彩浜と楓浜のおでかけ
~ここは浜家の大きなリビング…の中にあるステキなキッチン~
桜浜と桃浜が三時のおやつを楽しそうに作っています。
そのそばで、良浜は紅茶の缶が並んでいる棚を見つめて、今日のお三時に合う紅茶はどれがいいかしらと迷っていました。
おや?彩浜が良浜の足元まできましたよ。
彩浜は良浜のエプロンを引っ張って、顔を見上げて言いました。
「おかあしゃん、さい、おでかけするでしゅ」
「あら、彩ちゃん、どこに行くのかしら?」
「おにわの、おはなばたけにいきたいでしゅ」
「お庭の端のお花畑に行きたいのね。そうねぇ、今日はお天気も良いし、気温もちょうどいいから、ええ、行ってもいいわよ」
「はいでしゅ!」
「じゃあ、おでかけ用におやつと飲み物を用意しましょうね」
良浜は、さっそく彩浜用の小さな水筒に麦茶を入れ、クッキーを二枚ナプキンに包んでいます。
彩浜は良浜が準備をしているカウンターに両手を乗せて、その様子をワクワクしながら眺めていると、
突然
「いたっ!いたいでしゅ!」と声を上げました。
「どうしたの!!彩ちゃん!」
良浜が驚いて彩浜の方を見ると、彩浜の足に楓浜がぎゅーっと力を入れて掴まり立ちをしていました。
「まあ!楓ちゃん!そんなに力を入れて、お姉ちゃまのあんよに掴まったら、彩お姉ちゃまが痛い痛いになるでしょ!」
良浜はそう言うと楓浜を抱き上げて、顔を見ながらダメですよと言いました。
「ブー!!バブー!!」
「ふうちゃん、おこってるでしゅか?」
「いいえ、楓ちゃんは怒ってるんじゃないわ。何か言いたいのね。どうしたの?楓ちゃん」
「ブー!バーブー!」
「あら、そういうことだったのね」
「ふうちゃん、なんていってるでしゅか?」
「『ふうも、さいおねえちゃまとおでかけする』って言ってるわ」
「ふうちゃんもおでかけしたいでしゅか?」
「バブー!バブー!」
「楓ちゃん、彩お姉ちゃまと二人だけだと心配だわ。お母さんもついていくわね」
「ブー!バーブー!」
「え?嫌なの?困ったわねぇ。彩ちゃんは何度もお花畑に行ってるから安心だけど、楓ちゃんは初めてでしょう?」
「おかあしゃん、さい、おひなちゃまといっしょに、ふうちゃん、おはなばたけにつれていけるでしゅ」
「そうねぇ。少し心配だけど…分かったわ、彩ちゃん、楓ちゃんを連れていってあげてくれるかしら?」
「はいでしゅ!まかせてでしゅ!」
良浜が彩浜にリュックを背負わせると、彩浜はおひな様を抱っこして出かける準備をしようとしました。
すると良浜が、
「おひな様を抱っこしてると、両手があかないわねぇ。両手があかないと楓ちゃんを連れて歩くには危ないわ」
と考え込みました。
「お母さん!ゆいのお人形さんのおんぶ紐を使ったら?」
「あら!それはいいわね」
「お母さん、ちょっと待っててー!」
結浜は自分のお部屋にバタバタと走って戻り、おんぶ紐を取ってくると、またバタバタとリビングに戻ってきました。
「はい!これ。ゆいが小さい頃に使ってたお人形さん用のだから、おひな様にちょうどいいと思うの!」
「まあ!これはちょうどいいわ!ありがとう、結浜」
良浜はそう言うと、結浜の頭を撫でました。
結浜はエヘヘとちょっぴり照れくさそうに笑いました。
良浜は彩浜におんぶ紐でおひな様をおんぶさせました。
「でもこれじゃあリュックは背負えないわねぇ」
と、また良浜は考え込みました。
すると彩浜が、
「草刈正雄しゃんのマサ散歩のショルダーバッグがあるでしゅ!」
「そうだったわね!あれなら斜めがけにすれば、おんぶしてても持てるわね」
良浜はそう言うと、リュックに入れた水筒とクッキーの包み、楓浜の哺乳瓶など、おでかけに必要なものをショルダーバッグに移し替えました。
「さあできたわ!彩ちゃん、これで大丈夫かしら」
「だいじょぶでしゅ!これでおでかけできるでしゅ!」
「バブー!バブー!」
「楓ちゃん、彩お姉ちゃまの言うことをよく聞くんですよ」
「バーブ!!」
良浜は、彩浜と楓浜におよそゆきの麦わら帽子を被せました。
「しょれでは、いってきましゅ!」
「いってらっしゃい!」
そう言って、彩浜は良浜と結浜に手を振り、背中におひな様をおんぶして、ショルダーバッグを斜めがけにし、楓浜と掃き出し窓から、お庭におりて出かけていきました。
トコトコトコトコ…てちてち…ぴょこんぴょこん…コテッ
トコトコトコトコ…てちてち…ぴょこんぴょこん…コテンッ
「ああっ!ふうちゃん、だいじょぶでしゅか?」
彩浜が楓浜に駆け寄ると、
「ブー!バーブー!」
楓浜は、腹這いに転がったまま、キリッとした表情で彩浜を見上げました。
「あ、じぶんでおきれるんでしゅね。わかったでしゅ」
彩浜はちょっぴりハラハラしながら、楓浜が自分で起き上がるのを見守ることにしました。
楓浜は起き上がると何事もなかったかのように、またてちてちとハイハイで進み出しました。
「ふうちゃん、ゆっくりいくでしゅよ」
「バーブー!」
「おひなちゃま、けしきがきれいでしゅねぇ!お風もきもちいいでしゅ」
彩浜は時々振り返っては、おぶっているおひな様に声をかけました。
しばらくお花畑に向かって歩いていると、楓浜が何かを見つけ彩浜の方を見ました。
「バーブ?」
「なんでしゅか?あ!ありしゃんでしゅね!ふうちゃん、これはありしゃんっていうでしゅ!」
彩浜はそう言うと、ショルダーバッグの中から、クッキーの包みを出して、クッキーを小さく割りました。
「ふうちゃん、いいでしゅか?クッキーをちいさくして、ありしゃんにあげるでしゅ」
「バーブゥ?」
彩浜はお花畑へおでかけする度に、蟻たちにクッキーをあげていたので、それを楓浜にお手本として見せました。
彩浜がくだいたクッキーを蟻たちにあげると、蟻たちは更に小さくして、巣に運んでいきました。
その様子を楓浜は、お目々をまんまるにして、興味深そうにじーっと見つめていました。
蟻たちはどんどん遠くにクッキーを運んでいくので、楓浜もハイハイで蟻たちについていきました。
蟻の巣に着くと、蟻たちは巣の中にするすると消えていきました。
蟻たちが次から次へと消えていくので、またまた楓浜はお目々をまんまるにして不思議そうに見ていました。
すると突然、
バーン!!バーンッ!!と、楓浜は蟻たちが消えていく巣のそばを叩き始めました。
「ふうちゃん!だめでしゅよ!そこは、ありしゃんたちのおうちでしゅ!たたいたら、びっくりしちゃうでしゅ!」
「バーブ!!」
楓浜はまたキリッとした表情で彩浜を見つめました。
「ありしゃんたちにごめんなさいするでしゅ」
彩浜は蟻たちにペコッと頭を下げました。
ふたたび彩浜と楓浜はお花畑に向かって歩きだしました。
トコトコトコトコ…てちてち…ぴょこんぴょこん…コテッ
トコトコトコトコ…てちてち…ぴょこんぴょこん…コテンッ
「ああっ!ふうちゃん、だいじょぶ…」
彩浜がそう言いかけると、楓浜はすでに起き上がろうとしていました。
すると、楓浜は目の先に、また何かを見つけ、速いスピードで向かっていきました。
「ふうちゃん!どうしたでしゅか?」
彩浜が楓浜を追いかけていくと、
そこにはスズメたちが水たまりで遊んでいたのでした。
「バーブ!バーブ!!」
「これは、スズメさんっていう、とりさんでしゅよ!」
彩浜はそう言うとまた、ショルダーバッグの中から、クッキーの包みを出して、クッキーを小さく割りました。
「ふうちゃん、いいでしゅか?クッキーを小さくして、スズメさんたちにあげるでしゅ」
「バーブ!!」
彩浜は楓浜に小さく割ったクッキーを持たせて、楓浜の手を取り、スズメたちに向けてクッキーをそっと投げました。
「こうするでしゅよ」
「バーブ!!」
楓浜は、彩浜に教わったように、自分でスズメたちにクッキーを投げてみました。
そして、スズメたちが寄ってきてクッキーを突いて食べ始めたのを、じーっと興味深そうに見つめています。
「スズメさんたち、かわいいでしゅね!」
「バァーブ!」
楓浜は彩浜の方を見上げて、ニコーッと笑いました。
スズメたちが自分のあげたクッキーを食べてくれて、満足したようです。
二人はしばらく、スズメたちにクッキーをあげたり、それを静かに眺めたりしていました。
すると、突然黒い大きな影が二人を覆いました。
バサーーーッ!!バサーーーッ!!
スズメたちがエサを食べていることに気付いたカラスの大群が集まってきたのでした。
「きゃー!!カラスしゃん、やめてくだしゃい!」
「バーブ!!!バーブ!!!」
彩浜は麦わら帽子を手に持ち、それを大きく振って、襲ってくるカラスたちを追い払おうとしました。
しかし、カラスの数が多すぎて、なかなか追い払うことができません。
バサーーーッ!!バサーーーッ!!
カアーーーッ!!カアーーーッ!!
楓浜も彩浜の真似をして、小さなお手手を一生懸命振りました。
すると、一羽のカラスの目が光った気がしたと思った瞬間、
楓浜の振っているお手手に握りしめていたクッキー目掛けて、カラスが空高くから急降下してきたのです。
「あぶない!!ふうちゃん!!」
とっさに彩浜は楓浜に覆い被さりました。
急降下してきたカラスは、彩浜の背中にバウンドして、また空高く飛びました。
楓浜のクッキーを取り損ねたカラスたちは、
何度も何度も楓浜のクッキーを狙って襲ってきては、
彩浜の背中に何度も何度もバウンドしていきました。
「いたいでしゅ!」
彩浜は楓浜に覆い被さったまま、痛みと恐怖でいっぱいになり、今にも泣き出しそうになりました。
でも、楓浜を守らなければいけないと、涙が溢れてきてもぐっと我慢しました。
「カラスしゃん!やめてくだしゃい!」
「バーブ!!バーブ!!」
楓浜がジタバタと動いて、彩浜の力で抑え込むのが苦しくなってきました。
「ふうちゃん!じっとしていてくだしゃい!」
「バーブ!!」
楓浜はますます大きく動いて、とうとう彩浜の腕の間から抜け出してしまいました。
「あっ!!ふうちゃん!だめでしゅ!!」
てちてちと抜け出した楓浜を、いち早く見つけたカラスたちが、彩浜から楓浜へ目掛けて方向転換し、すごいスピードで飛んできました。
「あぶないっ!ふうちゃーーーん!だめーーーっ!」
彩浜は楓浜が襲われる!!もうダメだ!!
そう思ったとき…、
「カラスたちーーーー!!!どきなさーーーーいっ!!!」
彩浜の後ろの方から、大きな声が聞こえたのでした。
桜浜と桃浜、結浜です!
「おねえちゃま…」
「カラスたちーーー!!彩ちゃんと楓ちゃんから離れなさーーーい!!」
桜浜はそう叫びながら、長い竹を大きく振り回して、カラスたちを走って追い払いました。
桃浜は、動けなくなっている彩浜に駆け寄り、
「大丈夫?彩ちゃん、痛いところはない?」
と、抱き起こしました。
結浜はおうちから持ってきた大きなピクニックバスケットから、救急セットを取り出しました。
ようやくカラスの大群が遠くに飛んでいき、桜浜は楓浜を抱き上げて、彩浜のそばに戻ってきました。
「彩ちゃん、大丈夫?よくがんばったね!」
彩浜は桃浜に背中に背負っているおひな様を下ろしてもらい、カラスの足で傷つけられた背中を結浜に手当してもらいました。
「ふうちゃんはだいじょぶでしゅか?」
「うん、大丈夫よ!ね!楓ちゃん!」
「バァーブ!」
「よかったでしゅ」
彩浜はホッとしました。
「でも…おひなちゃまが…」
おひな様は彩浜の背中に背負っていたので、カラスからの攻撃でお着物と御髪がボロボロになってしまいました。
彩浜はボロボロになったおひな様を見つめていると、カラスに襲われたときの恐怖がよみがえり、我慢していた感情が吹き出してしまいました。
「わあーーーん!わあーーーん!」
彩浜は泣き出してしまいました。
「よしよし、彩ちゃん、怖かったね…よくがんばって楓ちゃんを守ってくれたね」
桃浜は彩浜をぎゅーっと抱きしめて、いつも良浜がするように優しくポンポンとしました。
桜浜は、
「どうしようか、彩ちゃん、おうちに戻ろうか?それとも、お花畑に行きたい?」
と、優しく聞きました。
「…おはなしゃん…いきたいでしゅ…ヒック…グス…」
「わかった!」
桜浜はそう言うと、楓浜を桃浜に託して、彩浜の前でしゃがみました。
「はい!彩ちゃん、おんぶしていくから背中に乗って!」
「はいでしゅ!」
彩浜は桜浜におぶさりました。
桜浜は彩浜をおぶり、桃浜は楓浜を抱っこして、結浜はおひな様と大きなピクニックバスケットを持ち、みんなでお花畑に向かいました。
しばらくお庭の景色をゆっくり楽しみながら歩いていると、お花畑が見えてきました。
「ほら!お花畑が見えてきたよ!」
「わー!おはなしゃん、いっぱいでしゅ!」
「バァーブ!!」
「ゆい、先に行ってシートとか敷いて準備しておくねー!」
「分かったわー!お願ーい!」
「はーい!」バタバタ…
結浜はお花畑に先に着いて、ふかふかのキルトの大きな敷き物を芝生の上に広げ、
敷き物の上におひな様とピクニックバスケットを置きました。
そして、トレイの上に、さっき桜浜と桃浜が作っていたおやつと、紅茶と楓浜のミルクが入った哺乳瓶などを並べました。
準備ができたところに、みんなも到着しました。
「わー!キレイに並べてくれたのね!結浜!」
「ありがとう!結ちゃん!」
「ありがとうでしゅ!」
「エヘヘー」
「バァーブ!」
そして、ふかふかのキルトの上にみんな座って、
桜浜は彩浜を、桃浜は楓浜のお顔やお手手をおしぼりで拭いてあげました。
結浜もおひな様の汚れたお顔を、優しくおしぼりで拭きました。
「さあ!ではでは!気を取り直して、みんなでお花を眺めながら、アフターヌーンティーにしましょうか!」
桜浜は立ち上がって両手を広げて言いました。
「さっきね、桜浜と作ったいちごのフルーツサンドとタルト・タタン。美味しいといいんだけど」
桃浜はちょっぴり遠慮がちに言いました。
「わー!かわいいー!!これ、ゆい絶対おいしいと思う!ね?彩ちゃん!」
「はいでしゅ!おねえちゃまのスイーツはおいしいでしゅ!」
楓浜はというと、
「んっく、んっく…」
桃浜に手を添えてもらって、上手に両方のお手手で哺乳瓶を抱えて、すでにミルクを飲んでいます。
「うふふ、楓ちゃん、お腹すいたのね。美味しそうに飲んでるわ」
「じゃあ、わたしたちもいただきましょうか!」
「はーい!」
「いただきまーす!」
ワイワイ!キャッキャッ!アハハ!ウフフ!バブー!
浜家の姉妹たちのアフターヌーン・ティー・パーティーが賑やかにはじまります。
おしまい
夜中に目が覚めたら大作が!作家さんありがとうございます
カラスに襲われたくだりはとてもハラハラし、必死で妹を守った彩ちゃんの姿に涙が出そうになりました
彩ちゃんの大事なおひな様、器用なおねえちゃまたちが綺麗に直してくれたらいいな
浜家の作家さん、今回も長編大作ありがとしゃんです
正雄のショルダーがでてきたとたん、もう一方のピキちゃんキャラの「正雄ラブやでー」と言う姿が浮かんできましたw
最後はいつも楽しい笑い声で終わって幸せな気持ちになります
おひなさまをおんぶしている彩ちゃんが可愛すぎて!
最後は姉妹で楽しいティータイムになってほっこりしました
浜家の作家さん、今回も素敵なお話をありがとうございます
それぞれのお姉ちゃんぶりがとってもかわいいです
作家さん素敵なお話ありがとう
彩ちゃん含めお姉ちゃんたちがとても頼もしく素敵ですね!
カラスに襲われた場面はわたくちも心の中でタケブンブンしてしまいましたw
ゴワゴワほちい…
小さいお姉ちゃま、頑張って妹を守ったね。ステキなお話、ありがとシャンです。泣ける、泣けます。
>>723
可愛いお話ありがとうございます!!
情景が思い浮かぶからもう可愛くて仕方ない!
浜家の作家しゃん、いつも素敵な作品をありがとうございます
政雄のショルダーバッグというワードにフフってなりましたw
タケノコからの復活をお待ちしています
浜家さん、お気になさいませんようにー
彩ちゃんの持ってるバッグといえば正雄のショルダーで脳内インプット完了しましたピシィ
タケノコからの復活お待ちしてます
浜家しゃんご丁寧な訂正ありがとシャンです
想像力豊かなワイワイ民はしっかり「正雄のショルダー」で物語を読み進めていたと思いますよ!
また楽しく幸せいっぱいのお話しお待ちしてましゅよ ノホホホ~
(…夜中にすみません…浜家を書かせていただいてる者です。
>>708>>709で書き間違えがありまして
×リュックを下ろして
◯ショルダーバッグの中から
でした…
一週間も経った今ごろになってすみません
彩ちゃんの大事な正雄のショルダーバッグなのに間違えちゃいました
シンコさんにバキムシャされてタケノコになってきます…
そして、いつも長い作品を読んでくださり感想まで本当にありがとうございます。励みになります!
わいわいさんも、いつもお世話になっております
まとめてくださりありがとうございます
※わいわいより
こちらこそいつも素敵なお話を読ませてくださりありがとうございます。
リュック→ショルダーバッグ訂正しております?
タケノコから復活したらまた書かせていただきたいと思っております
よろしくお願いします…)