パンダ記念日 ~母の日の子守歌 前編
【母の日おめでとう! お母ちゃん、いつもありがとう!】
紙からはみ出しそうな元気いっぱいの大きな文字が、壁にかかったお祝いの垂れ幕に踊っています。
母の日の夜。白浜のアドベンチャーワールドのブリーディングセンター。
主役の良浜は、子供たちから次々と野の花やらカレーうどんのレトルトやら畑でとれた野菜やら肩叩き券とマッサージ券のセットやら…たくさんのプレゼントを渡されてニコニコです。
今日は朝から飼育員さんたちから人参で作ったカーネーションを10本もプレゼントされ、お祝いのごちそうを食べてお客さん達に祝ってもらい、
夜になってからは中国に渡った子供たちともネットをつないで、こうして永明さんと子供たちが集う母の日パーティを開いてもらってご機嫌なのです。
今夜はそれに加えて、上野のパンダファミリー、神戸のタンタンともネットをつないでもらいました。
3つのファミリーがモニター越しに顔をそろえて、賑やかに母の日の夜を過ごしているのです。
『今年はシャオとレイも一緒にお祝いするでしゅよ。園のみんなも一緒にパーティでしゅ』
モニターの中で目をきらきらさせながらそう言うプミの後ろからは、パォンとか煮卵とかいろいろな声が響いて盛り上がっているようです。
『みんなでケーキやごちそうを作ってくれたのよ、ウフフ』
楽しそうに笑うシンコさんは【今日の主役】タスキを肩にかけて、頭にはクラッカーの花吹雪がくっついています。
本当に盛り上がっているようです。
『タンタンも今夜は「茶館おしゃべりタンタン」を開けて、みんなでパーティしてるなの。エディブルフラワーのカーネーションの花びらを乗せたクッキーをどっさり焼いたなの』
別のモニターではタンタンがそう言ってにっこりしています。
これもまた背後からはいろいろな動物の楽しそうな声が聞こえ、合間にがちょうのがっちゃんのクワァァ~~!!という鳴き声が響き渡ります。
『タンタンさんは相変わらず働き者やねぇ。あんまり疲れないようにしてな』
良浜がねぎらうと、タンタンはまたにっこりして、
『みんな手伝ってくれるから大丈夫なの。それにタンタンもお祝いしてもらってるなの。
今日、お店を開けたら、出窓のローズマリーの鉢植えの横に美味しいフルーツポンチと、可愛い撫子の花が置いてあったなの。
きっと妖精さんたちがタンタンにプレゼントをくれたなの』
そう言うと、サトウキビジュースにたくさんのフルーツが入ったスイーツと、コップに活けられたピンクの撫子の小さな花束を大切そうに見せました。
『へぇ、妖精さんが。不思議なこともあるものやねぇ』
『可愛らしいプレゼントねぇ。タンタンさんにぴったり』
感心する良浜とシンコさんの後ろで、プミとピキプルがそっと頷き合います。
“ネーネとオトトのプレゼントでしゅね”
“ネーネがおやつを作って、オトトがお花を探して摘んできたんやな”
“すてきなプレゼントでちゅ、プルプル”
ネーネとオトトは、幼いうちにお空に行ってしまったタンタンの子供たちです。
プミピキプルの3人は、以前、大人には見えないネーネとオトトと出会い、それから秘密のお友達になっているのでした。
でも、良浜にはどうしてタンタンに妖精さんからのプレゼントがあったのか理由が分かりません。
分からないけれど、タンタンも母の日をお祝いしてもらっていたことを知って自分のことのように嬉しくて、良浜の胸がふわりと暖かくなりました。
『…母の日って、ほんまにええもんやね。ほんまに嬉しい、楽しい日や』
心にいっぱい満ちた幸せな気持ちが、思わず口からこぼれたようにつぶやいた良浜の言葉に、シンコさんとタンタンは微笑んで頷きます。
良浜の隣にいた永明さんが優しく肩を抱いて、
『ほんまに、お母さんというのは偉大なものや。ラウちゃんもシンコさんもタンタンさんも。今日はその偉大なお母ちゃん達をねぎらう日や。
思う存分、楽しんでや。母の日はまだまだ終わらへんで!』
3.
そう言った言葉を合図のように歓声が上がり、白浜でも上野でも王子でもパーティは再び盛り上がり、
皆は口々に『母の日おめでとう』『お母さんありがとう』と言いながら楽しく飲んで食べておしゃべりを始めました。
良浜の周りも、桜浜桃浜に結浜、ピキやプルが取り囲み、中国からの他の子供たちもモニター越しにお祝いの言葉をかけてきます。
賑やかさを増したパーティに、馴染みの飼育員さんが特別に美味しい竹や筍などの御馳走を追加で運んでくれました。
良浜は嬉しそうに頬張り、子供たちの言葉に答えながら、やがてそっとプルの手を引き寄せると視線を合わせて言いました。
『プル子、飼育員さん達から聞いたで。プル子が独り立ちしてから、ちゃんと一人でご飯も食べてるし、お客さんたちにも愛想よく、ええ子にしてるて。よう頑張ってるんやな、偉いな』
『あいっ、プル、だいじょうぶでちゅ。さくらおねえちゃんや、ももおねえちゃんや、ゆいおねえちゃんがやさしくしてくれまちゅ。さみしくないでちゅ』
そう言いながらも、プルはちらっと良浜の胸元を見ました。
本当は、すぐに良浜の暖かい胸に抱きつきたいのです。甘えてミルクをねだりたいのです。
けれども、独立したのだからと我慢しているプルの気持ちが、良浜には痛いほど分かりました。
良浜も、抱きしめたい気持ちやミルクを飲ませてあげたい気持ちをずっとこらえているのです。
今はただ小さなその手に手を重ねるだけで、溢れる思いを抑え、良浜は周りを取り囲む子供たち…モニター越しの遠く離れた子も含めて、それぞれに思いをかけた我が子たちの顔をゆっくりと見渡しました。
大きくなった子供たちでも、良浜の目には幼い頃の顔が重なって見えます。
思い出をたどると、その幼顔に、更にそれぞれの子供たちが独立した日の様々な思い出も重なるのでした。
たくさんの子供たちを育て、愛し、思い出を積み重ねてきた…そう思った時、良浜の口からぽつりと言葉がこぼれました。
『……お母ちゃん』
4.
そのつぶやきは、本当に小さなつぶやきだったので、気が付いたのは良浜のすぐ後ろにいたベテランの飼育員さんだけでした。
「ラウちゃん、どうかした?」
そう尋ねられて、良浜は慌てて首を横に振りました。
『なんでもあらへんよ、とも子姉さん。ちょっと、今日はみんなからお母ちゃんお母ちゃんて呼び続けられて、なんかその言葉が移っただけや』
「そう…?」
この飼育員さんは、良浜がこの白浜で生まれた時から知っています。
白浜で最初に生まれた子供である良浜は、母親の梅梅さんから生後3か月で離されました。
その頃はその育児方法が普通だったからです。
親子が1年以上一緒にいられるような方針になったのは、良浜の次の雄浜からでした。
なので、良浜にとっては飼育員さん達は保護者であり、特にこの古参の飼育員さんはずっと良浜を見ていてくれた姉のような存在なのです。
『そうや、なんでもあらへん。…わぁ、この筍、めっちゃ美味しいやん。もっと持ってきてや』
はぐらかすようにそう言って筍を頬張る良浜の横顔を、飼育員さんはしばらくじっと眺めていたのでした。
続く
今昔さんからも母の日のお話きてたーーー
それぞれのお母さんの幸せそうな姿にほっこり
ネーネとオトトとプミピキプルの秘密の関係にもウルウル
みんな優しくて素敵な世界だなぁ
続きも楽しみにしています
>>522
今昔さん!
いつも素敵なお話ありがとうございます
今回のお話も楓ちゃんが抱きついてミルクを飲みたいのを我慢しているところで涙が溢れてきてしまいました…
楓ちゃんがんばってるね
また続きも楽しみにお待ちしております!
(ベビールームでちた)
>>526
今昔さん、母の日の素敵なお話ありがとうございます!
私もプルちゃんがママに甘えたいのを我慢しているところで泣きそうになったのですが、電車の中で読ませていただいたもので涙と鼻水を必死に堪えました…w
お話の続き楽しみにお待ちしてますね!
そしてベビールームさんのお話も楽しみです
ベビールームさんの良きタイミングで披露してくださるのを心待ちにしております
感動したお話しでした
※見出し画像にお借りしました。ありがとうございます?
素敵な母の日のお話がたくさん読めて、嬉しくてホクホクしています。
洞窟カフェもタンタンさんの夢の中も、とてもとても幸せそう。
ベビールームさんのお話も、ぜひまた読ませてくださいね。待っています。
ご無沙汰しております。今昔です。
日付が変ってしまいましたが、私も母の日の話を書かせていただきました。白浜のグレートマザーをお祝いしたくて書いた話です。
(名無しでは時々書き込んでいたのですが、まとめてくださるわいわいさんが分かりにくいといけないので、シリーズもののタイトルをつけた話では名乗らせていただきますね)
まだ途中までしか書けてなくて、とりあえず前編ということで投稿します。よろしくお願いします。