（お話）【ちょうど一年前に】-2022/06/22(水)

【ちょうど一年前に】

あれはちょうど1年前の事だった。
つまは、まるでスーパーへ夕飯の買い物に行くかのごとく｢じゃ、行ってくるわね｣と、まあるい笑顔でタクシーに乗り込んだ。
コロナ禍で、家族の面会も制限されている中、お腹の大きいつまはたった1人で産院へ向かったのだ。

｢もう3度目なんだから、お茶の子さいさいよ。リーくん心配しないで ｵﾁｬｽﾞｽﾞｰ｣
｢産まれたら連絡してもらうから、後で荷物だけよろしくね｣
それだけを託されたボクは、気が気じゃなくて、むすめと自分の夕飯の支度さえままならないほどオロオロしていた。

｢とうしゃん、産むのはかあしゃんでしゅ。とうしゃんがオロオロしてもダメでしゅよ。ドンと構えていてくだしゃい｣
むすめに諭されてボクは、しっかりしなきゃと頭をクシ…自分に喝を入れた。
｢そうだ、ボクは上野家の大黒柱なんだ。これから家族が増えるんだからね。しっかりしなきゃ｣
｢とうしゃん、その意気でしゅよ ﾌﾝｯ｣
この4年の日々で、むすめもたくましくなったものだ。

そして、日付も変わって6月23日になった。連絡は未だない。

｢とうしゃん、かあしゃん今頃頑張ってましゅかね…｣
｢そうだね。今は無事にプミちゃんの弟か妹が産まれてくることと、シンちゃんの無事をお願いしようね｣
｢あいっ、もうすぐプミもおねえシャンでしゅ｣

気が張りすぎたのか、むすめはボクの隣でウトウトしだした。そっと寝かせておこ…う……ｺｸﾘ

♪ﾌﾟﾐﾌﾟﾐﾋﾟｷﾋﾟｷ～ﾌﾟﾐﾌﾟﾐﾋﾟｷﾋﾟｷ～

けたたましいスマホの着信音がなった。ハッ！ボクもすっかりうたた寝してしまったのだ。画面を確認、産院からだ…無事に産まれたのか！？

｢リーリーさんですか？こちら、上野動物産院です。無事に産まれましたよ｣
｢うわぁ～！ありがとうございます。お、お、お、男の子ですか！女の子ですか…？ ﾄﾞｷｶﾞﾑﾈﾑﾈ｣

｢リーリーさん…おめでとうございます。なんと…男の子女の子両方ですよ｣
｢えっ…両方！？まさか双子ですか！？｣

｢日付が変わって1時3分に1頭目が無事に産まれましたの。そしたらまだ奥様がウンウン唸っていて…私達ももしやと思ったら大正解。2時32分に2頭目の赤ちゃんが。母子ともに健康ですよ｣

｢うわぁーん！看護師さんありがとうございます。ではあす、朝一番でむすめと面会に行きますので、それまでどうぞつまと子供達をよろしくお願いします｣
｢かしこまりました。ではリーリーさんもお嬢さんも、ゆっくり休んでくださいね｣

｢プミちゃ…プミちゃん…｣

うーん、なんでしゅか。なんか遠くで名前を呼ばれていましゅ。幻聴でしゅ ｸﾞｩ

｢プミちゃん！赤ちゃん産まれたんだって。｣

｢えっ！ほんとでしゅか！？｣
むすめはガバッと飛び起きた。
｢弟でしゅか？妹でしゅか？？｣
｢それがね………男の子と女の子の双子だって｣
｢どひゃー！そ、そ、それはなんとめでたい｣
｢あした、朝一番で会いに行こうね｣
｢あいっ、行きましゅ｣
｢じゃあもう今日は遅いから、ちゃんとお布団で寝ようね｣
｢あいっ、とうしゃんおやすみなしゃい｣

結局、興奮しすぎて一睡もできなかった父と娘であった。

夜が明けて、朝が来た。

興奮しすぎた父とむすめは、シンコさんの荷物を持って、産院へ足を運んだ。

｢おはようございます。上野シンコの家族です｣
｢はい、こちらですよ｣
病室に通されたボクとプミちゃんは、ニコニコまあるい笑顔で迎えてくれたわがつまと、ベビーベッドに横たわる2頭のピンクピン太郎くんとピン子ちゃんと対面した。

｢シンちゃん、お疲れ様。頑張ってくれてありがとう｣
｢かあしゃんおつかれシャンでちた。シャン、いっぺんに弟と妹のねえねになったんでしゅね ｵﾒﾒｷﾗｷﾗ｣
｢そうよ。リーくん、シャン、これから忙しくなるわよ～！なんせ1度に2頭の赤ちゃんのお世話だからね｣

｢プミもこんな時代があったんでしゅかねぇ～ ｼﾐｼﾞﾐｼｼﾞﾐ｣
｢そうだよ、日本中のみんなが幸せな気持ちになったんだ。もちろんボクもシンちゃんもね｣
｢プミもお世話頑張りましゅ｣
｢あらあら、頼りになるお姉ちゃんね ｵﾏﾝｼﾞｭｳﾊﾟｸﾘ｣

2021年6月23日、3番目と4番目の子供が産まれて、ボクらは6人家族になった。

それはちょうど1年前のお話。(ラミネートの突発的な書き込み失礼します)