浜家の小話・お電話tellll…♪

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(サムネ:わいわい)

浜家の小話・お電話tellll…♪

広々とした敷地内にたくさんのパンダ施設が建ち並び、遠くにはタケノコタワーがそびえる成都パンダ基地。
この一角の検疫センターと呼ばれるお庭つきの建物の中に、6月末に白浜からやってきた母と娘達が暮らしています。
今は無事に検疫期間も過ぎ、基地内の新居に引っ越す日を待っています。
ここには先に中国に行った浜家の家族もたくさんいるので、みんな暇さえあれば電話で楽しくおしゃべりしているのです。
その中でも、頼りになる長男・雄浜くんは、浜家の女子たちからいろいろと頼まれごとが多いようで…。

小話その1

ある日、雄浜くんのお部屋の電話が鳴りました。
telllll…telllll…telllll♪

プル『もちもち、雄浜おにいちゃんでちゅか。プルは、おやすみまえのいっぷくに、期間延長した限定の4種類のパンダマドラーつき果肉たっぷりPANDAドリンク4杯のみたいでちゅ』

雄浜『プルちゃん。いつも言うてるけど、お兄ちゃんは出前を注文する係のひとじゃないんやで』

ピキ『もしもし、今日はうちも注文するやで。もちもちパンケーキと尾鷲アイス包みのサバンナロールと、ルワンダ産ホットコーヒーや。お通しのポップコーンは倍量で頼むで。ミサイル補充用や』

雄浜『ルワンダ産! しばらく行かないうちに、アドベンのレストランも本格派のメニューを出すようになったんやなぁ』

プル『サファリレストランJamboには、ケニア紅茶もありまちゅ』

雄浜『なるほどなぁ。そやけど、あのレストランは園内で一番の高級店で、ちょっとお高いよなぁ…もうお兄ちゃんの財布は秋風ビュービューやで』

ピキ『なんや雄兄、知らへんのか。園内レストランは、浜家は社員割引きありやで』

雄浜『ええっ! 知らなかったよ、早う言うてよ! 誰かさんみたいにリボ払いに手ぇ出してしもたやんかー!ゴロンゴロン』

小話その2

ある日、雄浜くんのお部屋の電話が鳴りました。
telllll…telllll…telllll♪

プル『もちもち、雄浜おにいちゃんでちゅか。プルは、おひるに、期間限定の海の幸のアヒージョプレートがたべたいでちゅ。
シュリンプフライと、あらかわの桃ジュースもおねがいしまちゅ』

雄浜『うん、プルちゃん。またお高いサファリレストランJamboのメニューなんやね…白浜にいる頃、社員割引で食べまくってたんやろねぇ』

プル『あいっ、Jamboには遠隔操作の分身ロボットOriHimeちゃんもいるでちゅ。プルはおともだちになったでちゅよ』

雄浜『めっちゃ常連さんだったんやねぇ。えっと…アヒージョプレート2800円かぁ。でも美味しそう…僕も社員割引きで食べよっかな』

結浜『もしもし、雄浜お兄ちゃん、今日は結も注文するね! 結はもっとリーズナブルなのでいいよ。
レストランSmile Kitchenの和歌山の龍神村産の、龍神しいたけのきのこデミハンバーグと、和歌山プレミアムスムージーのみかん!』

雄浜『和歌山愛にあふれてるねぇ』

結浜『ついでに、龍神しいたけの種菌と原木ももらってきてね! 結、この秋はキノコの菌打ちに挑戦するから!』

雄浜『結ちゃん、検疫センターのお庭で農業したらアカンて! 菌打ちって! 本格派か!』

小話その3

ある日、雄浜くんのお部屋の電話が鳴りました。
telllll…telllll…telllll♪

ピキ『もしもし、雄浜兄ちゃん、うちや、ピキや! うちは怒ってんねん! なんとかしてや!』

雄浜『えー、どしたん?』

ピキ『この前、こっちの飼育員さんが「ピキちゃん、そろそろ公開デビューの時のキャッチフレーズを作ろうと思うアル。どんなのがいいアルか?」って聞いてきたんや。
それで、うちは『それより、検疫も終わったのに、いつまでここにおらなあかんねん。うちは早くタケノコタワー前に降臨して神様としてお賽銭ガッポガッポせなあかんのや。
これではまるで、捕らわれのお姫様やミーミー』って言うて、キャッチフレーズ作るなら「捕らわれのお姫様・プリンセスピキ」にしろ、って言うたんや!』

雄浜『捕らわれのお姫様…童話みたいやねぇ』

ピキ『そしたら!「キャッチフレーズ入りの名前プレートができたアル」って持ってきたのを見たら、「捕らわれの大王・ピキ」って書いてあったんや!! 書き直せーー!!』

雄浜『戦国武将大河ドラマみたいやな!!』

小話・番外編

8月のある日、雄浜くんのお部屋に飼育員さんがやってきました。

飼育員さん「雄くん、ちょっと困ってるアルよ。プルちゃんがずっと扉に張り付いて、お庭に出たがらないアル。ついたあだ名が門浜アル。
雄くんが毎日毎日、出前を頼んでやるから、ずーっと扉の前で出前待ちしてるアルよ」

雄浜『うん、だって、毎日毎日出前を頼まれるんやもん。好きで注文してるわけやないんやで』

飼育員さん「もうすぐ「大熊猫・良浜一家、生活日誌(二)」を撮影する予定アル。日本の皆さんが心配してるから、プルちゃんに庭に出てほしいアルよ』

雄浜『そっかー、うん、分かった』

telllll…telllll…telllll♪
雄浜『もしもし、プルちゃん。今日も出前を頼みたい?』

プル『あいっ! プルは、おやつに、期間限定の近大マンゴーのフルーツグラタンと、トロピカルマンゴーとクリーミーフローズンがたべたいでちゅ』

雄浜『そっかそっか、じゃあね、今日はお庭で、出前を運んでくれる鳥さん宅配便が来るのを待ったらどうやろ。その方が早く受け取れるし、お外で食べると美味しいよ』

プル『えっ、お外はおいちいでちゅか?! わかったでちゅ!』

後日…
飼育員さん「雄くん、ありがとうアル! 無事にプルちゃんのお庭動画を撮れたアルよ! ただ、プルちゃんが『マンゴー♪マンゴー♪』って歌いながら歩いてたから、虫の声かぶせて誤魔化したアルケド」

雄浜『良かったねぇ。暖かいフルーツグラタンと冷たいマンゴーフローズンと一緒に出前してもらうのは大変やったけど』

飼育員さん「さすが、浜家の長男は頼りになるアル。それで、妹さんのことではまだ困ってることがあるアル。結浜が庭でしいたけの菌打ち始めたアル」

雄浜『どこから龍神しいたけの種菌と原木もらってきたんや?! 僕は手配してないで!!』

飼育員さん「あと、ピキちゃんがご飯の時に柵の前に座って、両手で柵を握りしめて『ご飯はまだかー!うちは捕らわれのお姫様やー!』って叫ぶアル」

雄浜『どこから見ても、捕らわれの大王やな! 三国志か!』

小話・姉と弟の物語

白浜の青い空と海、緑の芝生。
幼い姉と弟の、遠い昔のある日の思い出…

『♪雄ちゃんはね、雄浜っていうんだホントはね
そやけど甘えん坊で、自分のこと雄ちゃんって呼ぶんやで
おかしいね、雄ちゃん

♪雄ちゃんはね、バナナが大好きほんまやで
そやけどパンダやから、バナナがちょっとしか食べさせられへんの
かわいそうね、雄ちゃん

♪雄ちゃんがね、遠くへ行っちゃうってほんまかな
そやけどアホやから、ラウのこと忘れてしまうやろ
アホの子や、雄ちゃん……』

「あら、ラウちゃん、お歌うたってるの?」

『あっ、とも子姉ちゃん…いや、何でもあらへん!』

お庭でお空を見上げながら、1人で歌っていた3歳の良浜は、後ろから声をかけた馴染みの飼育員さんに驚いてブンブンと首を横に振りました。

「うふふ、雄浜もね、さっき向こうで飼育員相手に歌を披露してたのよ。 ♪雄ちゃんはね、姉ちゃんが大好き、ほんまやで!♪ ~って」

『…ふん、ジャイアンリサイタルか。あの赤ちゃん返りの甘ったれが』

「ねぇ、ラウちゃん。雄浜の中国へ行く歓送セレモニーの日が決まったの。ラウちゃんも一緒に出てね。ご馳走いっぱいお庭に並べるからね」

『そっか……あの、ご馳走って、バナナはあるのん?』

「あー…バナナは糖分が多いから今回はあげられないかなぁ。雄くんの好物だけどね」

『ふーん…まぁ、どうでもええけど』

「ラウちゃん、雄くんが行ってしまうの、寂しいの?」

『はぁ? 何言うてんの、あんな甘ったれのアホな弟、いなくなってせいせいするわ! ラウは、もう雄浜と会うことがなくても平気……』

**************

『…雄浜と…会うことが…なくても……んー…あれ?……ああ、夢かいな。アホらし』

竹とタケノコに埋もれたベッドで、良浜は目を覚ましました。
見回せば、検疫センターのお部屋の中。
お昼寝して、幼い頃の思い出の夢を見ていたようです。
しばらく不機嫌そうにムスッとしていた良浜でしたが、やがてお部屋の隅の電話に向かいました。

telllll…telllll…telllll♪
良浜『もしもし、雄浜か? うちらの検疫期間も終わったのに、なんで新居に引っ越しできひんねん!
冷暖房とテレビとウエルカム筍盛り合わせ鉢と、蜂蜜入り水の水道と食べ放題リンゴと昼寝用パンダをダメにするクッション付きの新居は用意できてるんやろな!』

雄浜『なんか、どんどん要求が増えてない? いやー、今は暑くて引っ越しに向いてない時期やからねー、もうちょっと待っててよ』

良浜『まぁ検疫は開けたからな。ここでも娘らも自由にお互いの部屋を出入りできるようになったし、賑やかにやってるけどな』

雄浜『そうそう、のんびり待っててよ。その代わり、ラウ姉たちが検疫センター出てくる時には、浜家みんなで派手にパーティするからね!
弟や妹たちは新居でご馳走並べてパーティの準備、検疫センター前には僕の妻子たちをずらっと並べて、みんなで挨拶させるんや!
いっせいに頭を下げて声をそろえて「姐さん! オツトメご苦労様でした!」って』

良浜『アンタは女房子供らに私のことを何やと伝えとるんや! 私はイワシタ シマか! 極道の妻か!』

雄浜『えー、いいアイディアやと思ったのにー』

良浜『…ったく、アホやな。…それはそうと、パーティのご馳走って…バナナとかあるんか?』

雄浜『えっ、バナナ? いや、まだ分からへんけど、バナナかー、いいよねーバナナ、僕の大好物なんや!』

良浜『へー、そうかいな、へー』

雄浜『うん。あのな、僕が中国に来てしばらくして、病気になったことがあるって話したよね。その時、バナナ食べさせてもらって元気になったんや。それからますますバナナ好きになったなー』

良浜『ふーん、アンタがバナナ好きやなんて、ぜんぜん知らんかったけどなー』

そんな風にとぼけた良浜でしたが、本当は知っているのです。
小さい頃にちょっとだけもらったバナナを、雄浜が喜んで食べていたこと。
でも…雄浜が中国に来て数年たった頃に病気になったこと、それで命まで危うくなったことは、つい最近まで知りませんでした。
心配をかけまいと、雄浜がずっと内緒にしていたからです。

(…ほんまに、もう二度と会えなくなるかもしれんところやったんやな……良かった、元気になってくれて……)
小さな声でつぶやいた言葉は、雄浜には気付かれなかったけれど。

雄浜『ラウ姉、出所パーティ、楽しみやなー! 早く会いたいなぁ、20年以上会えなかったんやもんね!』

良浜『誰が出所や! ふん、どうせあんたはアホやから、私のことなんか忘れて過ごしていたんやろ』

雄浜『ええっ、ラウ姉のこと、一日だって忘れたことなんかないで! 弟たちが生まれて僕が寂しかった時、そばにいてくれたのはラウ姉やんか。
僕が家族を作れたのも、ラウ姉が躾けてくれたおかげやし、僕、こっちでずーっとずーっとラウ姉の幸せを祈っていたんやで!』

良浜『ハイハイ…さすがは子沢山パパや。その照れもせずに褒めちぎる台詞回し、永明さんに似たんやろかね』

弟を軽くあしらいながら、良浜は窓から外の庭を眺めます。
光がさんさんと降り注ぐ緑の庭に、娘達が集まってキャッキャッとはしゃいでいるのが見えました。
検疫が開けて、センターの中なら一緒にいられるようになって、姉妹たちは楽しそうなのです。

(…家族って、いいものやね…。永明さん、私に家族を作ってくれて…兄弟を作ってくれて、ほんまにありがとう。私はどこにいても、家族と生きていきます…)

庭の木の梢から、ひらりと黒いアゲハ蝶が舞い降りました。
蝶を見て喜ぶ娘達の声を聞きながら、もう一方の耳では雄浜がパーティのご馳走をあれこれと並べる声を聞きながら。
良浜は、遠い昔の幼い姉と弟の日々を思い出して、小さく微笑みました。

おしまい

(今昔さん):補足
雄浜くんが白浜にいた時にバナナを食べたことがあるかどうかは分からないのですが、中国で病気になり(おそらく腸閉塞)、命の危険もあった時に、
竹などが食べられないのでバナナを食べさせてもらっていて、元気になってからも食べたがっていた…という話を聞いたことがあり、
雄浜くんの好物はバナナなのだと思っております。
病気の話をラウちゃんが初めて聞いたエピソードは、以前「パンダ記念日~雄浜のバースディとラウ姉ちゃん」という題で書いています。

パンダ記念日 ~雄浜のバースディとラウ姉ちゃん-2022/12/18(日)
720: 名無しさん? (ワッチョイ 6ac5-DiWi) 2022/12/18(日) 03:39:41.22 ID:IumONpna0今昔です。長く規制されていたので(このスレにしか書いてないんですが…)、最後まで投稿できるか分かりません...

投稿代行:わいわい
最後までお読み下さりありがとうございました。
作者さまへ(今昔さんへ)ご感想をワイワイスレ等に頂けますと幸いです
☺️