虹の橋を照らす月 前編
今夜は中秋の名月だと耳にして、彼女は月の見える丘へとやってきました。
北アメリカ大陸で生まれ育った彼女は、中秋節とは縁がありませんでした。
それでも何となくお月見をしたいと思うのは、ジャイアントパンダゆえに。
まだ日暮れには少し早い時間。今は、遠くに虹の橋が透けて見えています。
「あの橋を渡ってきたのね、あたし」
彼女が渡った虹の橋は、さらさら流れる白銀の天の川に架かっていました。
虹の橋を渡り終えると、懐かしい家族や仲間たちが出迎えてくれました‥。
あの日から、二か月が過ぎました。
「ブエナス・タルデス、セニョリータ」
「えっ?」
声をかけられて振り向くと、男性のジャイアントパンダが立っていました。
年老いた姿ではありますが、彼女と比べると、ひと回りほど若く見えます。
「この時間ならブエナス・ノーチェス、なのかな」
この優しい微笑みは。
「リンリン、なの?」
「覚えていてくれたんだね、シュアンシュアン」
「やだあなた!あたしより年上なのに若い姿で出てくるなんて!」
「仕方ないよ、僕は十年以上前にこっち来ちゃったし」
「今さら何なの!あなたは虹の橋へ迎えにきてくれなかったわ!」
「誤解だよ!迎えには行ったんだよ。行ったんだけど」
「行ったんだけど、何」
「きみの家族や仲間が大勢いたから、ちょっと出て行きにくくて」
「もう!そ・う・い・う・と・こ・ろ!少しも変わってないのね」
「きみも変わってないね、シュアンシュアン」
「いやっ!あたしより若い姿で言わないで!」
ちょっぴり勇気が足りなくて、ちょっぴり女心に鈍感なリンリン。
だから時々イライラさせられた。でも、誰よりも優しいリンリン。
そんな貴方だったから、貴方と暮らした短い日々は大切な思い出。
>>435
虹の橋を照らす月 後編
「シュアンシュアン、丘のてっぺんまで歩こうか」
「ええ」
「きっと綺麗な満月を見られるよ。ほら、手をひいてあげる」
「あたしをおばあちゃん扱いしないで!」
「いや、そういう意味じゃなくて…」
いつも陽気で素敵な笑顔で、ちょっぴり短気なシュアンシュアン。
大胆な貴女にドキドキして、でもそれが貴女のお気に召さなくて。
だけど僕は幸せだった。貴女と暮らした短い日々は大切な思い出。
願わくば、もう一度…。
「ねえリンリン、満月に願をかけちゃいけないって知ってる?」
「えっそうなの?」
「欠けていく月に願ったり誓ったりしても叶わないわよ」
「そっか、さすがシュアンシュアンは物知りだね」
「だから!おばあちゃん扱いしないでってば!」
「メキシコでは中秋節にカーニバルしないの?」
「しないわよ!」
ゆっくりと日が暮れて、ゆっくりと満月の輪郭が浮かび上がります。
願いや誓いを叶えない満月は、その代わりに不思議な光を放ちます。
今夜はきっと、ふたりをあの頃の姿へと戻してくれることでしょう。
台東梨男です
何となくリンリンさんのことを思い出したので、彼のことを書いてみました。
ヒロインは悩みましたが、今回はシュアンシュアンさんへの追悼を込めました
皆さま、良い宵の中秋節をお過ごしください
梨男さん、ステキなお話をありがとシャンです
陽気なセニョリータのシュアンシュアンさんと優しいリンリンさん、きっとこんな感じで空の上から私達を見守ってくれてるのでしょうね
ありがとうございます!
ふたりにとって孫同然の子どもたちが作ったお団子を見て、ふふっと微笑んでいると思います
>>437
やはり梨男さんでしたね
文面からもしかしたら…と思っていました
陽気なセニョリータ、シュアンシュアンとの日々はリンリンにとっても思い出深いものだったことでしょう
シュアンシュアンが上野に来たこともあれば、リンリンがメキシコへ会いに行ったこともあったんですよね
私の中では相思相愛のパンダカップルさんです
虹の橋の向こうでまた2人が再会していることを思うとなんだかポカポカと心が温かくなりました
梅梅さんの元で2人がまた思い出を語りあってくれているのでしょうね
素敵なお話ありがとうございます
>>445
梨だとバレていたことを嬉しく思いますw
自分もリンリンとシュアンシュアンは、実は相思相愛だったと思っていました
思っていたというか、そう思いたかったのかも知れません
青春の影とか若気の至りとか、身勝手な思いを膨らませてしまいます
ぎりぎりまで、シュアンシュアンかトントンかと迷った今回でした
読んでくださり、ありがとうございました
シュアンシュアンさんとリンリンさんのとっても素敵なデートを覗かせていただいた気分です
梨男さん、心温まるお話をありがとうございました
昨夜はくっきり綺麗な月が見えました
この世あの世でパンダさんたちはそれぞれのお月見を楽しんだのでしょうね
素敵なお話をありがとうございました