お話をひとつ、書かせていただきました。
梅梅保育園の作家さま、設定をお借りします。
梅梅先生と禄禄仔ちゃんの内緒のおはなし
『あら、禄禄仔ちゃん、何してるん? お母さんを見てるの?』
ふわふわの小さなお尻が雲の中からのぞいているのを見つけて、梅梅園長先生はにっこり笑って声をかけました。
その言葉に、もぞもぞと短いシッポが動いて、黒ソックスの短い足がヨイショヨイショと踏ん張って、雲の中からズボッと抜け出た子パンダが、
『めいめいせんせい、こんにちは! うん、ぼく、ママをみてたの!』
鼻の頭にちっちゃな雲をくっつけたまま、元気な声でご挨拶をして笑いました。
お空の上の梅梅保育園には、たくさんの子供たちが暮らしています。
子供たち同士でコロコロ転がって遊んだり、じゃれあったり、仲良くオモチャやおやつを分け合ったり、
先生や世話役の少し大きいお兄さんお姉さんたちにお世話してもらったり、寝かしつけてもらったり。
毎日が賑やかで楽しいこといっぱいで、子供たちは大忙しで寂しいと思う暇もないほどです。
でも、時々はママのこと、パパのこと、家族のこと、地上に残してきたお友達のことを思い出すこともありますから、
そんな時は子供たちは雲の中にもぐりこんで顔を出し、大切な誰かの姿を探すのでした。
この子パンダ、禄禄仔(ルールーザイ)ちゃんも、この時そうして地上を眺めていたのです。
『ママはねぇ、おにわにいたよ』
『ママが見られて良かったなぁ。地上を見るのは楽しいやろ。先生もよく見てるんよ』
『うん、ママをみてるのたのしいの。めいめいせんせいは、だれをみてるの?』
梅梅先生は優しく禄禄仔ちゃんを抱き上げました。
暖かくて大きな胸の中で、禄禄仔ちゃんは居心地良さそうに収まって梅梅先生を見上げます。
『先生は、中国にも、日本の白浜というところにも家族がおるんよ。そやからあちこち見るところがあって忙しいんや。
禄禄仔ちゃんのママがいる中国は、もう桃の花も終わった頃やねぇ。白浜はちょうど今、桜が散り始めて桜吹雪で綺麗なんよ』
『さくら? さくらふぶき? それなぁに?』
『桜は、とっても綺麗な綺麗なお花なんや。枝にピンクの雲がかかったようにいっぱいのお花を咲かせて、風が吹くとはらはらこぼれるように花びらが舞って、
夢の中のように美しいんやで。禄禄仔ちゃん、ちょっと先生の家族のいるところ見てみようか?』
『わぁ、ぼく、みてみたい!』
『うんうん、そしたらこっちにおいで』
梅梅先生は大きな手でモフモフと雲をかきわけました。
そして二人は肩を並べて、雲の隙間から地上を覗き込みます。
するとそこには、青い海に小さな飛行場、いくつもの建物と動物達がたくさんいるサファリ、イルカがジャンプするプール、
ゆっくり回る観覧車が見え、やがて緑の芝生に親子のパンダの姿が見えて、その近くで美しい花を咲かせた木の枝から降り注ぐ薄ピンクの花びらが見えました。
と、その花びらのひとひらが、芝生を元気に走ってきた子供のパンダの鼻先にピトっ、とくっつきます。
子パンダが目を丸くして立ち止まり、くしゃん! とくしゃみをすると、花びらはまた舞い上がり、風に乗って飛んでいきます。
子パンダは花びらを追ってまた走り出します。
その後ろで、お母さんらしいパンダが優しい目で子供を見守っていました。
やがて子パンダがお母さんのところに戻ると、お母さんはじゃれつく子パンダを抱き寄せて胸に誘導してミルクを飲ませ始めます。
春の暖かな日差しが降り注ぎ、幸せそうな親子の風景でした。
『あの子は、楓浜、って名前なんや。先生の孫娘で、禄禄仔ちゃんより少しお姉さんの年やね。お母さんは、先生の娘の良浜や』
『ふうひんちゃん、おはな、おいかけてたねぇ。ママはニコニコしてたねぇ。さくら、きれいね』
『そうや、桜は日本のお花や。先生も白浜にいた頃は、毎年、あそこでお花見してたんやで。桜を眺めながら食べる竹は格別やったわ』
『ぼくもおはなみしたい! …ママといっしょにおはなみできたらいいのに。ふうひんちゃんはママとおはなみして、いいねぇ』
『そうやねぇ…でもね、禄禄仔ちゃん。楓浜ももうすぐ独り立ちする日が来るんやで』
梅梅先生の言葉に、禄禄仔ちゃんは目を丸くしました。
『ふうひんちゃん、ママとおわかれなの? あんなにたのしそうなのに? ふうひんちゃん、かわいそう…』
悲しそうな目で地上を見下ろしている禄禄仔ちゃんを、梅梅先生はまた優しく抱き上げました。
『そう。楓浜も良浜も可哀想や。楓浜はまだ知らへんけど、良浜はもう気付いてる頃やろ。きっと寂しい思いをしてると思う。
そやけどね、パンダに生まれた以上、子供がお母さんから離れる日は必ず来るんや。早かったり遅かったりいろいろやけど、
どんな親子にもその日が来る。とても辛い日やけど、大切な日や。その日から、親は子供が強く生きていくことを信じて心の中で見守り、
子供は親が教えてくれたことを思い出しながら一生懸命に生きてゆく。…それでね』
梅梅先生は静かなまなざしで禄禄仔ちゃんの目を見つめながら言葉を続けました。
『いつか…ずっと先のことやと思うけど、いつかは親子はまた会える。この空の上で。家族がもう一度家族に戻って、みんなで笑い合って、
きれいなお花も一緒に見て、一緒に時を過ごして、幸せに暮らせるんや。禄禄仔ちゃんももう知ってるやろ。ここはそういう場所や』
『うん…うん、ぼく、きっとまたママにあえるね。ずっとさきだけど、ママがたくさんたくさんしあわせにくらしたあと、きっとあえるね』
『そうや、その通りや。禄禄仔ちゃんはほんまに優しいええ子や。寂しくても、ママが来るまで待ってくれるんやな』
『うん、ぼく、まいにちたのしいもの。ここで、ずっとまっていられるよ』
梅梅先生は、禄禄仔ちゃんをぎゅっと抱きしめました。
禄禄仔ちゃんは目を閉じて大きな胸に顔をすりよせ、少しして目を開けて、それから梅梅先生の耳元まで身を乗り出しました。
『あのね、せんせい。ぼく、さっきママのひとりごとをきいたの。ママ、ぼくのことはなしてたの。…ないしょにしてくれる?』
『もちろん、内緒にするよ』
『ママはいったの。あのこはおそらでたのしくくらしているかしら、って。とってもさみしいって。
それでね、ママはね、ぼくのなまえをよんだの! ママはぼくに、おなまえつけてくれてたんだよ!』
『あらまぁ、ママは禄禄仔ちゃんの名前を考えてくれてたんやね!』
そうです。実は、禄禄仔という呼び名は正式な名前ではありません。
ママが禄禄さんという名前なので、その子供という意味の言葉なのです。
禄禄仔ちゃんは正式な名前がつけられる前に、お空に来てしまいました。
でも本当は、ママの禄禄さんは以前から心の中で子供につける名前を考えて決めていたのでしょう。
お空に行ってしまった我が子を思う時、禄禄さんは、自分で考えたその名前で呼びかけていたのでした。
『ぼく、ママがおなまえつけてくれて、うれしかったの。ぼくとママだけのひみつにしようとおもったの。
でも、めいめいせんせいにはおしえてあげる。だって、ママがきたとき、めいめいせんせいが、ぼくのところにつれてきてくれるんでしょ?』
そして禄禄仔ちゃんは背伸びして梅梅先生の耳元に、こしょこしょと何かささやきました。
梅梅先生の目がきゅっと細まって優しい笑みが浮かびます。
『…そうなんや。まぁ、なんていい名前やろ。禄禄さんが一生懸命考えた名前なんやね。分かりました、禄禄さんが訪ねてきた時、
必ず先生が案内してママに会わせてあげる。ママはきっと、あの子はどこにいますか~、って真っ先に探すはずやものね』
『ありがとう、めいめいせんせい!』
『どういたしまして。はい、約束や』
『うん、やくそくね!』
二人は楽しそうに笑って、大きな手と小さな手でゆびきりげんまんしました。
5
『さぁ、そろそろみんなの所に戻ろうか。もうおやつの時間や。今日は新星さんが美味しいタケノコおはぎを作って持ってきてくれるって言ってたで』
『わぁい、おやつおやつ~!』
二人が梅梅保育園の遊戯室に戻ると、仲良しの星晴、順順、溜溜がそろって声をかけます。
『どこいってたの、おはぎ、るーるーざいのぶんも、たべちゃうよ~!』
『たべちゃうよ~!』
『はやくおいでよ、おいしいよ~!』
遊戯室の入口で、禄禄仔ちゃんは、きらきらした瞳で梅梅先生を見上げました。
梅梅先生は優しく頷き、禄禄仔ちゃんの頭をポンポンと撫でて、
『さぁ、みんなと一緒におやつ食べて、それからお昼寝して、またいっぱい遊ぶんや。きっとママにも伝わる。子供の幸せが、ママの幸せや!』
そう言って、小さなお友達が待つ輪の中に、小さな背中を押しやります。
はずむように駆けて行ったその背中は、すぐに楽し気な笑い声の中に溶け込みました。
梅梅先生はしばらくそこに立ち、子供たちでいっぱいの梅梅保育園を誇らしげに眺めました。
口のまわりをベタベタにしておやつにかぶりつく子、隣の子の方が大きいと文句を言う子、お友達と仲良くおしゃべりしながら食べる子、
そして小さい子の顔を拭いてやり、ミルクを飲ませ、喧嘩を仲裁する少し大きな子供たち。
お空の梅梅保育園は、今日も、明日も、あさっても、ずっとずっと楽しく賑やかな子供たちの園なのです。
桜の花は美しい桜吹雪になり、やがて藤が咲き、つつじが咲き、薔薇、芙蓉にひまわり、ダリア、コスモス、山茶花、梅、桃…
そしてまた桜の花。
季節はめぐり、繰り返し、その中できっといつかまた大切なひとたちと美しい花を見ることができる。
梅梅先生は、そのことをよく知っているのです。
おしまい
とっても素敵なお話をありがとシャンです
お空の上から見守っててね
わたくしもゴワゴワをお借りしないとグスン
>>673
たまに梅梅保育園を書いてる者です
素敵なお話ありがとうございます
梅梅保育園は自分の他にも書いてる方がいらっしゃいます
設定から大きくずれるようなことがなければ、自由に書いてくださっていいと思いますよ
またお話を楽しみにしてます
梅梅保育園の作家さんありがとうございます
何人かの作家さんが書かれているんですね
いつも癒しを与えてくださり本当にありがたいです
>>673
素敵なお話ありがとうございます!
前にも書いたのですが、禄禄ママの赤ちゃんが亡くなったとき本当に辛くて辛くて
またあの年はお話にも出てくる星晴ちゃん、小Y頭さんの順順ちゃんと溜溜ちゃんも亡くなり本当に悲しい年でした
それをこうして禄禄仔ちゃんやみんなが梅梅保育園で楽しく、そしてお腹いっぱいたべたりみんな一緒に遊んだりして過ごしてる様子を書いてくださり心が癒えました
何より小さい仔たちがお空の上で幸せに過ごしてる、そうであって欲しいことが書かれていて
何よりのあの子たちの供養にもなっているのだと思います
作家さん、素晴らしいお話をありがとうございました
禄禄仔ちゃんの事故、とてもとても悲しく胸を痛めていました
でも梅梅保育園でこうして楽しく過ごして時々ママの姿を見ていると思うと救われました
それから子供たちの仕草がかわいくて…何度も繰り返して読んでしまいそうです
作家さん、素敵なお話ありがとうございました
なんて可愛くて優しくて素敵なお話!
禄禄さんが我が子にお名前をつけていたというくだりで涙が出ました
禄禄仔ちゃんにとって何より嬉しいプレゼントだったと思います
作家さん、どうもありがとう
禄禄仔ちゃんの温かいお話ありがとうございます
温かいお話ありがとうございます
作家さん達に何もお返しが出来ないのがもどかしいです
ゴワゴワは洗って干してあるので、あとはプミちゃんよろしくね
ゴワゴワお借りします