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パンダ記念日 ~永明さんのハッピーバレンタインデー・家族と共に~(後編) -2023/02/15(水)

179: 名無しさん? (ワッチョイ 8ac5-8lmq) 2023/02/15(水) 20:21:32.48 ID:/mVB4kcH0

パンダ記念日 ~永明さんのハッピーバレンタインデー・家族と共に~ 後編

美味しいケーキもご馳走も食べ尽くして、にこにこと満足顔になった皆は、そろって夜の庭に出てきました。
冬の夜風は冷たいけれど、パンダにはちょうど良い気候です。
芝生に寝転んで眺める白浜の夜空は星が美しく、みんなで星座を見つけたり流れ星にはしゃいだりしているうちに、
お腹いっぱいの良浜と娘達は、一人、また一人と、うとうとと眠り始めました。
永明さんはゆっくりと起き上がり、家族の寝顔を眺めました。
隣にいた良浜が、眠りながらも永明さんに寄り添います。
長い足で膝枕をしてあげながら、愛妻の頬をそっと撫でてやりました。
思い出深い庭の景色の中、永明さんは薄闇の中にたたずむ桜の木を見上げ、ふと先ほどのピキの質問を思い出しました。
『父の日も誕生日も、いろいろな記念日もたくさん祝ってもろた。そやけど…そうやな、あの桜が咲くのは、もう一度見たかったかなぁ…』
それはこの場所…永明さんがいつもいた庭のすぐ前に植えられている大きな桜の木でした。
今はまだ葉もなく裸の枝を伸ばしているだけですが、よく見ると新しい芽が膨らみ始めています。
毎年、綺麗な花を咲かせる桜でした。
『毎年、楽しみやったなぁ。お客さん達もあの桜を見て楽しんで、花見団子を食べてたなぁ。
あの花見団子、茶色のたれをかけたパンダの顔で、ラウちゃんにそっくりなんや。
来る人来る人みんな笑顔になって、桜と観覧車と僕の姿を一緒に写真に撮って喜んでくれてたもんや。
それで、風が吹くと花吹雪が舞って…綺麗やった。あと二ヵ月もしないうちに満開になるんやけどなぁ』
そう独り言をつぶやきながら、永明さんは桜の枝先から視線を上げて、また星のきらめく夜空を見上げました。

 

180: 名無しさん? (ワッチョイ 8ac5-8lmq) 2023/02/15(水) 20:25:38.67 ID:/mVB4kcH0

2
その時です。
桜の梢の上、夜空に輝く星がひときわ強くまたたきました。
まるで星が何かを語りかけてくるような…そう思った時、優しい風が吹き、耳元にふと暖かな声が聞こえました。

『永明さん、大丈夫。ここに残る家族のことは、私がちゃんと見守ります。
朝日が昇る時も、夕日が沈む時も、月が輝く時も、空はずっとこの子達の上にありますもの。
この空の下に家族がいる限り、私はみんなのことをずっと見ていられます。安心してくださいな』

その声を聴いた永明さんの胸に、あの懐かしい、母性にあふれた強く優しい女性の顔が浮かびました。
『梅梅さん、久しぶりやなぁ…。今でも空の上から、僕たちのことを見ててくれてるんやな。
今頃どうしているやろかとずっと思ってたんや。あなたのことやから、きっとそっちに行った小さい子らの面倒を見てやったりしてるんやろな』

『ええ、こちらもずいぶん賑やかになってきました。そやけど永明さんは長生きして、今度は中国にいる子供達のことを見てやってくださいな。
まだ未婚の子も多いし、よろしくお頼み申します』

『もちろんや。梅梅さんの分まで僕が子供達の行く末を見届けてやらなあかんな。まだまだ頑張ります』
輝く星に向かって、永明さんは頷きました。
大きな大きな母性で皆を包んでくれたあの女性のように、どこまでも広く広がる優しい夜空でした。

 

181: 名無しさん? (ワッチョイ 8ac5-8lmq) 2023/02/15(水) 20:27:22.88 ID:/mVB4kcH0

3
再び、風が吹きました。
またひとつ懐かしい気配を感じて、永明さんは辺りを見回しました。
桜の木の枝に、誰かの姿が見えた気がしました。いいえ、見えたのです。
枝にちょこんと腰かけた可愛らしいパンダの女の子。
若々しい少女の姿で、きらきらとした瞳を輝かせた明るい笑顔。懐かしい懐かしい笑顔。

『大丈夫よ、永明。私もここから見ているわ。今までもずっと見ていたの。
大切なあなたの家族、私も夢見たあなたの大家族がこれからもずっと続くように、きっと私が守ってあげる』

永明さんの目が大きく見開かれます。
『ああ…蓉浜…君はずっとそこにいたんやね…!』

『そうよ、私は“木登り蓉浜”と呼ばれた木登り名人だもの。ずっとここにいて、毎年毎年、美しい花を咲かせるの。
花びらの便りに乗せて、たくさんの思いを届けるわ。ここに残る子供達に、そしてここに来る子供達に、私達の歴史を語り継ぐわ。
永明、花びらの便りは、きっと中国に行ったあなたにも届くでしょう。春を待っていてね』

『待ってるよ、蓉浜。またこの桜が咲く日を、僕はどこにいても忘れない』
永明さんの胸に、二人の懐かしい女性の優しい声が響き、染み通ってゆきます。
それはこの庭で、この場所で過ごした長い月日の宝物。
ここで出会い、別れ、家族を作り、レジェンドと呼ばれるようになった彼の思い出を彩る美しい花々なのでした。

 

182: 名無しさん? (ワッチョイ 8ac5-8lmq) 2023/02/15(水) 20:29:12.70 ID:/mVB4kcH0

4
しばし目を閉じ、そして目を開けて、永明さんは優しい眼差しで家族の寝顔を見回しました。
良浜も娘達も、芝生の上でコロコロと思い思いの寝相で眠っています。
愛しい寝顔を起こすのは少し可哀想だったけれど…。
『さぁ、みんな起きなさい。さすがに夜の庭は冷えるさかい、みんな部屋に入ろうな。
ほら、桜も桃もお腹冷やしたらあかんで。ラウちゃんはここに泊ったらどうやろ。ピキ、プル、結、寝ぼけて歩いたらパンダラブにたどり着かへんで』
父親の顔に戻った永明さんがかけた声に、家族はそれぞれに目を覚ましました。
『う~ん…うちもここに泊りた~い。もう眠いんや』
『うん、みんなで一緒に寝よ。なぁ、ええやろ、お母ちゃん』
『そうやね、今夜くらい…お母ちゃんが飼育員さんに話したるわ』
『私も一緒に頼みに行く。おーい、飼育員さーん!』
『おいでプルちゃん、結が抱っこしてあげる』
『プル…むにゃむにゃ…』
楽し気な笑い声を残して、皆が庭を後にします。
家族の背を見送り、笑顔の余韻の漂う庭を一度だけ振り返り、永明さんは静かに扉を閉じました。

静かになった冬の庭。夜空に大きく枝を広げる桜の木は、その枝先に星の輝きを乗せて。
満開の桜の花が開く春は、あともう少し先のこと…。

おしまい

 

187: 名無しさん? (ワッチョイ 0794-j2gw) 2023/02/15(水) 23:12:31.15 ID:mKxF+E2V0
>>183
うぅー胸がいっぱいです ゴワゴワ
今昔さん素敵なお話ありがとうございました

 

189: 名無しさん? (ワッチョイ e330-Nq0I) 2023/02/16(木) 00:08:07.87 ID:UUVgoUH+0
>>182
永明さんはたくさんの子供だけでなく3人もの素敵な奥様に恵まれたという意味でもレジェンドだなぁとお話を読みながら改めて思いました
蓉浜さん、桜の精になってずっと永明さんのそばにいたんですね
涙が出そうになりました
今昔さん、とても素敵なお話をありがとうございました

 

190: 名無しさん? (ワッチョイ 1e75-wQXG) 2023/02/16(木) 03:09:43.53 ID:S+2mJcwH0
>>182
永明さん目線からの白浜ストーリー
読み進むうちに鼻の奥がツーンとして涙が溢れてきました
容浜ちゃん、梅梅さんが空の上か残るラウちゃんたちを引き続き見守ってくださっているのはなんとも心強い
そして永明さんが桜桃2人を連れて中国へ渡ることの意味は、
浜家のレジェントとしての家族への愛情表現なんだろうなあーと
もう読み進めるにつれ涙がとまりません
素敵なお話ありがとうございます

 

232: 名無しさん? (スッップ Sdaa-Nq0I) 2023/02/16(木) 23:46:55.08 ID:xQdwPkT7d
>>179
今日のアドベンのこのツイート、今昔さんのお話とリンクしてましたね
永明さんと桜、美しくてすごく素敵だな

※見出し画像に使用させて頂きました。ありがとうございます。(管理人)

235: 名無しさん? (ワッチョイ 8ac5-8lmq) 2023/02/17(金) 02:31:00.49 ID:iyNHFDVE0

皆様、今回も拙い私の話を読んでいただいて、ありがとうございます。今昔です。

>>232
ありがとうございます。永明さんには本当にあの桜がよく似合っていました。
公式さんの写真と動画、本当に素敵ですね。見ていて涙が出そうです…。

私は今日が永明さん、桜桃ちゃんとのラストでした。
桜ちゃんはバックヤードだったけど建物の奥に向かって手を振ってきました。桃ちゃんはひたすら可愛かったです。
永明さんはとても元気そうによく食べて、飼育員さんに竹をねだって甘えて、子供のようにぐっすり眠っていました。

私が生まれて初めて見たパンダが、永明さんでした。
もうあまりにも昔のことでだいぶ忘れていたけれど、覚えていたのは、「これ本当にパンダ?」と思ったほどパンダのイメージと違う長い足と長いお鼻、スリムな体。
竹を食べる時、変な恰好で座っていたこと。
名前は忘れてしまったけど、とても穏やかなイメージで長生きしそうな漢字の名前だったこと。
お顔がちょっと老けて見えたこと。でもよく見るとまだあどけなさが残っていたこと。
そのほんの少し前に、一緒に中国から来たパートナーをなくして独りぼっちだったこと。
なんだかとても、寂しそうに見えたこと…。

次に会った時には、永明さんは大家族を築いた父親でした。
あの独りぼっちで寂しそうだったパンダの男の子が、こんな立派な父親になっていたなんて、と驚きました。
支離滅裂に私事を書いてしまって、すみません。
今日はいろいろな感情が胸の中でごちゃ混ぜになっていて、整理が付きません。
ただ皆の幸せを祈るばかりです。

 

237: 名無しさん? (ワッチョイ 1e75-wQXG) 2023/02/17(金) 07:00:20.70 ID:Z6mRJldC0
>>235
今昔さんと永明さんの出会いから今日までの日々を思うと想いの深さが伝わってきます
今は一族の大黒柱だけど日本に来た時はまだあどけない少年だったんですね
私も昨日がシャンちゃんとのラストでした
来週は…来週の今頃はここにはいないのねと思うとこみあげるものがありましたが、「元気で行ってらっしゃいね」「ありがとうね」と声をかけました