り返った時には鬼の形相で、
『…くぉらぁぁぁぁぁ!! 雄浜っっ!! アンタいったい誰に舐めた口聞いてんねん!! 今から中国まで泳いでって成都まで走ってって、飛び蹴りとスカイブルー・スープレックス・ホールド決めたろかっっ!!!』
『きゃーーー、ごめんなさーい!!』
頭を抱えて画面下に隠れる雄浜に、兄弟たちがどっと笑います。

 

607: 名無しさん? 2021/09/07(火) 05:31:23.64 ID:XpwnP9mZ0

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その時ふと気付くと、雄浜の画面の後ろからもいくつもの笑い声が聞こえました。
『ん? 雄浜、後ろに誰かおるのん?』
『ああ、紹介すんの忘れてた。僕の妻子たちも集まってんねん。ほらみんな、挨拶して。僕のお姉ちゃんやで』
雄浜がモニターを回すと、後ろにはたくさんの女子パンダに子パンダ、大きくなった元子パンダがそろっていました。
父親に負けず劣らずの子沢山の雄浜なのです。ついでに妻も多いのでした。
『姐さん、お誕生日おめでとうございます!!』
『らうひんおばちゃん、おたんじょうびおめでとう!!』
雄浜の家族も声をそろえて良浜を祝います。
良浜は鷹揚に頷き、
『はい、ありがとう。みんな上手に言えてお利口さんやなぁ。ほんまにええ子ばかりや。
…なぁ、奥さんたち、あんたらの亭主が女に優しいフェミ男になったんは、誰の躾が良かったおかげか、よう分かっとるやろな?』
『ハイッ! 姐さん!!』
先程までの永明さんの前でのおしとやかさはどこへやら、ガハハと豪快に笑う良浜でした。
『ほら、ラウ姉、これが今度生まれた双子やで。麺とケーキって呼ばれてんねん』
『そらまた小麦粉のCMに出られそうな名前やな。よしよし、健やかにすくすく育って、ええ子らやなぁ』

“…あんたの所は、去年、悲しいことがあったもんなぁ…”
“うん…きっと、2人とも空の上で可愛く育ってくれてると思ってるんや…”

声には出さず、心の中でそんな言葉を交わし合う姉と弟なのでした。

 

608: 名無しさん? 2021/09/07(火) 05:41:38.58 ID:XpwnP9mZ0

5
見渡すと、今そばにいる子供たちが、中国に巣立った子供たちと楽しそうに話しています。
弟や妹たちが、良浜と雄浜のかけあいに大笑いしています。
良浜は、パーティが始まる前に飼育員さんに言われたことを思い出しました。

「ねぇ、ラウちゃん。今ここにいる子供たちも、中国に行った子供たちや弟妹たちも、すべての白浜で生まれたパンダたちを全員知ってるのは、永明と、ラウちゃん、あなた達だけなのよ。
ラウちゃんは白浜で最初に生まれた赤ちゃんで、次々と生まれてくる弟や妹や子供たちを全部見てきて、送り出してきた。
母であり、姉であり、この大家族の全てを知っているパンダなのよ、ラウちゃんは。
だから今夜は、家族みんなでパーティをさせてあげたいと思ったの。
今夜はたっぷりみんなとおしゃべりして、楽しんでね」

『…うん、みんな知ってる。みんな私の大事な家族や』
良浜の小さなつぶやきは、賑やかな笑い声に溶けてゆきます。
それを聞きながら、そして良浜はこんなことも思うのでした。
『誕生日は、その子を産んだ母親に感謝する日。この前の彩浜の誕生日の時、私もそう言って祝ってもらった。…そしたら、今日私がお祝いするのは…』
夜が更けてもパーティは続きます。
日本と中国、それぞれの場所に離れていても、白浜で生まれた子供は愛された記憶を胸にまた新たな土地で家族を作り、この大家族の思い出はこれからも続いてゆくのでしょう。
おしゃべりも、笑い声も満ちた幸せな部屋の中、良浜はそっと上を見上げて心の中でささやきました。
『お母ちゃん。空の上にいてる梅梅お母ちゃん。ラウは21歳になりました。
お母ちゃんの娘はますます元気で幸せな、お母ちゃんそっくりの美熟女やで。この素晴らしい家族を、安心して見守ってや!!』

おしまい

 

609: 名無しさん? 2021/09/07(火) 05:49:47.32 ID:XpwnP9mZ0

おまけ

「も~~~! 永明に金と銀のタケノコなんて吹き込んだの誰よ~! 永明が食べたがって困ったじゃないの。
というか、そんなタケノコないし! あったとしてもどうせ永明のことだから、両手に持ってクンクンしてから『どっちもイヤ』なんてポイッとしかねないと思うんだけど!」
ぶつぶつ文句を言いながら、ベテラン飼育員さんは倉庫で美味しそうなタケノコをせっせと選んでいました。
こんな夜中にご苦労様です。でも、文句を言いながらも永明さんの要求にはなるべく答えようとする優しい飼育員さんでした。
「えーっと、金でも銀でもないけど、これなら上物ね。永明も喜ぶかも!
…まぁ、今日は特に永明の願いはかなえてあげたいものね。ラウちゃんの誕生日だし、それに…」
積み上げた竹の山の中から柔らかく瑞々しいタケノコを見つけ出した飼育員さんは、それを大事そうに抱えて微笑みました。
「9月6日は、27年前に永明が中国からここに来てくれた日でもあるんだから。
あの永明がまだ2歳にもなってない子供だったなんて、不思議な気がするわね。
…永明、良浜、みんなここにいてくれてありがとうね」
そんな呟きが夜風に溶けて。心の中には、嬉しそうにタケノコを待っている永明さんの姿が浮かびます。
喜ぶ顔を早く見たくて、飼育員さんは足取りも軽く夜のブリーディングセンターに向かうのでした。

9月6日。
それは、家族の歴史が始まった記念日。

おしまい

 

610: 名無しさん? 2021/09/07(火) 05:53:04.57 ID:XpwnP9mZ0
日付が変わるまでに間に合いませんでしたが、ラウちゃんのお誕生日のお話でした。
ラウちゃん、21歳おめでとう!!
永明さんが白浜に来た記念の日に生まれたのも、何かの運命かもしれませんね。
これからもどうか元気で健やかに、可愛い肝っ玉母さんでいてくださいね。
今回も長々とすみません。今昔でした。

 

611: 名無しさん? 2021/09/07(火) 06:46:29.38 ID:fcg6cS1b0

おお!大作ありがとうございます!
らうちゃん本当におめでとう!

ああ、ゴワゴワ貸してください。。

 

623: 名無しさん? 2021/09/07(火) 12:30:46.99 ID:iBuO7H730
ラウママ幸せ者だねぇ~

 

622: 名無しさん? 2021/09/07(火) 11:38:48.71 ID:mr5BuNNw0
>>610
すごい~!!今昔さん、素敵な大作ありがとうございます!
ラウちゃんはいろんな意味で偉大だなぁと改めて思いましたし、永明さんが日本にやって来たのが9月6日と知り、やはりこのご夫婦は強いご縁で結ばれているのだなぁとも思いました
そしてとも子のファンなもので、最後「とも子キタ━(゚∀゚)━!!!」ってなりましたw

 

629: 名無しさん? 2021/09/07(火) 14:35:33.47 ID:oFYZxi/n0
>>622
「とも子キタ━(゚∀゚)━!!!」ワロタww

 

614: 名無しさん? 2021/09/07(火) 08:13:15.72 ID:g16eUgrD0

>>610
今昔しゃん素敵なお話ありがとシャン
はんと、こうやって世界中の家族と会話できたらいいですね

わたくちもゴワゴワの列にならびましゅ

 

615: 名無しさん? 2021/09/07(火) 08:16:40.73 ID:s+TTEnt70
>>610
朝から顔がぐしゃぐしゃです
あたたかいお話をありがとうございます
ゴワゴワ列待機します

 

616: 名無しさん? 2021/09/07(火) 08:34:42.48 ID://An/9y80

>>610
白浜の歴史に詳しい今昔さんがラウママの誕生日にあわせて何かお話投下してくださるのではと密かに期待してました

中国に渡った子達と白浜にいる子達との交流に笑顔と涙が…
嬉しいほっこり涙用に例のゴワゴワお願いします

 

618: 名無しさん? 2021/09/07(火) 08:51:19.46 ID:WTC3mFlo0
>>610
素敵なお話ありがとうございます
ラウちゃんはいつまでもかわいいお母さんパンダさんですね
陽ちゃん優ちゃんはお父さんみたいなイケパンにいつか会えることを願ってます