長くなりましたが、桜浜桃浜のお誕生日の話を書いたので投下させてください。
これは12月2日の二人の誕生日頃に書いたのですが、この時にはまだ永明さんと桜桃ちゃん達の中国行きの話は出ていませんでした。
私は長いこと規制されていて誕生日当日にもスレに書き込めないことは分かっていたのですが、自己満足でいいや、と思って一人でこの話を書いてそのままにしていました。
でも規制が解けた(?)今、読み返してみると、桜桃ちゃん達の誕生日なのに永明さんのエピソードも盛り込んでいるし、
桜桃ちゃん達の将来のことも触れているし…なんだか今のこの状況を予感していたような話にも見えるのです。
そのこともあってしばらく迷っていましたが、せっかく書き込めるようになった今、やはりこのスレで桜桃ちゃん達の誕生日を祝いたい気持ちもあります。すっかり遅くなりましたが。
本来ならスレに投下する時にはもっと推敲して短くするのですが、迷いましたがやっぱりそのまま投稿させてください。
まだ規制が完全に解けたかどうか不明なので、途中で止まってしまったら申し訳ありません。
10レス+おまけ、の予定です。
いつも長くて、本当にすみません。
これが無事に投下できたら、今アドベンにいる浜家の全員のお誕生日の話を書けたことになります。
よろしくお願いいたします。
パンダ記念日 ~桜浜と桃浜のツィンズバースディ
白浜の穏やかな冬晴れの空から、柔らかな光が芝生に降り注いでいます。
休園日の午後。
2日後に8歳の誕生日を控えた桜浜と桃浜の美しい双子姉妹は、パンダラブのバックヤードの部屋でのんびり過ごしていました。
二人の傍らには、末っ子のプルが姉たちに甘えながらニコニコとリンゴをかじっています。
桜浜は読んでいた本から顔を上げ、
『桃ちゃん、お茶にしようか。タンタンさんからもらったクリスマスカラーのジンジャークッキーもそえて』
『わぁ、嬉しい。シュトレンももらってたけど、あれはもうちょっと寝かせてからやね。楽しみやねぇ』
『プルも、シュ…シュ…シュットコトンたのちみでちゅ!』
プルの可愛い言い間違いに、姉たちの優しい笑い声が流れます。
…と、突然。
そんな穏やかな午後の時間を遮るように、遠くから
『…うわ~~ん、うわ~~ん、お姉ちゃ~ん!!』
という泣き声にドスドスと足音が近づいてきて、ドアがバーンと開いたかと思うと、結浜が泣きながら桃浜に飛びついてきました。
『うわ~~ん、桜姉~桃姉~、飼育員さんが結を叱るの~!ちょっと畑仕事に行ってモートに降りて水道栓開けっぱなしにして、
麻袋びしょびしょにして、お庭の遊具の根元をかじって細くして、営業時間内に抜け出して岸くんのドラマのロケ見学に行っただけなのに~!』
『あらあら結ちゃん、怒られてしもたんやねぇ』
と、桃浜が結浜のピコンを撫でてやると、桜浜も
『大丈夫やで。お姉ちゃんらが謝りに行ってやるから……ん? なんや遠くの方からサイレンみたいな音が近づいてくるんやけど…』
結浜の肩を抱きつつ、不思議そうに耳をすませているところへ、
『……ピーーーギャ—…ピギャーーーーーーーーーーピギャーーーーッッ!!!』
と、その音はどんどん大きく聞こえてきたかと思うと
『ピギャーーー! 桜姉~桃姉~、お母ちゃんがうちをぶっ飛ばしたんや~! ちょっとお庭に出るのぐずって出入口のドアに頭突きして、
バックヤードに戻るのぐずって竹を蹴り散らかして、モニタールームに忍び込んでパソコンで株取引に手を出して31円スッただけやのに~!』
ピキが泣きながら飛び込んできて桜浜の胸にすがりました。
『ピキちゃんもかいな。何の音かと思ったら、ブリーディングセンターからずーっと泣きながら走ってきたんか?』
『ピキー…クスン、クスン…お母ちゃんから、何で31円損するんや!って言われたから、3(さ)1(い)ひん、で31や!って言うたらトドメのカカト落とし食らってん。
シャレの通じないお母ちゃんやミーミー』
『よしよし、そういう時は早いこと損切りせなあかんのや』
こうしてピキと結浜が桜浜桃浜に慰められていると、今度はその横でリンゴを持ったまま目を丸くして聞いていたプルの顔がだんだんと曇ってきて、
『プルプル…ゆいおねえちゃま、おこられてかわいそうでちゅ…ピキおねえちゃま、しゃれがつうじなくてかわいそうでちゅ…ウッ…ウェ…』
そしてリンゴも放り出してウェーン、ウェーンと床に泣き伏してしまいました。
さっきまで穏やかだったパンダラブのバックヤードは、今や、うわ~~ん、ピギャーー、ウェーーン!!の大合唱で蜂の巣をつついたようです。
桜浜と桃浜は大泣きする妹たち3人を抱きかかえ、顔を見合わせました。
『まぁまぁ、結ちゃんもピキもプルも泣き止んでな。私らが何とかしてやるから』
『大丈夫や。私らがお母ちゃんと飼育員さんに謝って来てあげるから。おやつの棚にタンタンさんのジンジャークッキーあるから、
それ食べながら待っとき。シュトレンはまだお預けやで』
そう言うと、桜浜は桜色のマフラーを巻き、桃浜は桃色のイヤーマフをつけて、二人でパンダラブを出てテクテクと歩きだしました。
『は~、今日は晴れてるけど風は冷たいなぁ』
『ほんまやねぇ』
桜桃の姉妹はそう言い合いながら、両親の住むブリーディングセンターへと向かいます。
そして二人そろって入口から覗いてみると…
『ラウちゃんや、ちょっとこっちにおいで』
ちょうど永明さんが隣の部屋の良浜ママに声をかけたところでした。
永明さんのことが大好きな良浜はいそいそと近付いて、両親は柵越しに鼻チューの挨拶をします。。
『いやぁ、ラウちゃんは今日も綺麗で可愛いなぁ。愛嬌があって優しくて、毛並みも金色に輝くようや。その上で子育て上手なええお母さんで、こんな素晴らしい奥さんがいるオスは世界中探しても僕だけやろなぁ。
さっきピキ子がギャン泣きしてたけど、あの年で株取引に手を出すのも大した度胸や。ラウちゃんが元気な賢い子に産んでくれて、ピキ子も感謝しとるやろ。
まぁ、ヤンチャした時にはさっきみたいに部屋の端から端までぶっとばすのもええけど、次はちょっと、こう、甘噛みくらいにしといてやってもええんちゃうやろか』
『あらぁ…永明さんたら、綺麗で可愛いなんて。そうやねぇ、子供が元気で賢いのは嬉しいことやねぇ。次は、当社比で少しは優しくしましょうねぇ』
永明さんの前では乙女をかぶる(?)良浜はニコニコと機嫌を直しました。
桜桃の2人がそれを冷静に見ていると、次に永明さんはバックヤードに続く出口に鼻を突っ込んで呼びかけます。
『やぁ、とも子、なんや娘が困らせたようやけど。…おお、美人は怒ってる顔も変わらず美人やなぁ。感心したわ。
いつも苦労かけてすまんことや。僕も後から言うて聞かせるし、とも子が一生懸命働いてくれてるのはよう分かっとるから、
僕が社長に頼んでボーナスにちょっと色つけてもらうさかい、それでクリスマスの限定コスメでも買うてな、ますます綺麗にして白浜銀座でも歩いたらみんな振り返るやろなぁ。
そんで、とれとれ市場で美味しいもん食べて機嫌直してや』
『ええ、結浜には両親からもちゃんと言って聞かせてもらわないと困りますからね! でも…まぁ、あの子もアイドルに夢中になる年頃だし、
永明がそう言うなら、今回は大目に見てもいいかしらね…。でもまた同じことしたら叱りますからね』
と言い返されているようでしたが、声の調子からすると機嫌は直ったようでした。
4
そして、ブリーディングセンターの入り口に立ち、一部始終を見終えた桜桃の姉妹は冷静な表情で、
『…えっと。なぁ桃ちゃん、どうやら問題は解決したみたいやね』
『…うん、桜姉ちゃん。寒いし、あったかいもんでも食べて帰ろか』
二人はマフラーとイヤーマフを付け直し、来た道を戻っていきました。
『妹らには、パンダにくまんでもお土産に買うてやろか』
『そうやねぇ、もうみんな怒ってないから安心してね、ってline打っとくわ。ポチポチ』
木枯らしの吹く歩道をスマホを打ちながらテクテクと遠ざかってゆく二人の声は、やっぱり少し気が抜けたようでした。
やがて二人はブリーディングセンターとパンダラブの間にあるフードコートに入っていきました。
『すみませーん、紀州梅しそとろろうどん、くださーい、あったかいの』
『私も、あったかい紀州梅の、お蕎麦にしてくださーい。…なぁ桜姉ちゃん、かやくご飯、半分こせぇへん?』
『ええね、大きい方、桃ちゃんにあげるね。…すみませーん、親子パンダかやくご飯もひとつくださーい』
二人が注文すると、お店の店員さんはニコニコと頷きます。
「いらっしゃい。ほんまに美人姉妹ねぇ。おうどんとお蕎麦に笹の葉を入れてあげましょうね」
『わぁ、ありがとうございます! えっと、おいくらですか。社員割引でお願いします』
桜浜がそう言って桜の花の刺繍をしたお財布を取り出すと、店員さんは首を横に振りました。
「お代はいいのよ、うちのパークのスターやもの」
『いいえ、ちゃんとお払いします。いつもお気遣いいただいて、ありがとうございます』
桃浜もそう言って、桃の花模様のビーズのお財布を取り出します。
「まぁ、ほんまに礼儀正しい素敵な姉妹だこと」
褒められた二人は顔を見合わせて、えへへ、と照れました。身内のスタッフからも評判の良い双子なのです。
やがて出来上がってきた暖かいうどんと蕎麦を大事そうに抱え、二人はテーブルにつきました。
『お出汁の染みた笹が美味しいわぁ。それに、やっぱり紀州梅干しは欠かせへんね』
『私ら、和歌山生まれやもんねぇ』
暖かいお出汁をゆっくり飲んで、桜浜は一息つきました。
『しかし、いつもながらお父ちゃんのあの仲裁は見事やわ。特に女性には絶大な効果があるもんねぇ』
『うん。…でも、私ら、あのお父ちゃんを見て育ってるから、将来お見合いとかしても男性への理想が高すぎて失敗しそうで怖いなぁ』
『男のひとが全部が全部、あんな風に口がうまくておだて上手やと思わへん方がええよね』
『そうやねぇ、実際、愛浜姉さんや梅浜姉さんはお相手をさんざんボコったって話やし、気を付けなあかんねぇ…』
『結婚もそうやし、私らも将来のこといろいろ考える年頃よねぇ。…桃ちゃんは女優デビューもしてるんやし、また声がかかるんちゃう?』
『うーん…そやけど女優さんの仕事は待ち時間も長いし、続けていくなら食事に気を付けてダイエットとかも考えなあかんやろうし…。
ほら、あの撮影したドラマ、警察の科捜研が舞台の刑事ドラマやったやん? ほんまは刑事さんが聞き込みに来たアパートの住人役もあって、
くるくるパーマにネグリジェ姿でドアばーんと開けて ”うるさいわねぇ、お隣なら引っ越したわよ!” ってセリフ言うとこの撮影もしたんやけど、
放送ではカットされたんやわ。なんかパンダらしくないいうて。
桜姉ちゃんこそ、日本だけじゃなくて中国でも美人やて評判になってるそうやん? モデルの話も持ちかけられるんちゃうやろか』
『うーん…私も今までけっこうパンダ雑誌とかでグラビア撮影もしたけど…あれもなかなか大変やもんねぇ…。』
『そういや去年、有名な動物写真家の岩合さんがテレビ番組でここ来たやろ、あの時私らもポートレート撮ってもろたやん? あれ楽しかったなぁ』
『うん、いい子だねー、って言われて嬉しくて、私、どうしてか分からへんけど、ニャーッて返事してしもてん』
『うふふ、猫みたい。でも…あれ、いいお見合い写真になるなんてみんなに言われたけど…ほんまにお見合いの話とか来るんやろか』
桃浜の言葉に、桜浜がふいに思い出したように話しはじめます。
『そうそう、お見合いといえば…桃ちゃん、“どきどきメモリアル Panda Girl’s Side”って知ってる?
成都パンダ基地が出してるアプリやけど、今、若い女子パンダに大人気やて。私、この前やってみたんやわ』
『知ってる知ってる! 自分のデータ打ち込んで、中国の有名男子パンダの誰と相性が合うのか見せてくれる奴やろ』
『そう、それ。でね、中国には男子パンダはたくさんいるし、誰が私にぴったりなのかな~、モテモテらしいヨン様かな、
アメリカ帰りのメイランさんもいいわね~なんて思いながら楽しみにやってみたんよ。
で、いろいろ質問に答えていくんやけど、
“ぽっちゃりコロコロなパンダ体系” or “スタイルの良いスラっとした足長体系” ならどちら? とか、
“黙って俺について来い、俺様タイプ” or “なんでも君のいう通りにするよ、フェミニンタイプ” ならどちら? とか、
“まん丸顔で愛嬌たっぷり” or “掘りの深いダンディ” ならどちら? とか、
そりゃやっぱり全部後者がいいわよね~って選んでいったら、最後に”あなたにぴったりな男子パンダは彼です!”って、
満面の笑顔の雄浜兄ちゃんの写真がバーンと出てきたんやわ。
よく考えたら私が選んだのはみんなお父ちゃんみたいなタイプやし、雄浜兄ちゃんはお父ちゃんにそっくりやもんなぁ。
私、はるばる中国まで行っても好みのタイプが兄ちゃんしかいないんやったらどうにもならんわ…と落ち込んだわ』
『はぁ~…それは…たぶん私も同じ結果になるやろな…』
二人はため息をつき、親子パンダかやくご飯をもぐもぐと食べました。
『ま、将来のことで悩んだってしゃあないわ、今はご飯が美味しいのが一番や』
『うん、美味しいねぇ。この後、あったかい飲み物も飲んでいこ。甘~いの』
『そうしよそうしよ! …ごちそうさまでしたぁ、おうどんもお蕎麦も美味しかったです!』
『かやくご飯も美味しかったです! また来ます!』
食器を載せたお盆を返し、店を出ていく二人を、
「うちの園の人気者やのに、ほんまによう出来たお嬢さん達や。ずっとここにいてくれたらええけどなぁ」
店員さんは目を細めながら見送ります。
店を出た二人は冬景色の園内をぶらぶらと歩き、ワゴンで妹たちへのお土産に「ふたごパンダ肉まん」を3セットと
暖かいカフェラテとカフェモカを買って、やがてパンダラブの前まで戻ってきました。
パンダラブの前には、最近、永明と梅梅そして幼い頃の良浜の仲睦まじい家族の像が置かれました。
足元の岩には、“ジャイアントパンダの未来へ”と記されたプレートが付けられていて、桜浜と桃浜は誇らしげにその像を眺めます。
『お母ちゃんにもこんな頃があったんやねぇ』
『私ら家族は、ここから始まったんやね。うーん、私も家族が作れるんかなぁ』
『あはは、桃ちゃんも“どきどきメモリアル Panda Girl’s Side”やってみたら?』
『そんなん、絶対私も雄浜兄ちゃんしか出てこんわ。いや、他の兄ちゃんかもしれへんけど、どっちにしても足長鼻長フェミニン属浜家男子や』
二人は笑い合い、暖かい飲み物をふぅふぅしながらベンチに座りました。
このベンチは、結浜の誕生日に贈られた大きくて広いベンチで座りやすいのです。
本来は部屋にあったのですが、桃浜がある日うっかりブン投げてしまい、外に置かれることになりました。
二人はゆったり座りながら、目の前のパンダラブの建物を眺めます。
『なぁ、桃ちゃん。私ら最近、すっかりお姉ちゃん役が身についてきた気がするわ。妹たちはいつも私らに泣きついてくるし。
いやまぁ、問題を解決するのはたいていお父ちゃんやけど』
『うんうん、海浜兄ちゃん陽浜姉ちゃんの双子と、優浜姉ちゃんがいた頃は、私らが末っ子やったのにねぇ。
いつの間に、私らが長女格になったんやろ。月日がたつのは早いもんやなぁ…』
『このパンダラブが出来たの、私らが生まれる前の年やもんね。私らが独り立ちしてここに来て…
それからいつの間にか、親離れして来た妹たちを出迎えて世話する役が私らになったんやね。あれからずっと、そうやね…』
2人は自分たちの歩いた道程を思い返しながら、家族の像にパンダラブの建物、そして庭に植えられた二本の木を眺めました。
『ここに植えられた桜と桃、今年の春も綺麗に咲くかなぁ…』
そう。そこには数年前、桜浜と桃浜にちなんで植樹された桜と花桃の木があるのです。
冬空の下、二本の若い木はまだ頼りなく細いけれど、その枝には春を夢見て眠る小さな芽がすでにいくつも見えました。
『楽しみやねぇ、桜姉ちゃんの桜、綺麗に咲きますように』
『桃ちゃんの花桃、綺麗に咲きますように』
顔を見合わせ花のように笑う、春が来るのが待ちきれない二人でした。
それから二日後。桜浜と桃浜はそろって8歳の誕生日を迎えました。
誕生日の朝、2人はそれぞれの名前と「HAPPY」「BIRTHDAY」の氷、オレンジ色の「8」の氷、ピンクの桜と桃の花の氷で彩られたお部屋で
皆にお祝いの言葉をかけられます。
華やかなピンクの花氷は美しく、双子の姉妹も美しく、晴れやかな誕生日になりました。
やがて日が暮れて閉園した後。
夜は、いよいよ家族でお祝いする時間です。
『ブリーディングセンターで、みんな一緒にシュトレン食べようなぁ』
『うん、楽しみ!』
桜浜と桃浜はニコニコとタンタンさんからもらったシュトレンを包みます。
それから飼育員さん達からプレゼントにもらった笹紅茶なども籠に入れ、さぁ出かけようと振り返ると。
『桜お姉ちゃん、桃お姉ちゃん、お誕生日おめでとう! あのね、結ね、今夜はプルちゃんとここでお留守番するつもりやの』
『あいっ、プルはおるすばんでちゅ』
結浜とプルが神妙な顔で二人にそう言いました。
『えっ、なんで? 今から私らの誕生日パーティをお父ちゃんやお母ちゃんのとこでしようって言ったのに』
『みんなでシュトレン食べよう。ねっ』
桜浜と桃浜の言葉に、結浜とプルは首を横に振り、それから二人にぎゅっと抱き着いてきました。
『プルちゃんのことは心配しないで。結がちゃんと見てるから。お姉ちゃんたち、ホントにお誕生日おめでとう!』
『シュットコトン、パパとママとたべてくだちゃい』
わけが分からないまま、桜浜と桃浜はパンダラブから押し出され、夜道をブリーディングセンターに向かって歩き出しました。
『…どうしたんやろ、結ちゃんプルちゃん…後から来るんかな?』
首をひねりながらブリーディングセンターに着くと、入り口にピキが立っています。
ピキもやはり神妙な顔をして、
『桜姉、桃姉、お誕生日おめでとうやで。うち、今夜はパンダラブにお泊りやねん。さ、こっち来て』
二人の手を引いて部屋の中に入っていくと…。
『桜浜、桃浜、お誕生日おめでとう!』
『さぁ、今夜はお父ちゃんとお母ちゃんとお祝いしような』
華やかに飾り付けられた部屋の中、父と母の笑顔と、明るい声が桜浜と桃浜を出迎えてくれました。
『あのな、結姉とプルとうちで相談したんや。お姉ちゃんらはいつもうちらの面倒みてくれて、
でもたまにはお父ちゃんやお母ちゃんとゆっくり話したり甘えたりする日もあってもいいはずや、って。
そやから今年のお誕生日は、お父ちゃんお母ちゃんと、桜姉桃姉でお祝いしたらええんちゃうやろか、って。
飼育員さんにも話してご馳走いっぱい作ってもらったし、今夜はここに泊ってのんびりしてな』
ピキが真面目な顔でそう言うと、父と母も『そうや』と頷きました。
桜浜は、はっと気付きました。
『ピキちゃん…この前の私らの話、聞いてたんやね…』
『ありがとう…なんていい妹達なんやろ…』
桃浜も感動で涙がこぼれそうです。
そんな二人に、えっへん、と胸を張り、『そしたら、楽しんでな』と、ピキは颯爽と部屋を出て行きました。
その頼もしい背中を見送って、それから振り向くと、父と母の優しいまなざしが二人を包みます。
『さぁ、桜も桃もこっちにおいで。二人とゆっくり話すのも久しぶりやなぁ』
『ほんまに綺麗なええ娘らになって。お誕生日おめでとう、桜、桃』
二人の目に、また涙が盛り上がってきました。
『お父ちゃん、お母ちゃん!』
『ありがとう、お父ちゃん、お母ちゃん!』
いつもよりずっと幼い、子供に戻ったような声でそう叫ぶと、桜浜と桃浜は駆け出し、両親の胸に飛び込みました。
暖かい胸に顔をすり寄せて涙を拭くと、両親の腕が二人の肩を抱いてくれます。
『二人とも、いつも良いお姉ちゃんでいてくれて、ありがとうな。今夜は末っ子の頃に戻ったらええんやで。僕の自慢の可愛い双子や』
永明さんがそう言って頭を撫でてくれて、
『そうや。パンダラブができるまでは、親離れしたと言うても親子はなんのかんので同じ建物の中におられたのに、
あんたらの頃からは、ほんまに離れてしもたもんなぁ。そやのに、ずっと妹達を迎え入れてくれてありがとうな』
良浜が優しく抱きしめてくれます。
10
まるで小さな子供の頃そのままに包まれる心地よさに、桜浜と桃浜は目を閉じて微笑みました。
それからそっとまた目を開けるとお互いの顔が見えて、桜浜は桃浜の顔に昔の幼い妹を思い、桃浜は桜浜の顔に昔の幼い姉を思い出します。
二人がブリーディングセンターの庭の芝生の上でお日様の光を浴びて、ふわふわの白黒の毬のように飛んで跳ねて、
取っ組み合ってじゃれて転がって、それを今より少し若い母が本気で追いかけてきて、それを今より少し若い父が微笑まし気に眺めていて。
あの無邪気で暖かく、明るい光に満ちた日々。
今夜は、そんな懐かしい思い出と同じ温もりに包まれた時間をプレゼントされたのでした。
『…お父ちゃん、私ら、話したいことがいっぱいあるんや』
『…お母ちゃん、私ら、もう少し甘えたかったんや』
そして桜浜と桃浜は両親の顔を見上げ、声をそろえて、
『お父ちゃん、お母ちゃん。私らを産んでくれてありがとう。私らの8歳のお誕生日、ありがとう!!』
そう言って、まるで咲き初めたふたつの花のように笑いました。
そんな二人の誕生日。
たくさんの愛に包まれてすくすくと育った桜と桃の可憐な花は、今年の春も美しく咲き誇ることでしょう。
おしまい
おまけ
その数日後。
ブリーディングセンターの昼下がり。良浜がのんびりお昼寝をしていると、ピキプルの二人がトコトコとやってきました。
ピキが手にしたスマホを良浜に見せます。
『なぁ、お母ちゃん、この“どきどきメモリアル Panda Girl’s Side”ってアプリ、やってみてくれへん?
うちらもやろうと思ってんけど、5歳以下のパンダはやったらあかんのやて。”5禁! 適齢期になってから遊んでね♪”って出てくるねん』
『ごきんでちゅ、プルプル』
『えー、なんやこれ……ドレドレ、
~きらめくモノクロームの風景の中で。それは白と黒の運命の出会い~ 成都パンダ基地の自慢のイケパン達の中からあなたにぴったりの彼氏を選びましょう…って、
私には永明さんがおるんやで。他のオスになんか目もくれるかいな』
『そやけど、すごい流行ってるアプリやっていうし、どんなのか見てみたいんやもん。お願いや、お母ちゃん、やってやって!』
『プルもみたいでちゅ! やってやってでちゅ!』
『もう…めんどくさいなぁ』
2人にせがまれて、良浜はしぶしぶスマホを手に取り、ポンポンとデータを打ち込みはじめました。
『えーっと、私のデータは…年齢21歳、長女、特技はスパルタ子育て、趣味は昼寝、ニックネームはゴールデンパンダ、ハマの悪浜…と…、
お~、始まったで。
まずは、”ぽっちゃりコロコロなパンダ体系” or “スタイルの良いスラっとした足長体系” ならどちら?
…そらまぁ、スタイルのいい方が……』
ぶつぶつ言いながらスイスイと選択肢を選んでいく良浜の両脇から、わくわくと覗き込むピキとプル。
しばらくピコピコと操作音が続き、少しの沈黙の後……
『…なーーーーんで、お前が出てくんねん!!! 雄浜っっっっ!!!!!』
フルスイングで投げられたスマホの画面には、満面の笑みでピースする雄浜兄ちゃんの姿があったのでした。
おしまい
今昔さん、大作一気に読みました
大家族の浜家の絆の強さにただただ感動しました
たとえ離れていてもお互いを思う気持ちは永遠ですね
中国に旅立ったお兄ちゃんお姉ちゃんたちが証明してくれてますもんね
そしておまけではクスッと笑わせていただきました
お正月の準備の合間合間に少しずつ読ませていただきました
本当に永明さんと桜ちゃん桃ちゃんの中国行きを予感されていたかのような内容で驚きました
桃ちゃんのアパートの住人役のくだりで声を出して笑い、物語終盤で涙し、おまけでまた笑わせていただきましたw
今昔さん、素敵なお話をどうもありがとうございました
今昔さん 長編大作をありがとうございます!
まさか書いている頃は桜桃ちゃん達の和歌山での最後の誕生会なんて思わなかったですよね 本当のまさかの永明さんまでお別れとは…
桜桃ちゃん達にはパパ似の優しくてダンディなお婿さんとマッチングされますように アプリじゃなくw
大作お疲れ様でした
結ちゃんピキちゃんの「ちょっと」とは言い難いほどに盛りだくさんの叱られた理由ww
永明さんは優しくておおらかで気配り上手で本当に素敵なお父さんですね
桃姉桜姉の「今はご飯が美味しいのが一番や」にいろんな思いを感じてほろりとしました
その後三妹の粋な計らいで久々に親子水入らずの時間を過ごせたようでよかったです
今昔さん、年の瀬に素敵なお話をありがとうございました
結ちゃん、今夜は紅白歌合戦で岸くんの晴れ姿を楽しもうね
>>80
今昔さん、素敵なお話をありがとシャンです
面白くて一気に読みました
ピキちゃん、株に手を出したのねw
桃ねえの女優デビュー作は私も見ました
アパートの隣人も見たかったですね
こりゃあ女子は惚れてまうやろー
スレの皆様、わいわいさん、本年もお世話になりました。今昔です。
桜桃ちゃん達の誕生日話を読んでいただいて、ありがとうございます。
来年は日本のパンダ達にとって変化の年になるでしょうが、
今はたた、みんなの行く道にたくさんの幸せが待っていることを祈ります。
幸せに、健やかに、たくさんの愛を注がれて過ごしてゆけますように。
そして私達日本のファンが少しでも多くあの子達の様子を知ることができますように。
皆様、良い年をお迎えください。
おちりニキさん、みんなで賑やかな年越し、楽しそうですね。
丸餅と四角餅では美味しさが違うのかな? 可愛いです。
年末に素敵なお話をありがとうございます。
ピキちゃんの宝くじ、きっと大当たりして、どこでもドア開発の資金になりますよね。