リーリー物語3
あれから久しぶりに隣の運動場にいるシンシンがいるのが目に入る。
どう声をかけたら良いかわからないオレが木の上でモジモジしていると、シンシンの方から声をかけきた。
「アタシ……ちゃんと母さんになれなかった。」
そう言いながらシンシンは竹を纏めて口元に運んだが、オレには見えてた。
シンシンの手元の竹が光っているのは涎だけじゃなかったんだ。
「シンシン、キミはきっと良いお母さんになれるよ。」
「……来年こそ、ちゃんと育ててみせるから……。」
翌年、発情期が過ぎて暫く経った頃、シンシンは嬉しそうに木の上のオレを見上げる。
「今年も出来たみたい。リーリー、楽しみにしてて!……お腹の子供のためにいっぱい食べなくちゃ!!」
シンシンは山のように積まれた笹をスピーディーに口元へと運んだ。
こんなに嬉しそうなシンシンを見たのは久しぶりだった。
シンシンが嬉しいと、オレも嬉しい。
昨年と同じ様にパンダ宿舎を訪れるニンゲンの飼育員が増える。
毎日、シンシンとの再会を楽しみにしていた。
久しぶりに再会したシンシンは肩を落としながら竹を折っていた。
折り方に切れがない気がする。
シンシンはオレに気がつくと、力ない声で呟くように話した。
「リーリー、期待させて悪かったわ。……私、妊娠してなかったの。こんなに悲しい思いをする位なら、……もうお母さんになんてならなくていい……。」
シンシンが悲しいと、オレも悲しい。
シンシンはその悲しみを吹っ切るためか、食べる笹の量が増えた。
オレはシンシンが楽しいなら、母さんにならなくてもいい。そう思ったんだ。
リーリー物語4
シンシンはとっても頭がいい。
「こうやっておねだりすると、ニンゲンは餌をくれるのよ!アンタも試してみたら?」
中国でもそう言いながら、他のパンダより多めに餌を貰っていた。
オレには分からなくてもニンゲンの考えている事やニンゲンの言葉も少し理解している。それがシンシンだった。
そんなシンシンがある日オレにこう言ってきたんだ。
「ニンゲンがじんこうじゅせーってやつでアタシに子供を産ませようとしてるみたいなの。」
「じんこうじゅせー?」
「ニンゲンの力で子供を産ませるらしいの。難しい事はアタシもよく分からないけど、昔、ここではそうやって子供を産ませたみたい。」
そこで、オレはシンシンが不安そうに震えているのに気づいた。
「何か不安なのかい?キミはお母さんになれるかもしれないのに。」
「じんこうじゅせーで産んだ子は、ニンゲンの力によるものなのよ?生まれた子供がアンタの子供じゃなかもしれないのよ?……ソレは、なんだか怖いわ。」
「……キミが産んだ子なら、オレの子供じゃなくても、きっととっても可愛いに違いないよ。」
そこで、シンシンが顔を上げるとオレの目と合う。
いつも丸くて笑っているシンシンの表情はどこか真剣に思えた。
「リーリー、アタシじんこうじゅせーされるのはイヤ。……もう一度、もう一度だけ、私……!」
そして、数年ぶりにオレ達は交尾をした。
数年ぶりで調子に乗ったオレは、後でシンシンにとっても怒られた。
シンシンかわゆい……怒られたんかーいw
「シンシンが突然腹を立て…」ってやつだなw
この物語のシンシンの粗野な口調が好き
ほんとによかった