（SS）母の日-2018/05/15(火)

母の日に間に合わなかったリーリー視点の話投下します
（長文ですよー）
↓

「今日も水がうめぇぜ」

雄パンダは静かに喉を潤して満足した
夜の動物園の室内を照らすのは月明かりのみだが問題ない

腹も充分膨れた
のっそり立ち上がり、小さなリンゴを手に、櫓に置かれた花束――笹の葉を束ねタケノコの皮で結んだ花束ふうの物を――口にくわえる
当然作ったのはにんげんだ。前々から頼んでおいた特注品
言葉が通じるのかって？俺たちはツーカーだから例によってモーマンタイってやつだ

カリカリカリ

パンダがちょいちょいとやると簡単に扉は開いた
部屋を見渡す前に、目の前が何かで塞がれる
「うぉっ！？」

「ぱぱ、ぱぱーっ！」
「シャン坊か。目はやめろ目は！ワハハッ」
花束を破壊されないように上手く避けながら、衝撃を真正面から受け止めた
その重みにむすめの成長をしみじみ感じる
「ぱぱっ！あのねっシャンはねっ、女の子なんでしゅ！」
「おう、どうしたよ。突然」
「だから、だからねっ」
ぐりぐりと小さな頭を押し付けていたむすめが、俺を見上げて言った
「シャン坊は男の子みたいでしゅ」
「おーそうか？」
「もっと女の子っぽいのにしてくだしゃい。えーと、えーっと」
首を捻ってウンウン考えているむすめを見ながら、ますます目尻が下がっていくパンダだ
「シャン坊、食うか？」
小さな欠片を差し出すと「わーい！」と二本足で立ち上がった

むすめは俺の手のひらからリンゴをくわえ、すとんと地面に座った
「ぱぱ、シャンね、ﾓｸﾞﾓｸﾞ…りんごしゅき！ﾓｸﾞﾓｸﾞ」
嬉しそうに話すむすめ。小さな欠片が腹にこぼれていく
少し前まではよちよち歩きの赤ん坊だった――いとしいおれのむすめ――
「ぱぱ、ままのおやつでしゅか？」
りんごを片手に、花束を見ながら俺を見る
「これはな。シャンがママにありがとうって渡すんだ。母の日だからな」
「まま、ありがとって言うでしゅか」
「そうだ。ママ喜ぶぞ」
「うん！ままありがとごじゃましゅ」
にこにこ笑顔が幼い頃のつまと重なった
「シャン坊、じゃなかった。シャンよ。ママはどこだ？」
「ままね、ﾓｸﾞﾓｸﾞ…あっちでねんね。じゃましたらメッ！ﾓｸﾞﾓｸﾞ…されるでしゅよ」
「…」
自分にはメッどころじゃすまないのは明白
パンダは想像してブルブル首を降った

「仕方ねぇな、仙女が起きるまで俺も寝るか」
「…ﾓｸﾞﾓｸﾞ…」
むすめは咀嚼するのに必死だ。小さな耳がピコピコ動いている
鼻先を小さな頭につけて挨拶し、おもむろに歩き出すと背後に重い衝撃をくらった。本日二度目
「うおっ！？」
「ぱぱ！ねんねするの、シャンのベッドはだめでしゅ！」
「ワハハ。よしっ、じゃあ遊ぶか」
「あそぶ！あそぶーっ」
キャッキャッと響く笑い声
新しい櫓の上に、パンダはそっと花束を置いた

――むすめが生まれ初めて迎えた母の日
後に渡した花束に、つまはまあるい笑顔をみせ、秒の速さで腹に納めたのだった

おわり

駄文失礼しました！