パンダ記念日 ~雄浜のバースディとラウ姉ちゃん
『どうや、雄浜! 元気しとるんか? あんた今日誕生日やったなぁ。21歳か、もうええおっちゃんやなぁ、あははは!』
『おおきに! ラウ姉も元気そうやねぇ』
ここは中国、成都。
日本とネットでつながったモニターから響き渡る明るい笑い声に、雄浜はニコニコと答えました。
今日は浜家の長男にして、今や中国で子沢山パパとなった雄浜の誕生日。
姉の良浜がお祝いを言うためにテレビ電話をかけてきました。
『しかし早いもんや。あの赤ちゃん返りしてた雄浜が21歳とはなぁ。ほんまにええおっちゃんや』
『あはは、ラウ姉の方が年は上やで』
『私みたいなのは美魔女て言うんや。今日は誕生会開いてもろたんか?』
『うん、楽しかったよ』
親し気な軽い調子で会話が交わされ、ここで良浜は一息つきました。
『そうそう、雄浜も聞いてると思うんやけど、うちの桜と桃がもうすぐそっちに行くことになったんや。
もうあの子らもええ娘になったしな、そろそろやと思てたんや。立派に育ってくれて誇らしいことや』
雄浜は頷きました。
『うん、聞いてるよ。ほんまに美人双子やねぇ。こっちでも人気者間違いなしや』
『まぁ、なんや、そういうことやから、あんたもちょっと気にかけてやってくれるか? なにせ美し過ぎるのも罪やからな。私みたいに』
『うんうん、悪い虫が近寄らへんように僕がよく見張ったるよ。ええお婿さんも探したる』
それから二人は、しばらく楽しそうに話し込みました。
良浜の口からは、桃が、桜が、と、もうすぐ中国に行く予定の娘たちの名前が何度も出て、繰り返し雄浜に娘たちのことを頼むのでした。
そう。娘たちのことだけを。
少しして、良浜はふっと黙りました。
雄浜も少し黙って、そんな姉の顔をモニター越しに眺めて。
それから優しく笑って口を開きました。
『…なぁ、ラウ姉。これ、今まで話したことないけどな、僕、2歳の時に日本から中国に来たやろ。
で、それから何年かして少し大きくなった頃、6歳やったかなぁ、ある日めっちゃお腹痛くなってな。
ほんまに辛くて、飼育員さん達も大慌てして、もうダメかもしれへんってなって』
『えっ! 雄浜、あんた…そんなん一言も言わへんかったやんか!』
『まぁ、パンダによくある病気や。…お母ちゃんも同じやったね』
良浜は息を飲みました。
梅梅の懐かしい顔が目に浮かびます。
『そんな…そんな、雄浜、大丈夫やったんか?!』
『大丈夫やったから、今こうして子沢山パパになってるんやん。すぐ園内の病院に運ばれてな、いろいろ治療受けたんやで。
それですっかり元気になったんや。しばらく剃られたお腹が寒かったけどな』
にこやかな雄浜に、良浜は安堵のため息をつきました。まだ胸がドキドキしています。
そんな良浜を見つめながら、雄浜は静かに言いました。
『そやからな、お父ちゃんの老後も大丈夫や』
『……』
『そっちの飼育員さん達も、そりゃ頑張って僕らパンダのことを見てくれてる。
でも中国はパンタの医療が進んでいるし、そのための設備もしっかりしてるんや。
きっと、お父ちゃんを元気に、もっともっと長生きさせてくれる。ラウ姉、僕の言うこと信じてな』
『……うん』
良浜は、ぽつりと返事しました。
頷いて、もう一度、うん、と言いました。
『うん、わかった。それに、私は…きっとまた永明さんに会えるって思ってるんや』
『そうやね、また会えることもあるよ』
『そうや。私は生まれた時から、永明さんと一緒にいたんやから。永明さんと、ずっと』
しばらくは辛くて言えなかった大切なひとの名前を重ねて口にする良浜を、雄浜は穏やかな顔で見つめていました。
3
『そうそう、ラウ姉。さっき、下の3人娘たちからもテレビ電話来てたで。結、彩、楓ちゃん達から。
楓ちゃんは“さみしいでちゅ”って泣いて、結ちゃんは、キン…なんだっけ、キンプ…キンプリン?の脱退のショックで体重が250gも減って、
そこにこのニュースで更にショックで250g減って、でも飼育員さんからは“誤差の範囲や”言われたって泣いて、
彩ちゃんはね、“ここはうちがしっかりせなあかんのや。もっと儲けて中国まで会いに行く旅費を稼ぐんや”って言いながらミーミー泣いてて、
そうして泣きながら、みんなで“雄浜兄ちゃん、お父ちゃん、桃姉、桜姉をよろしくお願いします”って僕に言うんや。
ラウ姉のことも心配してたで。きっと自分たちよりもお母ちゃんが辛いはずや、って』
雄浜の言葉に、良浜は驚きました。
『あの子らが、そんなこと…。それにしてもあの子ら、今日があんたの誕生日って知らんかったんやろ。堪忍な、誕生日に湿っぽい話聞かせて』
『何言うてるの。可愛い姪っ子達の顔が見られていい誕生日プレゼントやったよ。ねぇ、ラウ姉、家族っていいね』
雄浜の言葉が、良浜の胸に染みてゆきます。
家族って、いいもの。
出会いの嬉しさも共に生きる喜びも、別れの悲しみも全部…家族がいるからこそ味わうものなのだと良浜は思いました。
『…大家族やなぁ、私ら』
『大家族になったねぇ、僕ら』
そうつぶやく二人の胸の中に、懐かしい母の姿やたくさんの弟たち、妹たち、子供達、桜と桃の花のような美しい姉妹…そして。
そして、大家族の礎を築いた彼の姿がゆっくりと横切っていきます。
長い前足を持て余すような、しならせるような独特の歩き方で、悠然と芝生を渡ってゆくあの姿。
桜が咲き、つつじが咲き、夏の日差しや秋の風や冬空にそびえる観覧車を眺めながら過ごしたあの庭を、あの長い月日を、
彼はきっと、ずっと忘れないでいてくれるでしょう。
『…なぁ、雄浜。おおきにな。そして、お誕生日おめでとう』
そう言って、少し考えた良浜は、続けてこう言いました。
『雄浜、あんたはほんまに永明さんにそっくりや』
雄浜はにっこり笑い、そして、こう答えました。
『おおきに。世界で一番嬉しい褒め言葉や』
そんな、雄浜の誕生日でした。
おしまい
今昔さん、朝から素敵なお話ありがとうございます
頼もしい浜家の長男雄浜が中国にいるんだから安心して送り出してあげなきゃなんですよね
このニュースで気持ちがソワソワと落ち着かなかったのですが、このお話のおかげで前向きになれました
ピキちゃんの強がりながらのミーミーかわいいな
結ちゃんの誤差の範囲とピキちゃんのミーミー泣く姿に貰い泣きしました
皆が中国でも幸せに暮らせますように
今昔さんあったかいお話ありがとうございます
今昔さんお帰りなさい
私達は永明さんの返還を寂しく感じるけど、日本に送り出した大事な坊やがこの年齢まで元気に過ごして帰って来ると喜んでいる中国の飼育員さんがいるんですよね
結、彩、楓ちゃんが泣いてる理由にしんみりしたりクスッとしたり素敵なお話をありがとうございました
それにしても規制の基準て何なんでしょう困りますね
今昔さん、おかえりなさい
結ちゃんの体重話のところで笑っちゃって一旦涙が引っ込みましたがw、涙涙で読ませていただきました
そうですよね、向こうは医療の設備も整ってるし素敵な婿候補も豊富だし、いいことしかないと思って前向きに受け入れようと思えました
あとはラウちゃんが少し心配だけど…
可愛い三姉妹がそばについてるからきっと大丈夫ですね
永明さんは、中国に行ったら雄浜くんとお酒を酌み交わしながら色々お話しそうですね
桜姉と桃姉も素敵なパートナーが見つかるといいですね
中国に行っても家族がたくさんいるから大丈夫だと信じてます
ピキ社長はミーミー言いながらしっかり金儲けw
※見出し画像に使用させて頂きました。ありがとうございます。(管理人)
今昔です。
長く規制されていたので(このスレにしか書いてないんですが…)、最後まで投稿できるか分かりませんが
やってみたいと思います。
途中で途切れたら、すみません。
今日は、浜家の長男、中国で子沢山パパになっている雄浜くんのお誕生日でした。
雄浜、21歳おめでとう。