『小Y頭ちゃん!ごめんよ休みの日に電話して!ちょっとだけ来てくんないかなあ』
銭湯で入浴している間に、珍珍軒の大将から留守電が入っていた。団体さんでも入ったのかしら?
「母ちゃんどうしたの?」
牛乳(番台のお婆さんがご馳走してくれた)を飲んでいた小雅が、瓶からくちびるを離して心配そうに私を見上げる。
「珍珍軒の大将がね、ちょっとだけ来てくれないかって」
「じゃあ急いで行かなきゃ!大将が休みの母ちゃんに電話してくるって、よっぽど困ってるよ!」
「そうだねぇ。小雅、牛乳を飲んだら一人で帰れるかい?」
「ううん!小雅もお手伝いに行く!」
右手に瓶を持って左手を腰に起き、牛乳を一気に飲む小雅の姿はとても頼もしかった。
「こんばんはー!すみません遅くなりましたー!」
さあ何名様ですかかかってらっしゃい!とばかりに、勢い良く珍珍軒へ飛び込んだ。
―が。
「待ってたよ小Y頭ちゃ~ん」
店内にいたのは困り果てた大将、そして。
「コトちゃん!?」
上野駅に一人でいたところを、珍珍軒の常連さんに保護されたコトちゃん。
名前を聞いても答えてくれなくて、上野動物園へ連れて行ったけれど、残念ながら今日は月曜日で休園日で。
私や大将なら、この子を知っているのではないかと、わざわざ珍珍軒まで連れて来てくださったそうだ。
「そっか、やっぱコトちゃんで間違いないんだな」
「ええ、小雅のお友達のコトちゃんです」
「コトちゃんかい?って聞いたんだけどさ、なあんも答えてくんなくってさぁ」
私と大将が話している間、小雅はコトちゃんを抱きしめて、背中をとんとんしてあげている。
二人とも一言も、言葉を発さない。もうしばらく小雅に任せて、コトちゃんが落ち着いて事情を話してくれるのを待とうか。
でも、他のお客さんの目もある。ここで待っていては大将に迷惑をかけてしまうわね。どうしようかしらね。
とりあえずコトちゃんのお母さんへ電話をと、ポケットからスマホを取り出したところで、小雅が目で合図をくれた。
今ならコトちゃんは話してくれそうだ。
ありがとう小雅。
「コトちゃん、久しぶりだね。元気にしてたかい?」
大きくなった、けれど、まだまだ子供のコトちゃんの背中に、私は声をかけながら近づいた。