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パンダ今昔ものがたり~福浜と彩浜~-2021/06/11(金)-5〜10

151: 名無しさん? 2021/06/11(金) 19:39:07.68 ID:NPuE4IiZ0

パンダ今昔ものがたり  ~福浜と彩浜~

5
一瞬、辺りが光で満たされたかと思うと、気が付くと赤ちゃんは、深い深い緑に覆われた森の中、木漏れ日の落ちる竹林にいたのでした。
振り向くと、福浜は黙って微笑んでいます。
そこは不思議な森でした。
濃い霧がたちこめ、滝の音が響き、その向こうには雪をかぶった高い山々がそびえています。
竹はさやさやと風に揺れ、おごそかな交響曲を奏でているかのようです。
空気の中に、姿は見えないけれどたくさんの生き物の気配がしています。小鳥の声、動物達のささやき、命の気配に満ちた緑の中から、
ゆっくりと一頭のパンダが現れました。
そのパンダは小柄で、体形も普通とは少し違って見えましたが、白黒の毛並みも顔も確かにジャイアントパンダでした。
でも赤ちゃんには、そのパンダがとてもとても古い時代から生きているように見えたのです。
『ここはどこでちゅか? あなたは、いつから、いきているの?』
『ここはジャイアントパンダのふるさと。私は、パンダが今の姿になった頃からここにいる』
心の奥まで届くような、深い響きの声でした。
アイパッチの中の瞳は、もっと深い色でした。
雄なのか雌なのか、若いのか高齢なのか…もしかしたらこの体の中には何万、何十万、
いえもっとたくさんのパンダの魂が宿っているのかもしれないと赤ちゃんは思いました。
不思議なパンダはゆっくりと近寄り、赤ちゃんの傍に座りました。竹の葉の香りを濃く感じました。
『よくお聞き。お前はジャイアントパンダの子。私達の仲間は、もうずいぶん少なくなってしまった。
生まれた命は希望の光。お前は今までの私達の命と長い長い時間を引き継ぎ、そしてまた次の命につないでゆく力を持って生まれてきた。
決してあきらめてはいけないよ。お前の祖先が決してあきらめなかったように』
『…あい』
赤ちゃんの体が、寒さではなく、どこからともなく湧き上がる熱に満たされて尻尾の先まで震えました。
不思議なパンダの言葉には、不思議な力がありました。やっぱりとても不思議な存在でした。
でも赤ちゃんには、このパンダが自分ととても近い存在なのだと分かりました。

 

152: 名無しさん? 2021/06/11(金) 19:43:06.24 ID:NPuE4IiZ0

6
不思議なパンダは話を続けます。
『お前はパンダの子。パンダには、人に愛される力がある。
お前を愛した人は、お前の後ろにたくさんの野生のパンダを見るだろう。
そのパンダ達が暮らす山を、森を、自然を思うだろう。
自然の中に暮らす動物達を、鳥を、魚を、虫を、木々や草花や山や川や海のことを守りたいと思うようになるだろう。
ひとつの命は、次にまたいくつもの命を生み出す。だがそれだけでなく、何千、何万もの命を幸せにする。
幸せを与えられた命は、他の命の幸せを願うようになるだろう。命から生まれた次の命もまた、他のたくさんの命を幸せにするだろう。
世界はそうやって、少しずつ正常に、美しく、強くなってゆく』

さやさやと竹を鳴らしていた風が、ふいに、どぉ…っ、と強く吹きました。
その風の中に、赤ちゃんは見たのです。
きらめく夜空の星よりも多いパンダの先祖たち。地を踏みしめ、山をさまよい、花の咲いた竹やぶを捨てて長い旅に出た先祖たち。
人間とふれあい、時に傷つけられて、時に助けられてきた先祖たち。
お腹をすかせて畑に現れて銃で撃たれた泥まみれのパンダ
山中で傷つき保護されて動物園で次々と子供を増やしたパンダ
大勢の子パンダ達の中で馴染めないでいる小さな永明
白浜の運動場で楽しそうにじゃれながら木登りする永明と蓉浜
日本に到着してすぐにリンゴをぱくりと食べた梅梅
切株の中で自分の尻尾をくわえる小さな良浜
祝福されて生まれるたくさんの子供たち…
全ての出来事が、全ての記憶が、風となって赤ちゃんの体を通り抜けるように吹き抜けました。
赤ちゃんの前には先祖の記憶が、そして後には未来の子供たちの命が宿る風なのだと、赤ちゃんは気付きました。
『そうだ。その風は、私達の道。パンダと人と全ての動物達で織りなす記憶。どのパンダもみんな道の途中の存在だ。お前もそうだ。
風は決して止まらない。道は決して途切れてはならない』
言葉と共に、遠い昔からの祖先の思いが、力が、優しさが体を満たします。
そして森の中にひしめくたくさんの動物達の命が、みんなで赤ちゃんを優しく見つめているのを強く感じました。

 

153: 名無しさん? 2021/06/11(金) 19:45:39.47 ID:NPuE4IiZ0

7
『世界は、命を愛している』
『せかいは、いのちをあいちてる…』
不思議なパンダの不思議な声を、赤ちゃんは自分に言い聞かせるように繰り返します。
『世界は、パンダを愛している』
『せかいは、ぱんだをあいちてる…』
『そうだ。もう分かっただろう。お前は愛されて道の途中に生まれたパンダだ。過去と未来をつないでゆく存在だ。
これからも、ここからお前の道を歩いていかなくてはいけないよ』
『あい…あたちは、あたちはパンダの子でちゅ。強くて可愛いパンダの子でちゅ!』
赤ちゃんは力強く頷きました。
その耳には今は「パンダの赤ちゃん、がんばれ!」「きっと会いに行くよ!」とニュースを見て応援する大勢の人々の声も届いているのでした。

『そして、お前の妹は、今はここにいる』
あっ、と赤ちゃんは驚きました。
不思議なパンダの肩に、いつのまにか双子の妹、30gの小さな妹が乗っていたのです。
『おねえちゃん、あたちはしばらくここでねんねしてるでちゅ。でもきっとまた、おねえちゃんのいもうとにうまれてくるでちゅよ』
福浜が赤ちゃんを抱き上げて妹のそばに運び、ふたりはしっかり抱き合いました。
『まってまちゅ。うまれたら、たのちいこといっぱいでちゅ、みんな笑顔で、しばふはきらきらで、
はしってもはしってもたりないくらいたのちくて、おかあちゃんのお腹のうえでおひるねでちゅ、そんなせかいがまってまちゅよ!』
『わぁ、ゆめみたいでちゅ。まちどおしいでちゅ!』
お姉ちゃん赤ちゃんの言葉に、妹赤ちゃんが嬉しそうに笑いました。
竹の葉がさやさやと鳴り、木漏れ日は優しくふたりを照らします。
福浜と不思議なパンダは向かい合い、静かにふたりを見守ります。
『きっと、きっといつか…』
『またいっしょに……』
いつも笑って、楽しくて、モフモフでキラキラで、たくさんたくさん愛される幸せな世界で、また一緒に……

 

154: 名無しさん? 2021/06/11(金) 19:48:06.88 ID:NPuE4IiZ0
8
「赤ちゃんの体温が安定しました!」
飼育員さんの言葉に獣医さんが頷き、すぐに中国から応援に来ている飼育員さんたちと相談します。
「そろそろ試してもいいかもしれない。初乳をあげてみよう」
中国の飼育員さんが、緊張の面持ちで薄緑色の母乳の入ったスポイトを持ってきました。
手を消毒し、温め、慎重に赤ちゃんの小さな口にスポイトを当てます。
慎重に、慎重に…ほんの一滴を押し出すと、赤ちゃんの口が小さく動き、息を詰めて見守る飼育員さんの目に、
赤ちゃんののどの奥に消えていくミルクの滴が確かに見えました。
「やったーーー!!」
産室は歓喜の声に包まれました。何十時間ぶりかの明るい声です。
それから赤ちゃんの容態は安定し、やがて、ついに直接授乳するために良浜に渡されます。
『よく頑張ってくれたわ、私の赤ちゃん。大事な大事な赤ちゃん。お母ちゃんやで』
良浜は涙ぐみながらそう言うと、そっと赤ちゃんを抱きかかえてお乳に誘導しました。
こく……こく……
まだまだ吸う力は弱いものの、赤ちゃんはしっかりと母乳を飲み始めました。
『ええ子、ええ子や…もう大丈夫、これからいっぱいお母ちゃんと遊ぼうなぁ…』
良浜の目には、この薄桃色の小さな子が白黒のふかふかした毛をまとった姿で芝生を駆け回る姿が
早くも見えているのでした。

 

155: 名無しさん? 2021/06/11(金) 19:50:23.40 ID:NPuE4IiZ0
9
『福浜、どうもありがとう。これで良浜も安心したやろ』
産室の隅でニコニコしながら見守っていた福浜の後ろに、ふわりと降り立ったパンダがいます。
浜家のグレートマザー、梅梅です。
『ああ、お母ちゃん。僕は大したことしてへんよ。あの子の生きる力や』
お母さんの梅梅と話す時は、つられて関西弁が出てしまう福浜でした。
『それでも、あんた、自分の時のことを思い出して辛かったやろ…』
『ううん、僕は幸せだもの。家族も飼育員さん達もパンダファンの人達も、ずっと僕のこと忘れないでいてくれた。
それに、今はお母ちゃんとこうして一緒にいられるんやから』
その言葉を聞いた梅梅は、福浜をぎゅっと抱きしめました。
我が子を抱きしめながら、そして、もう一人の我が子を振り返ります。
『ほんまに良かった。良浜、あんたもよく頑張ったなぁ…母さんの誇りや。これから子育て楽しむんやで』
梅梅は良浜にそっと近づき、優しく背中を抱きました。
すると良浜の体にすっ、と力が吹きこまれ、良浜は驚いてきょろきょろしました。
『…なんやろ。今、背中が暖かくて、お母ちゃんの声が聞こえた気がする…』
その胸で、赤ちゃんが乳首から口を離して鳴きました。
『ああ、よしよし、もっと飲むか? 飲めるんやね。良かった良かった、たくさんお飲み…』
嬉しそうな良浜の声、それを見守る飼育員さんたちの後ろで、梅梅と福浜は顔を見合わせてにっこり笑い、
そして、しずかに消えてゆきました。

 

156: 名無しさん? 2021/06/11(金) 19:52:53.01 ID:NPuE4IiZ0

10
2020年6月、白浜。

パンダラブの芝生の上で、彩浜はぐっすり眠っていました。
今日はちょっと涼しくて過ごしやすく、みずみずしいお庭の緑にミストがかかって気持ち良いのです。
たけのこと若竹をたっぷりもらい、合間にちょっとリンゴもつまんではまたたけのこを食べ、
腹ごなしに芝生を駆けまわって木の上でぐるんぐるん回り、お客さん達の大歓声を浴びて、また若竹を食べて。
彩浜が何をしても、お客さん達はみんなニコニコと嬉しそうに見ています。
みんな笑顔で、芝生はきらきらです。
そうしていつものように楽しく過ごしているうちに、彩浜は竹を持ったままふんぞり返って眠ってしまったのでした。

そんな彩浜の傍らに、すっ…と現れた姿がありました。
『…なんて幸せそうな寝顔なんだろう。ふふっ、お腹にいっぱい竹の皮乗せて。
口にも切れ端が付いてるじゃないか。あんなに小さかったのに、この貫禄はもはや社長やね』
現れた福浜はそう言って笑うと、そっと口元のたけのこの欠片を払ってやりました。
そして彩浜の耳元に口を寄せると、
『彩浜、夢の中で聞いてな。今ね、お母さんのお腹の中にはね…』
こしょこしょこしょ…とささやくと、彩浜の耳がぴくぴくと動きます。
優しく微笑んで福浜が消えた後、彩浜はぱっちりと目を覚ましました。
『あれ…何や、今の声…えっと、確か、お母ちゃんのお腹に…お腹に…』
そして、彩浜の顔がぱっと輝きました。
『お母ちゃんのお腹に、妹が帰ってきた!! やったで、ピキーーーー!!』
青い空、青い海、新緑を揺らす優しい風。
鳥たちは歌い、イルカたちが水しぶきをあげてジャンプして、たくさんの動物達が祝福の声を上げます。

世界はいつでも、強くて可愛いパンダの子を待っているのです。

おしまい

 

157: 名無しさん? 2021/06/11(金) 19:57:30.91 ID:NPuE4IiZ0

皆様、仲間に入れていただき、ありがとうございます。
「今は昔…」という書き出しにしたので、題名は「パンダ今昔ものがたり」にしました。

プミちゃんはちらっとしか出ないけど、お誕生日前夜祭の今日「生まれてきてくれてありがとう!」の気持ちもこめて書きました。
パンダの子の誕生は、みんなの幸せですね。

「福浜」という名は、昔から浜家を見ていらっしゃるファンの方が何人かそう呼んでいたのをお借りしました。
(私自身はまだパンダファン新参者です)
幸浜くんの弟の福浜。「幸福」の双子。無事に育ってくれていれば、本当にその名前がついたのではないかと思ったりします。
今回のお話の舞台は数年前でしたが、これよりずっと昔からの浜家の歴史の中で気になるパンダが何頭かいるので、
またその子達のお話も書けたらと思っています。
今回より更にマイナーな子達の話題になりますが、のんびり書いていきたいです。
またよろしくお願いします。

 

158: 名無しさん? 2021/06/11(金) 20:26:49.96 ID:CnkDpLVy0
>>157
素晴らしいお話ありがとうございます!一気読みさせていただきました。これからも是非,是非,今昔さんらしい作品をつむいでいってください!ピフピフ上野より

 

161: 名無しさん? 2021/06/11(金) 21:11:08.01 ID:j8SiR12I0
>>157
今昔さん(こう呼ばせてもらいますね)、続きをありがとうございました
一気に読みました 読んだあとジーンときて、爽やかな気持ちになりました
また次の作品を心待ちにしております おちりニキより

 

162: 名無しさん? 2021/06/11(金) 21:32:09.56 ID:OBOCfSm/0
>>157
感動の壮大な作品ありがとシャンでした。感情移入して、あっという間に読み干しました。また次の子の物語よろしくお願いします。(ラミネート)

 

163: 名無しさん? 2021/06/11(金) 21:38:42.52 ID:SSdpSeuV0
>>157
読んでる間涙が止まりませんでした。

 

164: 名無しさん? 2021/06/11(金) 21:54:22.95 ID:u4JrRvuB0
>>157
お空に旅立った子達が報われたように思います
どうかいつかもしよろしければ、上野で早くに旅立った子達のことも書いてくだされば嬉しいです

 

166: 名無しさん? 2021/06/11(金) 22:47:15.60 ID:8SyQ9Sfe0

>>157
しんみり心にじわーんとくるお話ありがとうございます。ゴワゴワ片手に読み進めましたがふんぞり返って眠ってしまう彩浜ちゃんの可愛らしさに思わずくすりとしてしまいました

 

 

167: 名無しさん? 2021/06/11(金) 23:17:28.05 ID:nGv6Aocd0
>>157
素晴らしいお話をありがとうございます!
連綿と続いてきた浜家の歴史、赤ちゃんパンダちゃんが生まれては、こうして受け継がれてきたんですね
今昔さん、また浜家の中で気になるパンダちゃんのお話を楽しみにしています!
浜家を書かせていただいている者より

 

168: 名無しさん? 2021/06/11(金) 23:23:34.38 ID:TJEAyPnn0
>>157
パン歴新参者ですけど幸ちゃんはその可愛さから大好きなパンダしゃんなので、亡くなってしまった兄弟福浜とピキちゃんのお話に感動しまくりでした
お久しぶりのピフさん、おちりにきさん、ラミしゃんなどレジェンドさんたちと並ぶ感動大巨篇でした
今昔さん、これからも作品楽しみにしています
感動をありがとうございました

 

171: 名無しさん? 2021/06/11(金) 23:37:52.61 ID:WlB89Tk00
>>157
すごいなぁ…
読み終わった後しばらく鼻水たらしたまま余韻に浸ってしまいました…w
とても素敵で壮大な物語をありがとうございます
次のお話も楽しみにしています!

 

159: 名無しさん? 2021/06/11(金) 20:39:19.12 ID:TIrQ0Gdv0
今はうちの体重は生まれた時の100倍超や!もっと食べて大きくなるやでー チュルチュル モグモグ

 

165: 名無しさん? 2021/06/11(金) 22:06:52.11 ID:1aF1ju7G0
例のゴワゴワを今夜もかしてくだしゃいチクチク

 

169: 名無しさん? 2021/06/11(金) 23:36:25.03 ID:NPuE4IiZ0

IDが変わらないうちに、お礼申し上げます。
皆様、読んでいただいて本当にありがとうございます。
嬉しいお言葉をたくさんいただき、憧れの作家さん達からもコメントをいただいて、
ああもう…夢みたいでちゅ…ウルウル

いよいよあと数十分でX-dayですね!
プミちゃん、あなたが今も日本にいてくれて、健やかに育ってくれて、
元気で可愛い姿を見せてくれて、本当に嬉しいです。
これからもパンダファンをワクワクさせてくださいね!

 

170: 名無しさん? 2021/06/11(金) 23:37:37.59 ID:NPuE4IiZ0
あ、「今昔」の名前、これからも名乗らせていただきます。
ありがとうございます♪

 

182: 名無しさん? 2021/06/12(土) 01:14:18.69 ID:TWLZadd90
>>170
勝手に今昔さん呼ばわりしてしまってごめんなさいでしゅ。お詫びにピンクのフーディーと、ポムポム上野お試しチケット進呈させていただきます。どぞどぞ

 

185: 名無しさん? 2021/06/12(土) 02:20:22.45 ID:eik8YNwz0
シャンシャン、お誕生日おめでとう!
みんな来てくれましたね。お兄ちゃんも…
明日は楽しい一日になりますね。私も楽しみです。
>>182
今昔です。ピンクのフーディーと、お試しチケット、ありがとうございます!
ポムポム上野のチケット…いつ使おうかなぁ♪
家だけ提供して、プミ子ちゃんピキ美ちゃんがプル美ちゃんのお世話をするところを
じーーーっと見てるのもいいかもですね。ニコニコ

 

194: 名無しさん? 2021/06/12(土) 08:37:53.66 ID:CpJV5cxY0
今昔さん、素敵お話ありがとうございました
読み応えがありました
他のパンダさん達のお話も楽しみにしています