茶館・おしゃべりタンタン 番外編・タンタンとひまわりの夢-2023/09/17(日)

1

8月の青空の下、ふたつ並んだ白いパラソルがまばゆい陽光を跳ね返し、涼しい影を作っています。
ここは神戸の王子動物園。
今日はタンタンと、仲良しのホッキョクグマのみゆきさんが、パンダ館のお庭にパラソルを立て、
みゆきさんの家から持ってきた降雪機で作った雪山で涼んでいます。
デッキチェアでくつろぎながら、冷たいサトウキビジュースや新鮮な果物を楽しむ様子はまるで南国リゾート。
2人が見上げるパンダ館の屋上には大輪のひまわりの花がいくつも顔を覗かせて、鮮やかな黄色が優しく風に揺れています。
この3月に手術をしたみゆきさんの全快祝いに、タンタンが「ひまわりのお花見」をしようと誘ったのでした。
『嬉しいわぁ。私、今年の桜のお花見はできなかったから。ひまわりのお花見もいいものね。元気が出るわ！』
花を見上げて笑うみゆきさんは、タンタンとお揃いのひまわりの造花のついた素敵な麦わら帽子をかぶっています。
タンタンがお祝いに贈ったその帽子は、2人を更にエレガントなお嬢様と貴婦人に見せているのでした。
『あのひまわりは、飼育員さん達が育ててるなの。秋に種ができたら、タンタンの誕生日にお客さん達に配るらしいなの』
『あら、いい企画ねぇ。来年は、神戸の…ううん、きっと全国あちこちでタンタンのひまわりが咲くのね！』
『タンタンも嬉しいなの。それで、その時にひまわりの種を少し分けてもらう約束したなの。
誕生日にひまわりの種を乗せたクッキーを焼いて、お店で仲間のみんなに食べてもらおうと思ってるなの』
『お誕生日にお店を開けるのね。そうかぁ、ひまわりの種って食べられるんだったわね』

2

タンタンは休園日に「おしゃべりタンタン」という茶館を開いて、動物園の仲間たちに美味しいものをふるまっています。
今年の誕生日、9月16日は休園日ではありませんが、閉園後の夕方にでも少しお店を開けようと思っているのでした。
『そうなの。栄養があっておいしいなの。ひまわりの種のクッキー、みゆきちゃんも楽しみにしててなの』
『うん、楽しみ！　…おーい、タン当さーん！　ひまわりのお世話、よろしくねー！』
みゆきさんが屋上に向かってそう叫ぶと、作業服の飼育員さんが、ひょい、と顔を出し、
「はいはい、お姫様たち、仰せの通りに！　だから2人とも元気でいてくださいよ！」
真夏の熱気に汗だくの飼育員さんとは正反対に、優雅なリゾートモードのタンタンとみゆきさんは、顔を見合わせて明るく笑いました。
やがて9月になり、屋上のひまわりはたくさんの種を付けました。
飼育員さん達は種を取り、タンタンのお誕生日にお客さんに配るために手分けして袋詰めします。
お誕生日の数日前、タンタンは約束通りに残った種を分けてもらい、お店の窓辺に大切そうに置きました。
『大切なひまわりの種なの。とっても楽しみなの』

その夜…タンタンが眠った後、窓辺に置かれたひまわりの種の袋のそばで、小さなふたつの影が、何やらひそひそとささやき合っているのが
聞こえたような気がしました。

3

そして迎えたお誕生日の朝。
28歳のタンタンを真っ先にお祝いしようとみゆきさんがお店に行くと、タンタンは甘い香りのお皿を手ににっこりと振り返りました。
『おはようなの。今クッキーが焼けたところなの。今日はカバのナミコちゃんもお誕生日だから、カバさん型のもたくさん焼いたなの。
ドライフルーツ入りのクッキーなの』
『あら、タンタン、確かクッキーには、ひまわりのた…』
言いかけたみゆきさんに、シーッと口に指を当てて、タンタンはテーブルを指さしました。
そして耳元でささやきます。
『…今日来たら、ここにお誕生日プレゼントが置いてあったなの』
見ると、そこには竹で作った簡単な鉢が数個と、千代紙で作ったひまわりの紙細工が置いてあったのです。
竹の鉢には花やタンタンの似顔絵らしいパンダの絵が描かれ、「ひまわりの、うえきばち」とクレヨンで書いた紙が添えられていました。
『これって…誰からの…？』
『タンタンには2人の可愛い妖精さんがついてるなの。きっと、妖精さんたちが種を見て、タンタンがひまわりを育てると思って、
用意してくれたと思うなの』
『まぁ…』
みゆきさんは目を丸くして、それから頷きました。
(…これじゃあ、ひまわりの種は食べられないわね)
(…そうなの)
2人はひそひそ声で話し、くすくす笑いました。

4

『春になったら、この植木鉢にひまわりの種を植えるなの。
苗が大きくなったらまた屋上やお店のお庭で咲かせるから、来年もまた一緒にひまわりお花見しましょうなの！』
『うんうん、約束ね！　来年もまたタンタンのひまわりを見て、お誕生日には次の年の種を取って、ずっと毎年お祝いしましょうね！』
さぁ、今日はこれから大忙しです。
動物園のお誕生日イベントに、取材、動画配信、果物たっぷりの氷ケーキと見事な細工のスイカの贈呈式の様子も公開されて、
そして約束通り訪れたファンの皆さまへのひまわりの種のプレゼント。
夜には、それぞれに考え抜いたプレゼントを持って、動物たちがお店に大勢集まるでしょう。
みんな、タンタンのお誕生日を祝えるのが嬉しくてたまらないのです。
『来年も再来年も、その次も。ずーっと、ずーっとね！！』
そう言ってまた、28歳と32歳のお姫様達は手を取り合い、顔を見合わせてにっこりしました。

そして、そんな2人の様子を、窓辺のローズマリーの鉢植えの陰で。
『ママ、ぼくたちのプレゼント、よろこんでるね！』
『ママのえがお、ひまわりみたい！』
可愛い女の子と男の子の妖精さん…お空に行ったタンタンの小さな子供たちが笑顔で見守っているのでした。

おしまい

また長文になりました。読みにくくなければ良いのですが…。
9月はお誕生日が多く、たくさん書き込みしてしまってすみません。
しばらくは控えようと思っています。
ありがとうございました。

今昔