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年忘れ!今年もみんな頑張りました!2023-〜再会編〜

「つまとむすめに会いに行く」より

1.早朝、空港にて

♪ピン↑ポン↓パン↑ポ〜ン↑♪

『JALから出発便のご案内をいたします。
〇〇空港行き、6時12分発、107便は、ただいま皆様を機内へとご案内中でございます。
〇〇空港、6時12分発、107便をご利用のお客様は
保安検査場をお通りになり、15番搭乗口よりご搭乗ください。繰り返し申し上げます——』

関西にあるK空港の一角。
動物専用のVIPルームにいるのは、年末の里帰りと思わしき動物達。その中にジャイアントパンダの家族もいた。

「あーあー。マイクのテストちゅうー。みなしゃん聞こえてましゅかー?上野レイでしゅ。これから貸切のジェット機に乗って、なんと!中国の成都まで行きまーしゅ!あっシャオ、ダメだってば」
「みなしゃんど〜もでしゅ!シャオでしゅよー、ああっレイちゃんマイク取らないで!ぼくのー!ガブガブッ」
「あいたたっ!シャオの出番はもっと後からでしょ?じゃんけんで負けたんだから」
「しらないやいっ ぼくのマイク!」
「だめ!あたちのマイク!プミ姉ちゃまからもらったんだから ペシペシッ」
「ぼくだってねえねからもらったんだい!ガブガブガブリ!」
「いったーい!やったわねー! ペシペシベシッ!」

双子が組んず解れつ転がり、バトルが始まる。
他の動物達も賑やかな事もあり、VIPルームはまさに動物園の様相だ。

「ああん!レイちゃんやめてぇ痛いようーママぁ」
「そうやってシャオはすぐママに言う!」
「レイちゃんだってすぐパパに言いつけるでしゅっ」

自動ドアが開き、入ってきたのはリーリー。双子の父親だ。
首から大砲のようなカメラと双眼鏡をぶら下げ、気合いの入りようが伺える。

「エッホエッホ 免税店でシャンメリー買いすぎちゃったよー。って!また喧嘩してる!」

重たそうな袋を床に置き、父親は転がる双子を両手で止めた。

「こらこら君たちやめなさい。仲良くするって約束だったよね?パパとの約束を破るなら、お留守番してもらうよ?」
「「!」」

双子達はハッと息を飲み、体を起こした。
この旅行が決まった時から、姉との再会の日をそれはそれは楽しみにしていたのだ。

「君たちが騒ぐと、他の人たちに迷惑がかかるからね」

幸い、周りにいる動物達も小さな子供連れで、お互い様と目をつぶって貰えたようだ。
リーリーは双子を引き離し、辺りに「すみません」と言って頭をクシクシと掻いた。

双子は少し決まり悪そうに、リーリーの足に甘えながら絡みついてきた。

「パパぁーシャオがね、おちりに噛みついたの」
「レイちゃんがマイクを貸してくれないからでしゅよ」

「違うもん!シャオが順番を守らないからっ」

足元で再び言い合いが始まり、リーリーは「静かにしなさい」と溜息まじりに双子を撫でた。

「どうして喧嘩になったの?」
「ぼくね、」
「あたちね、」

話し出すタイミングがピッタリなのも双子だからなのか。
リーリーは「じゃんけんね」と子供達の手を取った。

「はい、じゃんけーん、」
「パー!」
「ぐー!」
「あたちの勝ちね!」

シャオって、グーを出す時必ずお鼻がヒクヒクするのよね——レイレイは内心ペロリと舌を出した。
きょたい、もとい恵体の母と暴れ太鼓の姉から、逞しさは受け継いでいる。やられっぱなしではないのだ。

「あのねパパ、えっと、pantubeのはいしん…練習してたら…シャオがマイク取っちゃったの。順番はじゃんけんで、決めてたんだよ」
「シャオ、本当かい?」
「…ごめんなしゃい。パパ…」
「パパじゃなくてレイちゃんに謝ろう」
「……レイちゃん、ガブガブしてごめんなしゃい……」
「よし、偉いぞシャオ。ちゃんと謝れたね。レイちゃんもパパとの約束を守れるかい?」
「うん。あたちもぶってごめんね、シャオ」
「レイちゃんも偉いぞ。二人とも仲良くできるね?」
「「はあい」」

双子の声が重なり、ひとまず事態は収拾したようだ。
リーリーは安堵の息をつき、辺りを見渡した。

「ところでシンちゃ——ママはどこに行った?トイレ?」
「ううん。ママ、お土産買いに行くって」
「お土産?それならもう松坂屋さんで色々買ったし、飼育員さん達にもたくさん持たされたのになあ。ん?でも免税店にはいなかったぞ クシクシ」
「きっとおにぎりバーガー屋さんよ、パパ。さっきししょく・・・・配ってたから。ね、シャオ」
「うん。ママね、こんな時じゃないと食べられないからって、張り切ってたよ。いつだって食べてるのにね」
「シャオ!シーっ!ママに聞かれたらペラペラにされちゃう」
「! そっ、そだね。レイちゃん、てぃーだいしゃんのパンチューブ見ようよ」
「うん!」

双子は並んで椅子に座り、一つのスマホを覗き込んだ。
いつもそうやって仲良くしてくれればいいが——と父は内心思いながら、スマホを手に取った時、自動ドアが開いた。

「ありがとうラウ姉さん、荷物持ってくれて助かったわ。シャンへのお土産買いすぎちゃった」
「こっちこそ。空港なんか滅多にこーへんから迷ってしもててんけど、シンコさんに会えて良かったわ」

入ってきたのは、きょた——大柄のパンダと、ほんのりカラメル色のパンダ。
その後ろから、とんがり頭のパンダ(MサイズとSサイズ)、豹柄のジャケットとサングラス姿のパンダが続いた。

ピキ
ピキ

「リーおっちゃんや!久しぶり!でもないか」

「やあ、ピキちゃん。みんな元気だったかい?」
「おかげさんで、うちら女同士で元気にやってますわ」

ピキと呼ばれたパンダは、サングラスを取り、ジャケットの内ポケットにしまった。
とんがり頭のパンダ姉妹と共に、双子の方へ歩いていく。

親パンダ達も、子供達のそばに陣取った。
良浜を真ん中に、両隣にリーリーとシンコが座る。

「リーさんお久しぶり。いつも娘達がお世話になっておおきに」
「こちらこそですよ。今回はありがとうございます。おかげで家族全員で長女に会いに行けます。本当になんとお礼を言ったらいいのか クシクシ」
「ええってそんなん、お互い様や。あら?少し痩せたんとちゃいます?前よりシュッとしてはるわ」
「あらあ、やだわ!ラウ姉さんったら」

大柄なパンダはウフフと笑って、ほんのりカラメル色のパンダの肩をバシバシと叩いた。

「あいたたた、シンコさん、手加減してくれんと体に穴開くわ」
「あらごめんなさいね。そう、痩せたのよ私。この頃ダイエットでね」
「いや、うちが言うたんはリーさんの事やねんけど。んー、でも言われてみればシンコさんも痩せはった?顔周りがこう、シュッとしてるわ」
「ありがとう!あっ、そうだ!ラウ姉さんもおひとついかが?おにぎりバーガー買ったの。美味しそうでしょ?この極上の笹がミルフィーユみたいにサンドされてて…ゴクリ」
「えっ?頂いてええの?オナカグー」
「もちろん。おやつ用と機内用と夜食用、予備にいくつか買ってきたから」

ガサゴソとビニールを開けて、覗き込んだ良浜はパチパチと瞬きをした。

「シンコさん、ちょっと買いすぎちゃう?ダイエットしてはるんよね?」
「平気平気。この旅行中だけはオッケーなの。ね、リーくん」

ウキウキと嬉しそうな妻を見て、夫は苦笑しながら頷いた。
妻は久しぶりの旅行、何より長女に会える嬉しさも手伝って浮き足だっているのだ。

(僕くらいは冷静でいないとな)

リーリーはバズーカカメラを構え、はしゃいでいる子供達を連写しまくった。
自覚は無さそうだが、夫も当然浮き足立っている。

「じゃあ僕はお茶を持ってくるよ。二人とも笹茶でいいかな」

カメラを下ろして、リーリーが言った。

「ええ、ありがとうリーくん」
「リーさんおおきに。ほんま優しい旦那様で羨ましいわぁシンコさん」
「ウフフ。永明さんだってお優しいじゃない」
「そやね、あんなに優しい人はなあ、リーさんにも負けてへんで」
「あらあら、ごちそうさま。永明さんは成都空港で待っててくださるのよね」
「そう、桜と桃も一緒に。ここだけの話、楽しみでよう眠られへんかったわ」
「ええ、わかるわ。私もシャンに会えるのが楽しみで、今朝はパンケーキ5枚しか食べられなかったもの」
「……それ一口サイズの話やんな?」
「もちろん。うちのフライパン小さいのよねえ、だから一口サイズよ」

シンコは笑顔で言いながら、早速おにぎりバーガーを口に入れた。
そんな様子も撮りたいリーリーは、スマホのレンズを愛する妻に向ける。

カシャカシャッ カシャカシャカシャッ

カメラの連写音がうるさいほどだが、二頭のパンダは気にもしていない。

「あらやだ美味しい!もう一つ頂こうかしらね ウフフ ラウ姉さんも食べてね」
「おおきに。でもシンコさん、ほどほどにせえへんと、機内食も出るんやで」
「えっ?本当に!楽しみねえンガググ」
「! リーさんお茶お茶!」
「姉さんごめんなさい、大丈夫よ。ちょっと笹が引っかかっただけ」
「シンちゃん大丈夫かい?すぐ持ってくるからね」

リーリーは慌てて立ち上がり、エッホエッホとセルフサービスコーナーへ向かうのだった。

2.時は遡り、雅安

「プミちゃん、ここでは春節っていいますね。たくさんの休みは二月なのですよ」

独特の日本語で申し訳なさそうに言うのは、プミ専属の飼育員である蘭蘭。通称ツーマ姉さんだ。
プミの部屋(非公開)で、おりんごジュースを注ぎながら蘭蘭は続けた。

「2月のお休みは長いのですが、12月末のお休みは短いのですよ。通常営業なのです」
「どういうことでしゅ?プミ、実家に里帰りはできないんでしゅか?」

「もちろんできるます。ただし、日本のお正月帰るは我慢してほしい。日本からツアーのお客さんいっぱい来るから」

蘭蘭はパンダに緊張を気取られないよう慎重に言った。
日本から来る家族の事は内緒にしなければ。
ようやくこちらに馴染んできたプミを喜ばせたくて、いわゆるサプライズを企画しているのだ。

プミは気ままだ。突然書き置きを残して出ていく事もあるので——最初は大騒ぎになった——彼女に必ずここにいてもらわなければ、遠路はるばる来てくれた家族と入れ違いになってしまう。

「プミちゃんのおかげで、日本から来てくれる人がとても増えたでしょう?私たちも喜んでいる」
「ふむ。プミは日本で5……500円の女でしゅからね」

「500エン?——まあそんな事情がありますし、春節はたくさんお休みがあるから、12月に帰るは我慢してほしい。プミちゃんがいるだけで人が増えて、プミちゃん達のタケノコもたくさん買えるますよ」
「タケノコでしゅか。ふむ……」
「も、もちろんリンゴもたくさん。いっぱい買いましょう」
「プミー それじゃあ仕方がないでしゅねえ。営業しましゅか」
太謝謝你了本当にありがとう。とても喜びます。よろしくお願いしますね」

蘭蘭は立ち上がり、機嫌よくプミの部屋から出ていった。
プミはおりんごジュースを飲み、プハァと口元を拭う。

「わたくち、実家とはピコピコ通信でつながっていましゅからね。家族とはいつでも会えましゅよ。……」

新しい環境にはだいぶ慣れた。おりんごは丸ごとだし、タケノコも食べ放題だ。
オレンジ色のあいつを無視しても何も言われないし、庭の広さも実家とは比べ物にならない。

それでも、あの狭い庭や聞こえてくる日本語の歓声、小さい頃から一緒だった飼育員達に会いたいと思う日もある。
優しい父と食いしん坊の母、ミルクの匂いの弟妹を思い出すと、プミはなんだかお鼻がツンと痛くなった。

「グスッ お、おりんごジュースが沁みまちた グスッ」

誰も見ていないのに、早口で言い訳をする。

「さ、さて、お口をゆすいで寝ましゅかね」

そんな事を言いながら、スマホで親友のピキに通話を試みるが応答がない。
今こそ一緒におバカな話で盛り上がりたいのに。

「まったく。何してるんでしゅかねピキしゃんは。カレーうどんの会は来週のはず」

ブツブツ文句を言いながら口をゆすいだ後、ベッドに入った。おりんご柄のお布団はお気に入りだ。
朝起きれば、新しい友達のリスや小鳥にも会える。

(明日は何して遊びましょうかねえ……)

いつものように、楽しい事を想像する。
そうしてプミはいつの間にか眠りに落ちていった。

3.パンダファミリー、雅安碧峰峡基地に立つ

「おっ、もうすぐ着くやでー。誰や?おっさいひん言うたんは。空耳か」

バスの座席で伸びをするのは、ピキ子こと彩浜。
雅安碧峰峡基地へ向かう大型バスには、上野ファミリーと浜家ファミリーの一行が乗っていた。
ガイド席には、プミの飼育員である蘭蘭が座っている。今回のアテンド担当だ。

運転手後ろの座席にピキ子とプル子、その後ろに上野夫妻。
後部座席はサロン型になっており(カラオケスナックのようなレイアウト)、中央に座った永明さんは今まさにカラオケを歌い、桜浜と桃浜、結浜とレイレイは女子会トークで盛り上がっている。

唯一の男児シャオは良浜にこねられ、もとい可愛がられていた。
時々シャオの鳴き声が聞こえてくる。

「パンダの故郷か……」

流れていく山あいの景色を見ながら、ピキ子は自分のルーツに思いを馳せていた。

「初めてやのに懐かしい気もするなぁ……」
「ピキおねえちゃま。おにぎりもうないでちゅ?プルプル」
「ん?おにぎりか。シンコおばちゃんに聞いてみよか」
「聞こえてるわよ〜」

背後からニュッと現れたシンコに、ピキ子は思わず「ピギャー!」と声を上げた。

タケノコにされるのわかっててもツッコミたい!

「ピッ、う、うちまだ何も言ってないで!?おっ、脅かさんといてや、おばちゃん。さすがに今は凧になりたくないわ ミーミー」
「なんのことかしら?ウフフ はいプルちゃん、おにぎりどうぞ。お茶もあるわよ。ジュースがいい?」
「あい。ありがとでちゅ、シンコおばちゃま。プルプル」
「喉に詰まらないように、ゆっくり食べるのよ〜」

きょたいの影がススゥと消え、ほっと胸を撫で下ろすピキ子であった。

「あー、びっくりしたわ。ドッキリも考えもんやな……先輩大丈夫やろか?うちらが突然現れて、腰抜かしたりせーへんやろか?なあ蘭蘭ねえさん」

ピキ子はガイド席に座る蘭蘭へ声をかける。
タブレットに目を落としていた彼女は、ピキ子へ視線を移した。

なに?プミちゃんのこと心配ですか?そうですねえ、まあモーマンタイでしょう」
「まあモーマンタイて。ざっくりやなあ」
「ざっくり?びっくりね。喜びますよ。彼女は家族や友人にとても会いたがっていましたから」
「せやな。ここまで来たなら、思いっきり驚かしたろか」

ピキ子は決意して一人頷く。
隣では、満腹になったプル子が幸せそうに手のひらを舐めていた。

4.再会

「エッホエッホ」

男は全力で走っていた。

バスは無事に目的地である雅安碧峰峡基地に到着し、一行はトイレタイムを兼ねてお茶屋へ向かった。
雅安は自分や妻にとって懐かしい場所でもあるが、感慨に浸るのは後でもいい。

娘との再会を待ちきれず、こうして全力で向かっている。
協力したサプライズを台無しにしないように、遠くから見るだけと思いながら。

「むすめー!ウォー!ゴロンゴロン」

パンダの全力を出しすぎて、坂道を転がっていく。カメラ類は抱えあげて何とか守った。
途中、トラックにクラクションを鳴らされたりもしたが——懐かしい荒っぽさだ——人々の視線を感じながらも転がった。
そしてようやく見えてきたのは黒山の人だかり。大きなガラスの向こうに娘はいた。

(立派になったなあ!むすめー!)

美味しそうにタケノコを喰む姿に、ファン達は静かに喜びを噛み締めながらカメラを向けている。
娘の新天地での堂々とした姿は、英才教育の賜物だ。男は誇らしく、そのまなじりに溢れてきた水滴をこぶしでぐいと拭った。

(よし!いっぱい撮るぞー!ウォー!)

男は遠くからバズーカカメラを構え、娘の勇姿を存分に収めたのだった。

***

「大丈夫やろか、リーおっちゃん。大声で泣いたりしてへんかな」

ソワソワしながら、ピキ子は坂道を歩く。
プル子を含む浜家の面々は先に諸パンダ達に顔見せをして、後から合流する事になっている。

双子はお茶屋で眠ってしまい、母親であるシンコが双子用のカートに乗せて歩いていた。
彼女の片手には、お茶屋で買った肉まんが握られている。

この坂道をシンコは肉まんをつまみながら、もう一方の手で軽々と双子が乗るカートを押しているのである。

シンコは強し。うちのオカンも強し。対決したらどうなんねやろ)

ピキ子はぶるりと体を震わせた。
とにかくこの二人を本気で怒らせてはいけないと思う。

「プミちゃんは裏山へお休みに行ったみたいです」

スマホを耳に当てたまま、隣を歩く蘭蘭が言った。

「あー、ちっと遅かったか。まあ時間はたくさんあるしええか」
「そうですね。後で私も呼んでみますが、おそらく出てこないでしょう。彼女は時々聞こえないフリが上手です」

「せやな。先輩は女優の卵やし?ドヤァ」

なぜか胸を張るピキ子だ。

「それにしても広い庭やで。庭っちゅうか山か」
「はい、山です。私は少し離れて見ていますね。友人と楽しんで下さい」

「おおきに、蘭蘭ねえさん。また後でよろしゅう頼みます」

そして見えてきたプミの庭。ピキ子が実際に見るのは初めてだ。
先を行ったリーリーは、ギャラリーがいないガラス前で空を仰いでいる。感無量といった風情だ。

「おーいおっちゃん。泣いてんの?もしかしてプミ先輩に気づかれた?」
「ズビッ ああピキちゃんか。いや、遠くから見ていたから気づいていないよ。お腹がいっぱいになって昼寝に行ったみたいだね。人間のお客さん達も別の場所に移動したよ」

「なるほどな。ってかタケノコの皮すご!どれだけ食べ放題やねん」

ピキ子がガラスに両手を付いて眺めていると、どこからか低い音が聞こえてきた。

「ん?おっちゃん、なんか聞こえへん?」
「ああ、聞こえるね。地響き?地震ではないね」

パンダの丸い耳がそれぞれ動く。
やがてその音と影がゴロンゴロンと近づいてきた。

「とうしゃんー!ピキしゃーん!」
「! 先輩や!」

「おーい!パパだよー!シャーン!」
「わーいわーい!これは夢でしゅかー!」

ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン

ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン

「いやいや先輩危ないって。転がりすぎやって」

白黒が、回転しながらみるみる近づいてきた。

ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン ゴッ

鈍い音が聞こえて、白黒の回転はすぐそこで止まった。
パンダがのっそり起き上がる。頭は元々真っ平なので、少々ぶつかっても平気なのかもしれない。そんなバカな。

「あちゃー!先輩大丈夫か!?」
「ピキしゃあんー!うわぁんー!ズビズビ」

プミは打たれたボクサーのようによろりと立ち上がり、ピキとガラス越しにハイタッチをした。

「うわぁん〜!ピキしゃあん〜!とうしゃーん!あーんうわぁーん!」
「い、いま打ったとこ痛いんか?嬉しいんか?どっちやねん?」

「嬉しいでしゅ〜!ズビー プミー!」
「せっ先輩、わかったから、そんなに泣かんといてやー ミーミーミー」

見送りの時はただただ悲しい涙だったが、今は嬉しさいっぱいの涙だ。

「やめてーや、うちも泣いてまうやんウグッ エグッ ハナミズジュルジュル」
「ウォーーー!シャンちゃーん!むすめーっ会いたかったぞーー!クシクシクシクシ」

頭を抱えながら悶える親父パンダを見て、プミとピキ子は少し引いた。
おかげで涙と鼻水も多少引っ込んだ。

「ズビズビ ピキしゃん、来るならそう言ってくだしゃいよ。プミ、全然知らなかったでしゅよ」

首をブンブン振りながらプミは言った。

「先輩、堪忍やで。アンタんとこの蘭蘭ねえさんが、どうしてもサプライズしたいって言わはって内緒にしてたんや。あ、でも責めんといてあげてな?アンタを喜ばせたい一心やったんや」
「あい、わかってましゅよ。プミも大人でしゅからね エヘン」
「ほんまかいな」
「ええと、」

プミは鼻をおっぴろげて、得意げな顔をした。

「真的。」
「なんて?中国語?」
「本当だよって言ってるよ。ピキちゃん」
「え、おっちゃん中国語わかるんや?」
「まあ少しはね エヘエヘ テレルナァ」

リーリーは乙女のように頬を染めた。

「おっちゃん、プミ先輩と同じ顔してるで。鼻広がりすぎや」
「ええっ!プミ、おとうしゃんと同じ顔でしゅか……」
「知らんかったん?君ら、まあまあ似てるで」
「ハァ。どうせなら、おかあしゃんに似たかったでしゅねえ」

わざとらしく溜息をつくプミ。演技の練習は続けているようだ。
父は腕を組んで大きく頷いた。

「ウンウン。ママは美人だからね、ってひどいなあシャンちゃん」
「冗談でしゅよおとうしゃん」
「せやで。軽いジョークってやつや。おっちゃん元気だしてやで」

プミとピキはハイタッチをしたまま、目配せをする。
ガラス越しにアハハと口を開けて笑い合った。

5.プミの部屋

「年越しといえばやっぱあれやんな?先輩。でもどうしよう?配信はNGなんやって?」

楽しい夕食後のプミの部屋。中の様子は門外不出のため、ビデオ撮影は禁止だ。
海外からの留学生は国賓級の扱いらしく、パンダが喜ぶあれこれが部屋に置いてあった。

「そうらしいでしゅねぇ トクトクトク」

プミは大きなソファに背中を預け、お土産のシャンメリーをグラスに注いだ。
ピキ子はソファに仰向けになり、意味もなく自慢の脇毛をエアコンの風にファッサーとそよがせた。

「ピキしゃん、やっぱりシャンメリーはメイドいんジャパンに限りましゅよ ウィー」

感激の再会を果たした後、プミの家族は客室へ。サプライズ成功の様子は蘭蘭カメラにより撮影された。
成都空港でのピキ子達と父永明、桜浜桃浜との再会も別のスタッフカメラによって収められている。

そして夕食後、ピキ子を除く浜家一行は成都へ戻った。
成都にはプミのじいじが作ったどこでもドアで、神戸からタンタンがやってきていた。

明日はプミを含む上野ファミリーと、さらに小雅達も合流して、成都でパンダズパーティーの予定である。

「先輩。そろそろ毎年恒例の、年末振り返りをしようと思ってんけど」
「かうんとだうん!でしゅね? プミーヒック まかせんしゃい」

「生配信もできんし、なんやもう時間がないねんって。消灯時間は厳守って言われてん。先輩も飲み過ぎてるし」

テーブルの足元に転がったシャンメリーを見て、ピキ子はすでに諦めの境地にいた。
マイペースのプミには慣れっこだ。

「わたくち、ぜっこーちょーでしゅよ。ピキしゃん」
「せやな。じゃあ2023年の出来事をまず一個上げるとしたら……まあ、なんと言ってもうちのおとんと桜ねえ、桃ねえ、プミ先輩の留学やな」

「あの忌まわしき突っ張り棒でしゅね クビブンブン」

思い出してまた腹が立ったのか、プミはシャンメリーの瓶をドンっとテーブルに置いた。

「わたくち、おだんごとして抗議いたしましたよ」
「断固としてな。抗議したらどうなった?聞いてなかったわ、その話。謝罪あったんか?」

「もちのろんでしゅよ、ピキしゃん。わかめの条件として」
「わかめ?ああ和解ね。おっと、」

テーブルに置いていたスマホのアラームが鳴った。
ピキ子は起き上がり、アラームを止めた。プミの隣に座り、日本から持ち込んだカップカレーうどんの蓋をそろそろとめくる。

「ええ匂い、やっぱお夜食はこれやなぁ。四川料理はうちには辛いわ、美味しいねんけど」

チュルチュルと麺を啜ると、ピチョンとおつゆが跳ねてきた。

「アチっ ハフハフ うまぁ」
「ピキしゃん、白い毛っけが汚れまちたよ。これでふきんしゃい」

「おおきに先輩。——そんで?和解したんやな?」

ゴワゴワの麻で胸元を拭い(ちょっと痛い)、ピキ子は麺を啜りながら視線でプミを見た。

「ええと、そうでしゅね。わたくちあまりに腹が立ったので、実家に帰りましゅ!と。こう、ストを起こしたんでしゅね」
「ほうほう。それがあの空白の8ヶ月やってんな」

「あい。でしゅが、蘭蘭しゃん達を困らせている事はわかっていまちた。なのでわたくちは交渉の席につき、たけのこ食べ放題と、おりんごを必ず1日1個以上。オレンジ色は断固拒否の権利を手にしたわけでしゅ トクトクトク」

シャンメリーをグラス注ぎ、プミは思い出すように目を閉じた。
そしてゴクゴクと飲み干す。とても美味しそうだ。

「へえ、やるやん先輩。それ全部自分で考えたん? チュルチュルモグモグ」
「なんかほら、あれでしゅよ。モの弁護しゅ?が考えてくれまちた」

「モ?ああ、モジャ先輩ね。へえ〜相変わらず優しいなあ?弁護士まで寄越してくれはったんや」

ピキ子はニヤニヤと意味深に笑ってみたが、プミの頭の上にはハテナが浮かんでいる。

「モは暇だから、気にしなくていいそうでしゅよ ハナホジホジ」
「……それはまあ……お気の毒になあ」
「?」

カレーうどんを食べ終えたピキ子は、両手を合わせ「ごちそーさん」と——モジャに同情の意も込め——拝んだ。

「さ、お腹も膨れたし、寝ましょか先輩」
「あい。お口をゆすいで寝ましゅよ。シャンメリーの瓶はお片付けでしゅね エヘン」

トレイに空き瓶とグラスを乗せて、プミは立ち上がる。

「空き瓶もゆすがないと、蘭蘭しゃんに怒られましゅからね」
「あの人、優しそうやけど怒ったら怖いん?」

「あい。静かに燃えるタイプみたいでしゅ。ブルースリーしゃんより熱いでしゅ」

歩き出したプミの手元から、カタカタカタと揺れる音がする。
あっ!と声が聞こえると同時に、ピキ子の視界からプミが消えた。

ガラガラガッシャーン!

「あいたたた。誰でしゅ!ここに空き瓶を転がしたのは!国家の罠でしゅか!クビブンブン」
「ネタバレ言おか?犯人は先輩やで」

お約束やなあ、と言いながらピキ子はプミの手を引いた。
助け起こしながら、例のゴワゴワで濡れた頭を拭く。

「これ、もう一回水浴びした方が良さそうやで。ベタベタになってもうてる」
「しゅみましぇんねえ、ピキしゃんや」
「やっぱり、先輩はうちがおらんとダメやな」
「あい。これからもよろしくでしゅよ、ピキしゃん テレテレ」
「な、なんや。当たり前のことやん テレテレ」

目と目が合って、お互い照れ隠しにエヘヘと笑う。
久しぶりに再会した夜は、深く優しく更けていった。

(おしまい)

あとがき

最後までお読みくださりありがとうございました😊お疲れ様でした。

例年のコラまとめ動画など作る時間がなく、拙作のみとなり申し訳ありません。
ワイワイスレの素晴らしい作者さん方や住民さんの設定をお借りしながら、楽しく書かせて頂きました。
改めて、いつもありがとうございます。

わいわいの勝手設定や、他も想像で色々と書いていますので間違っている場合は大目に見て笑ってやってください。

今更ながらワイワイスレの世界線が大好きです。
人間の知らないところで動物同士の社交があり、パンダ達も仲良くやっているといいなあと常々思っています。

今回、浜家の再会やパンダズパーティーの様子なども書きたかったのですが、技量と時間的にも難しく断念しました。
もしイメージがありましたら、いつかどなたかに創作して頂けたら嬉しいです🤭

さて、年内の更新は今日で最後です。
レスを頂いた場合は、年明けにこちらでお返しさせて頂きますね。

2024年もまとめ作業をぼちぼちやっていきますので、引き続きよろしくお願いします。
それでは皆さま、良いお年をお迎えください。

2023/12/30
管理人・わいわい

(感謝)頂いたレスへお返事しております

38: 名無しさん? 2023/12/30(土) 16:02:28.54 ID:QpNTCBzO0
>>37
わー、わいわいさん!
今年も待ってましたーーー
毎年何度も何度も読み返しては1年のワイワイワールドを振り返らせていただいています
もはや年の瀬の風物詩
今年もゆっくり楽しませていただきます
最初の嬉しいレスをありがとうございました!
今年もワイワイワールドを一緒に楽しみましょう〜😊
39: 名無しさん? 2023/12/30(土) 17:59:34.44 ID:J+W1+/T/0

>>37
わいわいさん、こちらこそいつもお世話になっております ペコリ
お忙しい中、今年の年忘れありがとうございます!
こんなに楽しい大作が書けてコラも作れるわいわいさんスゴ過ぎです
私も一行に混じってプミちゃんに会いに行ったような気持ちで読ませていただきました
笑いあり涙あり、本当に本当に楽しいお話ありがとうございました!
プミちゃんがシャンメリーをラッパ飲みじゃなくグラスで飲むようになったあたり、レディになったのねぇとシジミでしたw

わいわいさんもどうぞよいお年をお迎えください

こちらこそありがとうございます ペコリ
プミちゃんもレディになりましたね〜シジミですね。もしかしたら一人の時はラッパ飲みかもしれません🤭
40: 名無しさん? 2023/12/30(土) 18:55:50.59 ID:9st3jhT40

>>37
わいわいさん!有難うございました
流石の筆力にひきこまれスススゥーと読了してしまいまちた
とても楽しかったです

モのくだりが少し気になりましゅが

わいわいさんも皆さまもよいお年をお迎えください
パンダの皆も元気に年越ししてくれたらと思っております

スススゥと読んで下さりありがとうございました。
モは全くめげずに頑張っているようです。ライバル(?)も登場して、これからどうなるか気になりますね😊
(プミちゃんは気にしてなさそう)
41: 名無しさん? 2023/12/30(土) 21:31:16.68 ID:HAjni1YZ0
>>37
わいわいさん、素敵なお話を本当にありがとうございます!
私もパンダファミリーと一緒に旅行している気持ちになりました。
わくわくしながら旅をして、そしてプミちゃんに会える幸せな時間…みんなと一緒に過ごしている気持ちです。
同時に、わいわいさんの作品を拝見できる年の瀬になったんだなぁ…とシジミです。
今年はパンダファン界には様々な激震が走りましたが、
涙で見送ったあの子たちが落ち着いて幸せそうに暮らしてくれているのを見ると、涙も少し報われる気がします。
来年も皆が健康で、楽しく暮らしてくれますように。
スレの皆様も穏やかな年越しをなさってくださいね。
読んで下さりありがとうございます。
今年は仰るように激動の一年でした。パンダ達の幸せが私達の幸せでもありますね〜☺️シジミ
42: 名無しさん? 2023/12/30(土) 22:03:04.21 ID:V1/QP5BX0

>>37
わいわいさん、今年もありがとうございました
今年は日本のパンダ界にとって特別な年になりました
涙で見送り、新しい場所に馴染んでくれるだろうかと公開されるまでやきもきした日を送りました
それぞれの引越し先で元気でいる姿を見て安心したものです
わいわいさんの素敵なお話、うんうんと頷きながら読ませて頂きました

わいわいさんもよいお年をお迎えください

読んで下さりありがとうございました。
お見送りからもうすぐ一年。プミちゃんが再びお顔を見せてくれてからは、あっという間だった気がしますがいかがでしょうか。
楽しそうに暮らしてくれていて、私達もやっと安心できましたね😊
直接コメントを送ってくださった皆さまもありがとうございました!
☕️ギフトもありがたく頂戴しました🥹
嬉しいメッセージと暖かいお心遣いをありがとうございました。

お返事は以上になります。
改めて皆様ありがとうございました。2024年もよろしくお願いします☺️(わいわい)