（SS）シンシンとシャン子の竹庫見学-2018/05/07(月)

「それでね、お水で遊んでないのに、ぬっとりしたの」
「そっか、それに気づいたのは何時頃だった？」
「えっとね、じゅんびちゅうの、ちょびっと前くらい」

準備中のちょびっと前。つまり、僕らの始業時間のちょっと前ってことか。

「今日は明け方から湿度が高かったからなあ」
「しつど？ママは“しっけ”って言ってたよ」
「お水がいっぱい詰まっている空気のことを、湿気って言うんだよ」
「さっき竹庫で見た、つぶつぶのお水の空気？」
「あれもそう。でも普通は、目に見えないほどの小さな粒々なんだ」
「見えないのに、どうしてお水がいっぱいの空気だって分かるの？」
「シャンシャンのお顔が、ぬっとりするからね」
「…あっ！そっかー！やっと分かったー！」

湿気を理解したシャンシャンは、雨で濡れた木の頂上で、母親似の笑顔でキャッキャとはしゃいだ。
僕は慌ててシャンシャンの体を支える。ここから滑って落ちても平気なのは、分かっているけれど。

「もう気は済んだだろ？お部屋へ帰る時間だよ、また雨が降ってくるよ」
「やだー！」

狭い木の上で、くるりと器用に方向転換して、こちらへお尻を向けてシャンシャンは言う。

「だってね、シャンね、雨が降るの待ってるの。雨ぱちゃぱちゃするの大好きなの」

この可愛さに負けていては、仕事にならない。僕は心を鬼にして、引き剥がしにかかった。

「ねえねえ、竹庫のお部屋ってね？」

やっと腕の中に納まってくれたシャンシャンが、直前の格闘をケロッと忘れた顔で尋ねてくる。

「ん…？」
「あのお部屋に入ったら“しっけ”だから、ぬっとりするんだよね？」
「そうだよ…その理解で合ってるよ…」
「でもママね、お部屋に入れてもらえなかったのに、お顔ぬっとりしてたよ？」
「その質問の答えは…後でもいい…？」
「うん！」

僕の息は切れていた。
一昨日のシャンシャンの体重に、今日の湿気の水分と泥の量を足すと…一体、何キロになる…？

こんな天気の日のお迎えは、とにかく一分一秒が長い。とにかく室内への扉が遠い。そして重い。