彩浜のお誕生日 1〜3- 2021/08/14(土)

彩浜のお誕生日

1
そよそよ吹く風と、お日様の光をいっぱい受けた芝生の匂いに鼻をくすぐられて、彩浜は目を覚ましました。
『ん～…よく寝た… ｵﾒﾒｺﾞｼｺﾞｼ…あれ、うち、夜になってバックヤードで寝てたと思うんやけど…』
寝ぼけながら、彩浜はきょろきょろと辺りを見回します。
そこはいつものパンダラブのお庭でした。
『お昼寝してたら夢見たんかな? ふぅ…それにしても今日も暑いなぁ。水浴びしよ』
真夏の太陽はさんさんと照り、絶好の水浴び日和です。
彩浜は池に入り、仰向けにふんぞり返ってパチャパチャと手足を振りました。
『パンダリンピック、競泳50センチ背泳ぎ! 彩浜選手の金メダルや!』
と、その時です。
『うわ、冷たっ!』
彩浜の鼻に、冷たい何かがふわっと降りました。
その冷たいものは小さく白く、鼻先に降りて消え、そしてまたふわりと今度は肩に降りてきます。
『えっ、雪…? まさか、こんな夏やのに…』
けれども広げた手の中に降っては消える冷たい白いものは、間違いなく雪でした。
驚く彩浜の耳に、今度は不思議な笑い声がいくつも響きます。

“彩ちゃん、びっくりしてる”　　”彩ちゃん、びっくりしてるね”

『誰? 誰がしゃべってるん?』
まるで鈴をいくつも振るような綺麗な不思議な声。彩浜は目を丸くして問いかけました。
声は、すぐに答えてくれました。

“こんにちは、彩ちゃん”　　”僕たち、雪だよ。彩ちゃんのために降ってきたよ”

白い雪は次から次へとひらひらと舞いおり、彩浜の体をひんやりと冷やしてくれます。
『ほんまに? うちのために降ってくれたん? うち、冷たい雪や氷が大好き!』
そう、パンダは雪や氷が大好きなのです。

2
“そうだよ、彩ちゃんのために降ったよ”　　　”彩ちゃんにプレゼントだよ”
“良かった。彩ちゃんが喜んでくれた”　　　”喜んでくれた、喜んでくれた”

舞い降りる雪たちは、嬉しそうにささやき合いながら彩浜の体に降り積もります。
彩浜は楽しくなって、雪を追いかけて芝生の上を走り回りました。
『わぁい、雪や雪や! うちのために雪が降った!!』
走って走って、でんぐり返しをして、手を伸ばしてひらひら舞う雪にじゃれつき、ころんと転がってまた走ります。
楽しくて嬉しくて大はしゃぎです。
そんな彩浜に花のように降り注ぐ雪は、降りながら舞いながら話しかけます。

“彩ちゃんが喜んでくれて嬉しいな”　　　”彩ちゃんのために、もっと素敵な雪になるよ”
“彩ちゃんにふさわしい雪になるよ”　　　”彩ちゃん、もっと喜んでね”
“何気ない日常に彩りを! 未来の幸せをつくる存在に!　生まれてきてくれてありがとう、彩浜!!”

その声と共に、降り続く雪がふわぁぁぁ～、と一瞬舞い上がったかと思うと、
『わぁ、すごい! 虹色の雪や!!』
そうです。赤、青、黄色、橙……雪のひとつひとつが虹の色に染まり、彩浜の周りで星のように輝きました。
嬉しくて目をきらきらとさせる彩浜に、虹色の雪たちは祝福の言葉を投げかけます。

“おめでとう、彩ちゃん”　　　　”おめでとう、彩ちゃん”
“何気ない日常に彩りを”　　”未来の幸せをつくる存在に”
“おめでとう彩ちゃん”　　　　　”おめでとう、おめでとう”

“おめでとう、彩ちゃん、おめでとう…………”

投げかけられる祝福の言葉は、いつかどこかで聞いた気がする言葉でした。
雪はいくつもいくつも舞い降ります。
虹色に彩られた空に手を伸ばし、祝福の言葉を体いっぱいに受けて、彩浜は幸せそうに笑いました。

3
『あらぁ、彩ちゃん、寝ながらあんなに笑ってる。ええ夢見てるんやね』
深夜のパンダラブのバックヤード。
桜浜は、隣の部屋の彩浜の寝顔を見ながら桃浜に話しかけました。
『ほんまや。…あ、寝言も言うてる。虹色の雪…やて。それはまた綺麗な夢やねぇ』
桃浜も柵ごしに彩浜の寝顔を見て微笑みます。
『虹色…かぁ。なぁ桃ちゃん、彩ちゃんが生まれてしばらくして、名前がついた時のこと覚えてる?』
『候補がいくつかあって、その中の”彩浜”の名前に込められた願いが素敵やったね』
『そうそう、”何気ない日常に彩りを与え、未来の幸せをつくる存在になるように”…ってね』
『それで彩浜って名前になって、アイコンには虹が使われるようになったんやね』
2人の姉は優しい目で妹の寝顔を見守りながら、深夜のひそひそ話を続けます。
『ほんまに大きく、元気に育ってくれたわ。生まれた時のことを考えたら…』
『彩ちゃん、明日が自分の誕生日って覚えてるんやろか。忘れてるっぽいなぁ』
『朝になったらお誕生日会で、お祝いの氷ケーキや雪のプレゼントがあるんやろ? びっくりするかもしれへんね』
桜浜と桃浜は顔を見合わせてにっこりして、小さな声で彩浜にささやきかけました。
『お誕生日おめでとう、彩浜。みんなみんな、彩ちゃんのことが大好きやで』

たくさんの人達が祝福する誕生日パーティまで、あと少し。
その前に、みんなのおめでとうの気持ちが、彩浜の夢の中に届いたようです。

小さくて小さくて小さかった彩浜。今は元気いっぱいの可愛い彩浜、
お誕生日おめでとう。
みんなあなたが大好きです。