上野に帰ろう- 2018/07/15(日)

「えっ？たからものを見せてくれるでしゅか？」
まだ友達じゃないカラスの言葉はわからないけど、そんな気がしたのだ
わぁいと喜びいさんでベンチを降りるシャンは焦ってころりんと道に転がってしまった。カラスが大丈夫かい？というように振り返る
「へいきでしゅ！」
本当はママに甘えたい気分になったけど、シャンはもう１しゃい
赤ちゃんじゃないでしゅからね
えっへんと胸を張り、カラスに誘われるまま道を進んでいく
なのに１７時のチャイムが鳴るとカラスは遠くへ飛んでいってしまった
シャンを残して――
幸い一本道だったから、迷わずに最初いた場所に戻ってきた
「……誰もいないでしゅ」
暑いし、なんだか疲れたし喉も乾いた
大した距離ではなかったが、一才になったばかりのシャンには長い道のりだったのだ

ぽつ、ぽつ、ぽつ、
ゴロゴロゴロ……

遠くで怖い音も聞こえる
シャンはベンチで丸くなって、大好きなとおシャンとお揃いのほっかむりを深くかぶった
ママのにおいがする。さっきまであんなに楽しかったのに、ママが恋しくて寂しくて鼻をすすった
「……ママ……シャンを……忘れて帰ったでしゅか……」
――もちろん、その頃ママとじいじは必死でシャンを探していたのだが――運悪く行き違ってしまっていた
『おーいシャン子ー』
「！」
どこからか声がする。シャンがきょろきょろ辺りを見渡すと、お揃いのほっかむりをした大きなパンダが合図のように手を上げた
「！　とおシャン！」
シャンは嬉しさのあまりにベンチから転がり落ちた
少し痛かったけど、それより嬉しくてぴょんぴょんと跳ねた
「とおシャン！」
「待たせたか？土産を迷ってなぁ。にんげんの好みは難し――ン？どうしたシャン子、鼻水垂れてる」
とおシャンはなぜか嬉しそうに目尻を下げつつ、シャンの鼻水をティッシュでチーンしてくれた

「ママとじいじは迷子でしゅか？大人なのに」
「ハハハ。そうだな」
鼻水をきらりと光せながら、シャンはｷｬｯｷｬとはしゃいでいる。すっかり調子を取り戻したようだ。それを見て笑う父も安堵していた
我が子がぷみぃ、ぷみぃと不安げに鳴く声を遠くで聞きつけ急いでここまで来たのだ
スマホを取り出し、パンダラインで「我娘無事」と、つまに連絡をした
「ママとじいじ見つかったぞ。じきに会える」
「あい！」
「さあ帰ろう。上野へ」
「あい、あい！」
差し出された手をしっかり掴むと、大きくて温かい手がシャンを包み込んでくれた