ステルス機を出してやるという永明さんのご厚意を丁重に断って、俺は民間機で羽田へ戻ってきた。
ここから京急か、モノレールか。時間も金額も大差はない。どちらを使って上野へ帰ろうか。
「そう言えばシャンシャン、園内のモノレールに乗せてやった時は大喜びだったな」
俺の娘は、高いところが好きだ。俺に似ている。こっちのモノレールに乗せたら、大興奮して大変な事になるだろう。
今度の休園日に乗せてやるか。レインボーブリッジが見えてきたら、きっと「あれに登るー!」と駄々をこねるに違いない。
俺の娘は、駄々をこねるとピョンピョンと跳ねて転げ回る。あれは誰に似たのか。俺に上手く鎮められるだろうか。
「その前に鎮めなきゃいけないのが…」
俺の妻、シンシンの怒りだ。
永明さんの咄嗟の機転で、俺はイルカちゃん達のご機嫌取りを頼まれて出張していた事になっている。
“しかしなぁリー坊。シンコちゃんの事や、こんな言い訳は見え見えや。そこでやな―”
俺はモノレールに乗り込んで、永明さんが書いてくれたメモを広げた。
もう最高wwwww
“シンコちゃんが帰って来たら、こない言うたったらええ。シンコちゃんなら許してくれるわ―”
メモの内容は、シンシンから許してもらうためのセリフだ。嘘を重ねる事は心苦しいが、今回は非常事態だ。
紀州言葉を、普段の俺の言葉に書き換えた。これをシンシンの帰宅までに暗記しなければならない。
「ごめん、出張なんて嘘なんだ。本当は永明さんに相談しに行ったんだ」
いいぞ俺、この調子だ。
「君が必死で子育てしているのに、劣情を催してしまう自分が恥ずかしい…」
やるな俺、迫真の演技だ。
「それで永明さんに相談を…でも!やっぱり俺は君を抱きたくてたまらない!」
観客の熱い視線を感じて、俺は思わず立ち上がった。
「シンシーン!愛しているー!うおおおおー!」
雄叫びを上げて転げ回る俺!湧き上がる歓声!割れんばかりの拍手!全車両へ広がるスタンディングオベーション!
観客が乗客である事にようやく気づいた俺は、天空橋で降りて京急へ乗り換えた。
同時進行がこのスレの魅力だから無問題
いつもありがとうございます
わかる
ドスが効いた関西弁で葉巻くわえたマフィア的なイメージがついてしまったw
妻良浜の気持ちを最優先しつつ永明さんさすがです
>>830
あざます!投下します
不要な乗り換えを迫られた俺は、予定よりも少し遅れて上野駅へ到着した。
シンシンはラウママ達とヤケ笹だと聞いたが、もう帰っているだろうか。シャンシャンは、眠っているだろうか。
結局、永明さんの台本は暗記できなかった。俺は園までの十分少々の道のりを、だらりだらりと二十分かけて歩いた。
こそこそと門を通り過ぎようとした、その時。
「遅かったな」
「わっ!」
ヒトのオスの同僚が、仁王立ちで俺を待ち構えていた。彼の眼鏡に月明かりが映って、その表情を見えにくくしている。
「ま、まだ居たの?遅くまでお疲れさん」
「ああ、疲れたよ。誰かさんの無許可の留守を誤魔化し続けてね」
「ううっ!」
「…まあいい、晩飯まだだろ。これから珍々軒に飯食いに行くぞ」
「あ、待ってくれ。あの店カード使えないだろ、今ちょっと現金の持ち合わせが…」
「そのくらい奢るさ、俺が誘ってるんだし。それに…」
「?」
「シャンシャン、今夜は小雅の家にお泊まりなんだ。小雅の母親に挨拶しておきたい」
そう言いながら、ヒトの同僚は俺に木箱のような物を手渡してきた。
それは鶴の紋付きの風呂敷に包まれた、恩賜上野動物園謹製パンダ団子の重箱だった。
眼鏡かけたヒトのオスの同僚ってwww
あくまでも架空の人物ですよww
了解w