リーリーの副業志願-2019/03/18(月)-偽名「たまきひろし」

俺は焦っていた
愛する妻は子育てが終わってのんびり過ごすのかと思いきや、バリバリ働き始めた
新居のローン費用を少しでも少なくするためと、これからかかるであろう娘の学費を貯めるためだそうだ
妻が働きに出ている昼間は娘の面倒を見ている
しかし、娘はそっけない
夕方、影絵ごっこをしても「ふうーん」て感じだし、時には無視される
いかん、このままでは父親としての威厳が…
俺も金銭的に余裕が欲しいところだ

そんなある日、パンダ新聞の求パン広告を何となく見ていると、ある広告に目が入った
「募集 スーツアクター 未経験でも大丈夫です」
時給も悪くないな
とりあえず問い合わせをしてみることにした

「かあしゃん、いってらっしゃーい」
「はいこれ、お弁当とお茶」
「ありがとう、シャンのことお願いね 行ってきまーすｳﾌﾌ」

妻を見送った後、娘はいつものように庭で遊び始めた
天気もいいし、たぶん昼御飯までは遊ぶだろう
電話するチャンスだ
広告に載っていた番号にかけてみる
「もしもし、あの、スーツアクター募集の件でお伺いしたいことがあって」
「担当に代わりますので、少々お待ちください」
「もしもし、すみません、社長は今来客中で
すので、私が代りにお聞きしますわﾊﾞｷｯ」
小さな事務所のようだ
「あの、スーツアクターは未経験なんですが大丈夫ですか？ 激しい動きとか」
「大丈夫ですよ 今回はイベントで、動物の着ぐるみの中に入ってもらって皆さんに親しんでもらうというものなの 激しい動きはないわよｳﾌﾌ」
どこかで聞き覚えのある話し方だか、まあいいだろう
電話の女性は続けた
「着ぐるみのサイズや詳しいご説明をしたいので、事務所に着てもらえるかしら？ﾍﾟｷｯ」
「は、はい」
「ではお名前をお願いしますねﾊﾞｷｯ」
名前は上野リー…と言いかけてやめた
このバイトは妻と娘には内緒にしておきたい
何か考えなければ…

「お名前は？ﾎﾟｷｯ」
「た、たまきひろしです」
「あら、社長と同じお名前なのねｳﾌﾌ」
しまった、その手は使えないか えーと…
「すみません、今のは冗談です
お、御徒町力男(おかちまちりきお)です」
ふぅ、これなら怪しまれることもないだろう
「面白い方ねｳﾌﾌ
えーと、おか… おかちもちさん？ﾊﾞｷｯ」
うまく言えないようだ
「いえ、おかちまちですが あ、いやリッキーでいいです」
「リッキーさんね 早速ですが今日の午後、いらっしゃることはできるかしら？ﾎﾞｷｯ」
「えーと、実は今は休み時間でして、会社は副業を禁止してるのでできれば退社後に面接をお願いしたいのですが
午後6時以降とか」
「そうですか 少々お待ちくださいねﾊﾞｷｯ」
保留音が鳴る
～電話してチョーダイ もっともっと～♪
「お待たせしました 社長はこれから外出しますが、6時過ぎに帰社の予定です 6時半頃はどうですか？ﾊﾞｷｯ」
「あ。はい では6時半にお伺いします よろしくお願いします」
「私はお会いできなくて残念ですが、たぶんあなたなら大丈夫よｳﾌﾌ」
面接のアポはとれた
あとはどうやって外出するかだ
いずれにせよ、妻が帰宅してからになる