文豪缶詰プラン　御徒町力男編　その11〜その12-2020/04/07(火)

～文豪缶詰プラン　御徒町力男編　その11

コンコン
「はい」
あの二人かな　私はドアを開けた
そこにはスーツ姿の番頭と頬に毛をつけたボディコン姿の若女将が立っていた
「おや、衣装替えしてきたんですね」
「私達は先生の原稿をまつんでしゅよ　ｻﾗｻﾗｰ」
若女将が頬毛をかきあげる仕草をした
「原稿仕上げてな」
「はい、わかりました」
編集者のつもりらしい　ボディコン流行っていたのはいつだっけとふと思った
「おじゃましましゅ　ﾌﾟﾐｰ」
「じゃまするでー　これ、差し入れや」
「あ、どうも」
差し入れに持ってきてくれたのは3個のマドレーヌだった
「これ、試食でしゅ　レロリーヌのマドレーヌっていいましゅ　おいしいでしゅよ」
若女将と番頭はちゃっかり自分の分を取り始めた
「マドレーヌか　コーヒーありますか？　あなた達の分はおごりますよ」
私はコーヒーが飲みたくなった
「あい、では持ってきてもらいましゅ　電話おかりしましゅね」
若女将が電話をした
「若女将、いえ、編集者のプミ子でしゅ　ええ、先生にコーヒーをお願いしましゅ　わたくちとピキ太郎さんの分もお願いしましゅ　あい」
ﾄﾞｽﾄﾞｽﾐｼﾐｼﾕﾗﾕﾗ
暫くすると独特の音と揺れを感じた　これは大女将か
コンコン
「大女将です　コーヒー持ってまいりました」
「はいどうぞ」
「失礼します　ﾐｼｯ　あ、あら？」
「オオカミ　斜めでしゅ」
「ﾋﾟｷｰ（斜めや、斜め　体斜めにして入るんやで）」
「あ、あらそうだったわ　ｵﾎﾎ　ﾖｲｼｮｯﾄ」
お盆にはコーヒーポットとカップがのっていた
部屋に入ると大女将はコーヒーポットからカップに注いでくれた
部屋にコーヒーのいい香りが漂っていく
「はい、先生　コーヒーでございます　ミルクとお砂糖はここに置いておきますね」
「ありがとう」
「オオカミ、わたくちにもコーヒーでしゅ」
「誰がオオカミですって？　それにあなた達はまだコーヒーはダメです　はい、二人はミルクね」
「あいっ」
「まあしゃーないわな」
若女将と番頭のコーヒーカップにはミルクが注がれた
「先生、二人の編集者に構わずお仕事続けてくださいね　では失礼します」
「はい、ありがとう」
大女将は体を斜めにして部屋を出て行った

～文豪缶詰プラン　御徒町力男編　その12

若女将と番頭　いや、二人の編集者はマドレーヌとミルクを堪能していた
「おいちいでしゅね　ｳﾌﾌ」
「うまいな　先生、気にせず仕事続けて―な　ﾓｸﾞﾓｸﾞ」
ボディコン姿の若女将は時々頬毛をｻﾗｻﾗさせながら、口の回りにミルクをつけていた
「もう、しゃいないなー」
スーツ姿の番頭は若女将にティッシュを渡した
「ほれ、ミルクふきんしゃい」
「だいじょぶでしゅ　ちゃんとふきましゅ」
「ちちくさいやで」
「ちちくさいのはそっちでしゅ　ﾌﾟﾐｰ」
そんな二人のやり取りを私は微笑ましく聞いていた
二人に背を向ける形で私は外を見ながら作業を続けていた
外からは爽やかな風が時々入ってくる
時々鳥の鳴き声も聞こえた
ホーホーホッホッホー
「鳩しゃんでしゅね」
「キジバトやで」
「そうだね」
「鳩はまあまあだとオオカミがいってまちた」
「ﾋﾟｷｰ（シー　それいうたらあかん）」
なぬっ？　私はマドレーヌを持ったまま暫く動きが止まった
大女将はなんでも食べるのか？
「先生？先生」
「なんかフリーズしてるみたいや」
はっ　いかんいかん　作業を続けないと
「あ、うごきまちた」
「先生、うちらは気にせんでええよ」
「はい」
私は作業に戻った
静寂なひととき
暫くすると、背後が静かになった
すうぅ～　ぴぃ～
ん？なんだろ
振り返ると、二人は寝ていた
若女将は結構すごい顔になっていたが、見なかったことにしてあげよう
私はベッドルームから毛布を持ってきて二人にかけてあげた