つまとむすめに会いに行く-1-2018/03/21(水)

そういえば　腑に落ちないことがあった
大空を自由に駆け巡る黒い雄姿
…そう　カラス先輩の言葉の中に

彼は何時もへだてられたつまの　変わらぬ美しい様子を
感激したように熱く語ってくれた
つまのうなじがどんなに白く輝いているか
ﾑｯｼｬﾑｯｼｬﾑｯｼｬﾊﾞｷﾂ…
つまの奏でるササの音がどんなに美しい調べかを
ほんの少しの報酬と引き換えに
何時までも繰り返し語ってくれたのだ

…そういやぁアンタのカミさん
最近塩梅悪いんじゃねぇかってさ
ホラ　いい音出してるじゃねぇかいっつもよう
こうムッシャムッシャって　さぁ
あんま聞かねぇんだよな最近

オトコの美しいつまは　時に気まぐれで
『…これじゃイヤ』

たおやかに腰をくねらせ　好みのササにあえるまで
プイとすねるなんとも愛らしい様子を見せることがありった
だから　オトコはカラス先輩の言葉を聞き流してしまったのだった

可愛い小さな女の子が俺を見つめている。

俺は今何が起きているのか頭の中が真っ白になった
いなくなったつまが隣にいた。そしてつまの傍らには幼子
一体どうなってるんだ？まさか ？

月が美しくつまのからだを照らした俺は何もかも忘れた獣のようにつまを抱きしめた。無我夢中だった。

あの夜の月の贈り物が、宝物が、愛おしい俺の宝物が今俺を見つめているのだ。

たとえふたりが　柵にへだてられようと
この指先　鼻先が
また触れ合えることがずっと　ずっとさきになろうとも
おれは生きていける
この愛は消えやしない

おとこは　大地を踏みしめる
歩く
歩き続ける

この足音がつまの許へ　いとしい愛の結晶のもとへ響けと
今日もまた　ひたすら歩き続ける

エピローグ

…○○ツアーの方は　こちらにお集まりくださーい

繰りかえされる呼びかけ　いそいそと駆け寄るツアー参加者たち
会話を楽しむ皆とは違い　おとこはただひとり

しかし　顔には笑みを浮かべ　よいしょと麻袋を肩に背負い直し
観覧券を持ち　そっと列の最後尾に並ぶ
働くつまと　我が子の姿を
その目に焼き付けるために