下町の姫に捧ぐ一皿 前編
「食欲ない時に食べるもの、かあ」
珍々軒の大将はレバニラを炒めつつ、天井を見上げてうーんと唸りました。
「まあ手っ取り早いのは冷たい麺類なんだろうな」
「でももう、おそうめんも冷やし中華も飽きちゃったって言ってて」
小雅ちゃんはカチャカチャと洗いものをしつつ、大将の顔を見上げました。
ランチタイムのピークを過ぎて、ようやく落ち着きはじめた珍々軒です。
客足と反比例して、まもなく本日の最高気温を更新する真夏日の午後。
小雅ちゃんは大将に、食欲不振のお友だちのことを相談していました。
「食欲増進しようってだけなら、このレバニラなんかテキメンなんだが」
鉄のお鍋と鉄のお玉が、カンッ!と痛快な音をたてました。
「ある程度の食欲がなきゃあ、なあ。はいこれテーブルのお客さんね」
「はーい!」
これでオーダーは一段落。大将は冷蔵庫を開けて、再びうーんと唸りました。
「何かないか、何かあるだろ」
小雅ちゃんの言う「お友だち」とは、間違いなくシャンシャンのことでしょう。
シャンシャンと言えば、シャンシャンのお爺さんは珍々軒の常連客でした。
陽気な爺さんだと思っていたら大使館から迎えが来て、あの時は仰天したものです。
大将はクスッとひとつ思い出し笑いをして、冷蔵庫から何かを取り出しました。
(梨)
下町の姫に捧ぐ一皿 後編
夕方になりました。とは言え日暮れはまだまだ遠く、ただただ蒸し暑い夕方です。
他の仕事を終えた小Yさんが、珍々軒へ出勤しました。小雅ちゃんと交代です。
「ご苦労だったね小雅、ありがとうね」
「うん!忙しかったけど楽しかったよ」
小雅ちゃんはエプロンを小Yさんに渡しました。文字どおりバトンタッチです。
「母ちゃん、ちょっとだけシャンちゃんとこ寄ってもいい?」
「気をつけて行くんだよ、皆さんによろしくね」
「ああちょっと待った小雅ちゃん、これさあ」
大将は小雅ちゃんに、ふたつの小さな包みを手渡しました。
「お友だちに、ちょっとつまんでごらんって渡してくんないかな」
「お友だちに?いいんですか?」
「きゅうりのぬか漬けと、こっちがメンマ」
「ありがとうございます!これから行くところなんです」
「生野菜とは違う香りと食感で、気分が変わるといいんだけど」
「分かりました」
「きみのじいじが好きだったメンマだよって、そう伝えて」
「シャンちゃんのことだって分かってたんですか?すごーい!」
小雅ちゃんからの尊敬のまなざしを背に受けて、大将は休憩に入りました。
しばらく休んだら、再び暑い厨房に立って夜に向けての仕込みが始まります。
『孫は宝ものじゃよ、日本にそういう歌があるじゃろ』
『あの観覧の大行列よ、ウチの孫は姫さまのようじゃ』
孫自慢の止まらない爺さんを思い出し、大将は烏龍茶のグラスを軽く掲げました。
(梨)
梨男さんの新作きたー!
大将GJ!そしてじいじの孫自慢泣ける…(ノω・、)
小雅ちゃんの顔見て大将の手料理食べたらきっとシャンちゃんの食欲も戻って元気になるね
梨男さんの新作きたーーーー
小雅ちゃんのかわいらしさが伝わってくる文面に微笑ましウルウルしてます
働き者で友達思いで母ちゃん思い
ホントいい子
じいじを思い出して鼻の奥ツーン
梨男さん素敵なお話ありがとうございましゅ ゴワゴワ
続き楽しみにしてます
※見出し画像にお借りしております。ありがとうございます🐼