9️⃣
コンコン
ベビールームのドアをノックする音がしました。
誰か来たようです。
「こんにちはー!ウタ先生!」
「あら!まあ!まあ!フブキくんじゃないの!どうしたの!」
「エヘヘ、さっきアルンに電話したら、ちょっとベビールームのことを聞いて。近くに合宿に来てたから寄ってみたんだ」
ウタ先生よりすっかり大きくなったフブキくん。
話し方もだいぶお兄さんらしくなりました。
アルンくんがフブキくんのそばに来て、耳打ちしました。
「フブキくん、よく来てくれたね。さっき話したすなすけくんはあそこのソファにいるんだけど…」
「うん、分かった。ちょっと行ってみるよ」
「きみがすなすけくん?こんにちは。おれ、フブキっていうんだ。よろしくね」
フブキくんに声をかけられて、すなすけくんはソファに座っているとんこさんに抱きついたまま、チラッとフブキくんの方を見ました。
すると、そこには自分よりうんと大きい白いクマが立っていたので、すなすけくんはビックリまなこで、フブキくんを見上げました。
あまりに大きいフブキくんを見上げていたらアゴが上がりすぎて、ぽかんとお口が開いてしまいました。
「すなちゃん。フブキお兄ちゃん、大きくてビックリしちゃった?うふふ」
「今日は良いわねぇ。フブキお兄ちゃんにアルンお兄ちゃん。すなちゃん、遊んでもらったら?」
「………」
「あはは、いきなりじゃムリだよね。じゃあ、すなすけくん、ちょっと見ててくれる?」
フブキくんはそう言うと、リュックからバスケットボールを取り出しました。
すると、ボールをひょいっと上に投げると、指の先でキャッチしてそのまま指先でクルクルとボールを回し始めました。
すなすけくんはまだとんこさんに抱きついたまま、顔だけフブキくんの方を向いていますが、すでに目はフブキくんのやることに釘づけです。
1️⃣0️⃣
フブキくんは続けて、またボールをひょいっと真上に投げて、それを背面でキャッチして、そこから左腕の上に転がしました。
それからまたそのボールを右腕に滑らせて、そこからボールを上に投げてからキャッチすると、今度は胸の上で転がしました。
そうなんです、フブキくんはすなすけくんにフリースタイルバスケを見せてあげているのです。
すなすけくんは居ても立っても居られなくなって、とんこさんのお膝の上からよいちょよいちょと一生懸命降りて、フリースタイルバスケを続けているフブキくんの目の前に立ちました。
すなすけくんは自由自在にボールをあやつるフブキくんのことを尊敬のまなざしで見上げています。
すなすけくんのお目々はキラキラと輝き、ほっぺはほんのりピンク色に、そしてあんなに硬くなっていた表情が柔らかくなりました。
フブキくんは高く投げたバスケットボールをクルッとその場でターンして両手で受け止めると、ペコッとお辞儀をしました。
ベビールームで見ていた皆が拍手をすると、すなすけくんも真似をして小さなおててを不器用そうにパチパチしました。
フブキくんはすなすけくんの前に歩み寄って、すなすけくんの頭を撫でました。
「すなすけくん、どうだった?面白かった?」
「うん!えとね、んとね、しゅごくね、かっこいかったの!あのね…あのね…どうちたら、しょんなふうになれりゅの?すなしゅけも、かっこいくなりたい!」
「え!おれ、かっこよかった?エヘヘ、照れるな」
フブキくんの『おれ』は今でも相変わらず、お↑れ↓です。
大きくなりましたが、まだあどけなさもちょっぴり残っている2歳児なのです。
1️⃣1️⃣
「『かっこよくなるには』かぁ。そうだなぁ。んー、まずは、ご飯をしっかりと食べること!」
「うん!」
「あとはたくさん遊んで、たくさん寝ること!それと…」
「しょれと?」
「女の子には優しくすること!」
「えー」
「すなすけくん、なんで、えーなの?」
「…だって…おんなのこに、やしゃしくしゅるの…はじゅかちいもん…」
「恥ずかしくなんかないよ。優しくできない方が恥ずかしい奴だって、おれのパパは言ってたぞ」
どうやらフブキくんがすなすけくんに言ったことは、フブキくんのパパ、豪太さんの教えだったようです。
「…ほんと?」
「ああ、本当だよ」
「すなしゅけ、やてみる」
「さっき、ゆめちゃんとうららちゃんが遊んでるところを邪魔しちゃったんだって?」
「……うん」
「じゃあ、2人に謝ろうか」
「…しょれ、ちゅよくなる?」
「ああ、なるよ。悪いことしたら、ちゃんと謝れるのが、強い男なんだよ」
「…うん」
「それと、言っただろ?女の子には優しくしないと、だよ」
「…うん。わかた」
すなすけくんはフブキくんに手をつないでもらって、ゆめちゃんとうららちゃんのところへ行きました。
それからフブキくんはすなすけくんの両肩に手を置いて、すなすけくんの言葉を待ちました。
「…えと…あのね…さっき…おもちゃ…ガチャガチャして…ごめんなさい」
「うん、いいよ。すなちゃん、ゆるちてあげる」
「うららも…うららも、すなしゅけちゃん…ゆるちてあげゆ」
「ありがとう!」
すなすけくんはゆめちゃんとうららちゃんにお礼を言うと、それから後ろにいて待ってくれたフブキくんの方を振り向いて、ニッコリと満足そうに笑いました。
フブキくんもすなすけくんにニッコリと笑顔を返しました。
1️⃣2️⃣
「すなちゃん、わたちたちと、おままごといっちょにしゅる?」
「いっちょにあしょぼ?」
「………」
「すなすけくん、ゆめちゃんとうららちゃんがおままごと一緒にやろうって誘ってくれてるよ?」
「……すなしゅけ…おままごと…や…」
「女の子の遊びだから?」
すると、すなすけくんは首をブンブンと振りました。
「すなしゅけ…おかあしゃん…わかんないもん…おままごと…おかあしゃんのだもん…」
すなすけくんのその言葉を聞いて、ベビールームにいる大人たちやフブキくん、アルンくんもハッとしました。
「すなしゅけ…おかあしゃん…わかんないもん…おままごと…グスッ…できないもん…おかあしゃん…ヒック…いないもん…ヒックヒック……わあーーーん!あーーーん!」
すなすけくんはとうとうベビールームに響き渡るくらい大きな声で泣き出してしまいました。
1️⃣3️⃣
ベビールームにいる皆が、すなすけくんの元に駆け寄ろうとしたとき、真っ先にすなすけくんを抱きしめたのは、とんこさんでした。
「すなちゃん、ごめんね…そうだよね…お母さんのこと…分からないよね…。気づいてあげられなくて…ごめんね…」
とんこさんはすなすけくんをぎゅーっと抱きしめながら言いました。
そうなんです、すなすけくんはまだ物心もつかないうちに、お母さんとはぐれてしまって保護されたのでした。
そして、とんこさんもお母さんと死に別れてしまったので、すなすけくんの気持ちは痛いほど分かるのです。
2人がぎゅっと固く抱き合っているところに、ピリカさんもやってきました。
「すなちゃん、さっきは気づいてあげられなくてごめんなさいね」
そう言って、すなすけくんの頭を優しく撫でました。
そして、とんこさんの背中もそっと撫でました。
それから、とんこさんはおもむろに口を開きました。
「すなちゃん…。すなちゃんには確かにお母さんはいないけれど、わたしやピリカさんは、すなちゃんのお母さんだと思っているのよ」
するとピリカさんも言いました。
「そうよ、わたしととんこさんは、すなちゃんのお母さんよ。本当のお母さんだと思って、もっともっと甘えたりわがまま言ってくれていいのよ」
とんこさんとピリカさんは目を合わせて、うんうんとうなずき合いました。
1️⃣4️⃣
すると、すなすけくんがもぞもぞと動き始めました。
それから、とんこさんにぎゅっと抱きしめられて腕の中にうずもっていたお顔をスポンと外に出しました。
「……あちゅい……」
「え?え?暑い?…あらやだ!ぎゅーってし過ぎちゃったわね!ごめんごめん!」
とんこさんが慌ててすなすけくんを抱き直し、すなすけくんのお顔を見てみると、じんわりと汗ばんで頬が赤くなっていました。
それを聞いたピリカさんは、タオルをお湯で濡らしてしぼったもので、汗ばんでるすなすけくんのお顔や頭を優しく拭いてあげたのでした。
「どう?すなちゃん、気持ちいい?」
「うん!」
「よかった!」
すなすけくんが暑いと言ったひと言で、ピンと張り詰めていた空気が一気に和らぎました。
それを見ていたベビールームにいた皆も、ホッとしたのでした。
1️⃣5️⃣
コンコン
「はーい!どうぞー!」
「ウタ先生、お昼ごはんをお持ちしました」
「あー!カーラさんだ!」
フブキくんは久しぶりにカーラ夫人に会えたので嬉しそうです。
「うふふ、フブキくん、お久しぶり。ずいぶん逞しくなったわねぇ」
「エヘヘ、そうかなぁ」
「さっきウタ先生からフブキくんとアルンくんも来てるって聞いたから、君たちの分もお昼ごはん作ってきたわよ」
「えー!いいの?わーい!カーラさんのごはんだー!わーい!」
「ええ、もちろんよ!ピリカさんととんこさんの分ももちろん用意してありますので、ぜひ召し上がってくださいね」
「ありがとうございます!カーラ夫人の作るお食事やスイーツは人気がありますもの。それをいただけるなんてうれしいわ!」
1️⃣6️⃣ ~ランチメニュー(赤ちゃんたちは離乳食)~
・ナポリタン(ウィンナー・ピーマン・タマネギ、赤ちゃん用はスパゲティではなくマカロニを使用)
・コンソメスープ(星型のニンジン)
・温野菜(ブロッコリーのチーズソース添え)
・ぶどう(巨峰)
・かぼちゃのプリン(ハロウィンのかぼちゃのおばけのデコレーション)
・麦茶
1️⃣7️⃣
カーラ夫人がテーブルにお食事を並べている間に、ウタ先生とピリカさん、とんこさんは、うららちゃん、ゆめちゃん、すなすけくんにスタイを着けてあげました。
フブキくんとアルンくんは、懐かしいローテーブルの席に着きましたが、身体が大きくなったので、ちょっぴり窮屈そうです。
「お待たせしましたね。それでは、いただきましょうか。おててを合わせて…いただきます!」
「いただきまーしゅ!」
「いただきまーす!」
みんなお腹が空いていたので、勢いよく食べ始めました。
「んまーい!カーラさんのスパゲッティ、おれ大好き!」
「昔から変わらないこの味!ぼくも大好き!パオン」
おちびさんたちもマカロニのナポリタンを小さなフォークで、ゆっくりとお口に運んでいます。
みんなが美味しく食べていると、
ウフフ…クスクスクスクス…
ゆめちゃんの笑い声が聞こえてきました。
「どうちたの?ゆめちゃん、なにがおかちいの??」
「だって、だって…クスクスクスクス…フブキおにいちゃまのお口のまわり…」
「えー?なんだよー、何がおかしいんだよー」
「うふふ、ほんとだー!フブキおにいちゃまのおくち、まっかだー!」
ゆめちゃんとうららちゃんがクスクスと笑っていると、
「あはは、ほんとだ!フブキおにいちゃん、あかちゃんみたい!」
すなすけくんも笑いました。
「あははは!フブキくん、相変わらず豪快に食べるなぁ。お口の周りが真っ赤っかだぞ パオン」
「えー!やばい!やっちゃったなぁ。おれも赤ちゃんと同じだな!」
フブキくんがそう言うと、ゆめちゃん、うららちゃん、すなすけくんは、あはははとお腹をかかえて笑いました。
そして、フブキくんはおちびさんたちに気づかれないようにニッと笑って、アルンくんにパチンとウィンクしました。
アルンくんもそれに応えてパチンとウィンクしたのです。
どうやらフブキくんはおちびさんたちを笑わせるために、お口の周りをわざと汚してみせたようです。
1️⃣8️⃣
「フブキおにいちゃま、あたちがおくちふいたげる!」
ゆめちゃんは温かいおしぼりを持って、フブキくんの側に来ると、いそいそとフブキくんのお口の周りをゴシゴシと拭き始めました。
「あーうららも!うららもフブキおにいちゃまのおくちふくー!」
うららちゃんもやってきました。
すると、
「すなしゅけもー、すなしゅけも、フブキおにいちゃんのおくちふきたいー」
すなすけくんまでやって来ました。
3人それぞれおしぼりを持ち、背伸びをして、フブキくんのお顔をゴシゴシ・ワシャワシャしました。
「わー!たすけてー!アルン!アルンたすけてくれー!いてててて!」
その光景を見ていたウタ先生、ピリカさん、とんこさん、アルンくんは、大笑いしました。
1️⃣9️⃣
和やかなランチタイムを終えて、みんなで『ごちそうさま』をしました。
ウタ先生はうららちゃんの、ピリカさんはゆめちゃんの、とんこさんはすなすけくんのお口の周りを温かいおしぼりで拭いてあげたり、おててを洗うサポートをしてあげて、お昼ごはんは無事終わりました。
「ウタ先生ー!お昼寝までの間、みんなをお庭でボール遊びさせてもいい?」
「いいわよ!フブキくんとアルンくんとで、先にみんなをお庭に連れて行ってあげてくれる?わたしは少し仕事を片付けたら、すぐに行くわ!」
「うん、いいよ!おれとアルンとで先に行ってるね!じゃあ、ゆめちゃん、うららちゃん、すなすけくん、お庭にレッツゴー!」
フブキくんとアルンくんは、ゆめちゃんとうららちゃんとすなすけくんを連れて、ベビールームを出て、ホテルの廊下をエレベーターの方へ歩いていきました。
すると、
トットットット…と廊下の方から小さな足音が近づいてきました。
ベビールームの入り口にひょこっと顔を出したのは、すなすけくんでした。
「あら!すなちゃん、戻ってきたの?何か忘れもの?」
「どうしたの?ボール遊びしたくない?お部屋で遊ぶ?」
「……あのね…んとね…」
「うん、どうしたの?」
「ゆっくりでいいから、言ってごらんなさい?」
ピリカさんととんこさんは、すなすけくんの言葉を待ちました。
「……んと…んと……とんこ…ママ…ピリカ…ママ……いってきましゅ…」
すなすけくんはお顔を真っ赤にして、とんこさんとピリカさんにそう言うと、くるりときびすを返して、みんなのことを追いかけて走っていきました。
ピリカさんととんこさんは、すなすけくんのその言葉を聞いて、目を丸くして、驚いてフリーズしてしまいました。
それから2人は、くるっとお互いの顔を見合わせて、
「きゃーーー!!」
と声をあげて、お互いの両手を合わせ、その場でピョンピョンと飛び上がって喜び合いました。
「ウタ先生!今の!今のすなちゃんの言葉、聞きました?」
「すなちゃんが…わたしたちのこと…ママって…ママって言ってくれて…グスッ」
「ええ、ええ!聞きました!しっかり聞こえましたよ!よかったですね!」
「はい!!」
ピリカさんととんこさんはうれし涙が溢れて止まらなくなってしまいました。
それから3人はベビールームの窓から、お庭を見下ろしました。
「いいー?いくよー!それー!」
「わー!ボールとれたー!とれたー!」
「すなちゃん、じょうじゅー!」
アハハ.ウフフ.キャッキャッ.ワーイ…
ゆめちゃん、うららちゃん、すなすけくん、そしてフブキくん、アルンくん、みんなが仲良く楽しそうに遊んでいる姿に、ウタ先生、ピリカさん、とんこさんは、それぞれの成長に喜びを噛みしめました。
季節はうつり変わり、秋の気配が漂いはじめ、ここ老舗ホテルのイングリッシュガーデンにも、キバナコスモスや色とりどりのダリアが咲きみだれています。
ベビールームに、さわやかな秋風が吹きこんできました。
おしまい
読了お疲れ様でした。ベビルさん宛へ、ご感想をスレなどに頂けますと幸いです。
🐼わいわいぱんだでは、作品お預かりシステムをテスト運用中です。
興味がある方は「説明」→管理人へメッセージ欄をご覧ください😊
➡️べビルさんより当日のコメントと皆さんのレス(追記)
お話の途中にすみません。
わいわいタウンの皆さま、ご無沙汰しております。ベビールームです。
この度、作品を書きましたので投稿させていただきたいと思います。
今回は、わいわいさんに作品を託し、わいわいさんのサイトにて投稿させていただいています。
この作品にはパンダさんは登場しませんので、その辺りをご了承いただけたらと思います。
また、とても長い作品ですので、お時間のあるときにでも、読んでいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。
ベビールームさんの新作ですね
動物たちの表現が本当に可愛くて大好きです
あとでゆっくり読ませていただきます
>>543
ベビルさん、あリーリーでしゅ
電車の中で読んでウルウルになりまちた
ゴワゴワかしてくだしゃい
素敵で可愛いお話しでした
すなすけくんが加わったことでフブキくんとアルンくんが逞しいお兄ちゃんに見えましたし、トンコさんとピリカさんがママの代わりになったところも感動でした
べビルさんの文章は子供達の仕草の描写が本当にかわいくて読みながら幸せな気持ちになります
べビルさん素敵なお話楽しかったです。
ほっこりしたり うるっとしたり クスッとしました。
あっという間に全部読んでしまいました。
ありがとうございました
すなしゅけが可愛いすぎて…_(┐「ε:)_♡
アルンとフブキ、かっこいいお兄ちゃんに成長してましたねぇ!
よろしければこれからもおちびさんたちの成長をお話にしていただけたら嬉しいなぁと思っております
読んでくださりありがとうございます
感想までいただきとってもうれしいです
リアルおちびさんたちの仕草が可愛いので、それが少しでも表現できていたら良いなと思います
すなすけくんには周りからの愛情がたっぷりあるんだと、そんな願いを込めて書きました
>>545さん
ありがとうございます
そんな風に言っていただけてうれしいです
>>546さん
読んでくださりありがとうございます
ゴワゴワ、プミちゃんに在庫確認してもらいましゅね
ここの最後の方の972レスにプミちゃんが在庫確認している画像がありましゅw
>>561さん
読んでくださりありがとうございます
すなすけくんの成長を願って書きました
楽しんでいただけたらうれしいです
読んでくださりありがとうございます
甘えん坊だったおちびさんたちも成長しました
はい、また書いていけたらと思っております
そのときはまた読んでいただけたら幸いです