リビングは静まり返った中、姉妹たちはまた涙が溢れてくるのを必死でこらえていました。
そんな姉妹たちを見て、永明さんはいつものように明るく少し冗談を交えてこの場を和ませた方がいいかと、考えていました。
それからひと呼吸置いて、永明さんは言いました。
「みんな、ちょっと聞いてくれるか?」
良浜と姉妹たちは顔を上げて永明さんの方を見ました。
「今回、わしが急に中国へ行くことに決まって、みんなを混乱さして申し訳あれへん思てる…。わしかて、正直家族と離れるのは辛いし避けたいことなんや。
桜浜と桃浜が中国に行くことは、兄さんたちや姉さんたちと同じように将来二人が家族を持つためにも必要なことやさかい、ある意味喜ばしいことやけど。
…せやけど、いつも送り出すらうちゃんには辛いことには変わりあれへんよなあ。もちろん、残される結浜と彩浜、楓浜にとってはなおさらや…」
みんなはいつになく真面目な表情の永明さんの話を真剣に聞いています。
永明さんは続けて話しました。
「「浜興業」はな、ちょうどらうちゃんと結婚したころに立ち上げたんや。その頃はまだあまりお金もなかったさかい、らうちゃんが内職までしてくれてな。
せやけど、子どもも生まれるさかい、らうちゃんに無理はさせたない、子どもたちにも、ようさんごはん食べさせて、安心してのびのびと育って欲しい、そういう思いで「浜興業」を創ったんや。
そやさかい、「浜興業」の仕事はな、らうちゃんや子どもたちみんなを、こうして毎日ぬくいリビングでのんびり楽しゅう過ごしてもらうためなんや。そのためにもわしは今回の大仕事を頑張らなあかんのや」
姉妹たちは永明さんの仕事に対する想いを聞いて、お父さんの仕事は自分たちの幸せを守ってくれるためなんだと、あらためて知ったのでした。
姉妹たちみんなは、涙を拭って、うん、うん、とうなずきながら、父親である永明さんの気持ちを理解しようと心の中で反芻していました。
ところが、ただひとり納得のいかない顔をしている子がいました。
結浜です。
結浜は、今にも頭のとんがりから噴煙が噴き出そうなほど顔を真っ赤にして怒っています。
「ゆい、納得いかないもん!お母さんの隣にお父さんがいないなんてイヤだもん!お父さんがいてくれないなんてイヤだもんっ!!」
「…結浜…ごめんな…」
永明さんが申し訳ないという顔で、結浜をなだめようとすると、結浜は怒ったまま立ち上がりました。
「ゆい、お電話する!お母さん、お電話していい?」
「ええ…でも今は夜中よ。どなたにお電話したいの?」
「いいから、お電話かして!」
結浜は怒りながら永明さんの携帯電話を手に取りました。
それから結浜は、どこかに電話を掛けると、携帯電話を耳に当てて、電話した相手が出るのを待ちました。
「あ!雄浜おじちゃま?ゆいです!」
どうやら相手は雄浜のようです。
「あのね、お父さんがそっちに行かないといけないなんて、ゆい納得いかないの!だから、ゆい、すごく怒ってるの!
……でも…でもね…お父さんが、わたしたちのことを大切に思ってくれて…わたしたちが幸せにすごすためにって……グスッ
…お仕事いっしょうけんめいしてくれてること…しないといけないってこと…ゆい、ゆいね…ちゃんとわかったもん…わかったんだから……グスッ…」
永明さんの携帯電話はテレビ電話になっていたので、雄浜の困り果てた顔がリビングにあるテレビの大きな画面に大写しになっていました。
真夜中の急な電話だったので、雄浜はパジャマの上にガウンを引っ掛けて、申し訳ないというようにボサボサの頭をかいていました。
「だから…だからね、雄浜おじちゃまにお願いがあるの…あのね、リビングにも、わたしたちのお部屋にも、大きなテレビおいてよね!
それでね、いつもお父さんがリビングにもわたしたちのお部屋にもいつでもいてくれるみたいにテレビ電話をつなぐの!雄浜おじちゃま!大きなテレビだよ!すごーくすごーく大きなの!絶対だよ!約束ね!」
テレビ電話には雄浜がこちらを向いて、
「うん、うん、分かったよ!中国で、いや世界で一番大きなテレビをそちらに送るからね!あまりに大きくてビックリして腰抜かさないようにね ハハハ」
そう、リビングにいるみんなに向かって明るい表情で言いました。
雄浜は永明さんから任された仕事が立ち行かなくなったことで、永明さんを中国に呼び寄せないといけないことに責任を感じ心苦しく思っていたのでした。
でも、こればかりはどうにもならないことでした。
そこへ、少しでも家族が繋がっていると感じ合える方法を、結浜が考え、そして怒ってくれたことで、みんなの沈んで暗くなっていた気持ちが打ち砕かれたような、そんな気持ちになったのでした。
雄浜もそして永明さんも良浜も、姉妹たちもみんな、ほんの少し浜家家族の新たな形と光が見えてきたような、そんな気がしました。
そして、さっきまでのリビングに立ちこめていた空気が、がらりと変わったのでした。
「結浜、ありがとうな」
永明さんはニコニコと、結浜の頭を優しく撫でました。
「エヘヘー」
結浜は照れ笑いをしました。
「せや!結浜の大好きな殿様キングスのしーでー買うてやらんとな!がんばってくれた、ご褒美に ガハハガハハ」
「お父さん…だからね、殿様キングスじゃなくてキングアンドプリ…」
「みんなにも好きなもの買うたろうな!出発までにみんなでイオンに行こな! ガハハガハハ」
「じゃあ、今夜は夜通し、お茶会とお父さんの晩酌をみんなで楽しみましょうか」
キッチンでは良浜がいつものようにお茶やおつまみの支度を始めました。
「おおー!らうちゃんのおつまみ楽しみやなぁ!わしもお酒の用意しよかな」
「じゃあ、わたしお部屋からお菓子持ってくるわね!」
「さいもお部屋にいくでしゅ。おひなちゃまつれてくるでしゅ」
「じゃあ、彩ちゃん一緒に行こ!」
「はいでしゅ!」
「ふうも、ふうも、おかちたべゆの」
「楓ちゃん、起っきしたのね。お母さーん!楓ちゃん起きたから、はちみつ水飲ませるんだよねー?」
「ええ、桃浜、楓ちゃんお願いできる?」
ワイワイ.ガヤガヤ.ガハハ.キャッキャッ.アハハ…
家族みんなでリビングを出たり入ったり、お茶してお菓子食べて晩酌しておしゃべりして…ワイワイガヤガヤ、ようやくいつもの賑やかさが戻ってきました。
家族が仲良く、そして笑顔が溢れる浜家のリビングはこれからも続いていくのでした。
そう、いついつまでも…。
おしまい
結ちゃん頑張ったねー!
これからも浜家のリビングで賑やかな声が聞こえそうで
安心しました
ベビルさん素敵なお話ありがとうございます
>>420
ムードメーカーの結ちゃんさすが!大活躍でしたね
最後は真夜中の楽しい団欒が始まり、いつもの浜家が戻ってきたようで良かったです
夜中に叩き起こされた雄浜おじちゃまはちょっとだけ災難だったかなw
無事に最後までお話を投稿していただくことができて良かったです
ベビールームさん、素敵なお話をありがとうございました
無事に最後まで読ませていただけて嬉しかったです。
結ちゃん、ピコンから湯気かシューッと立ちそうだったんだね。でも頑張って家族をつなぐ方法を考えてくれたんだね。
明日はみんなでイオンに行って、美味しいものたくさん食べていいものいっぱい買ってもらうんですね…。
家族がみんな元気でいてくれたら、またいつでもこうして賑やかな時間を過ごせるんだろうな、と思います。
明るい浜家のリビング、私もずっと忘れません。