小雅が店から出て日が暮れた空を見上げると、ちらちらと雪が舞い降りていました。
「わー!雪だ!どおりで寒いと思った」
小雅は慌てて自分で編んだ手袋を両手にはめて、マフラーに顔をうずめて走りだしました。
「急いで帰らなくちゃ!かあちゃんが心配してる!久しぶりにセリアに来たら、毛糸を選ぶのに夢中になって時間忘れちゃった」
小雅は雪混じりで濡れた地面で滑らないように気をつけながら家路を急いでいます。
アパートに着くと外階段をカンカンカンと勢いよく駆け上がり、玄関のドアを開けました。
「かあちゃん!ただいま!遅くなってごめんなさい」
「おかえり!今迎えに行こうと思ってたところだよ。雪が降ってきただろ?」
小雅はコートを脱ぎ、すぐに洗面所に向かいました。
「うん。雪がね、どんどん降ってきたから急いで帰ってきたんだ」
話しながら小雅は手を洗い、うがいをし終えて、コタツに入りました。
「小雅、久しぶりのセリアはどうだったかい?ニコニコ」
「楽しかったよ!毛糸あんまり残ってなかったけど、小雅が欲しかった色があったからうれしくて沢山買ってきちゃった」
小雅はそう言いながら、セリアで買ってきたものを袋から取り出して、コタツの上にひとつひとつ置きました。
「そうかい。それはよかった。おやまぁ、ずいぶんとたくさん買ってきたんだねぇ!」
小Y頭さんは、目を丸くして、少しおどけて言いました。
「買いすぎちゃったかな…。かあちゃん…無駄遣いしてごめんなさい…」
「なに言ってるんだい。小雅が貯めていたお小遣いだよ。好きなように使って良いんだよ」
「ほんと?いいの?」
「当たり前じゃないか。小雅はいつも節約してるだろ?それに、ここのところずっとお出かけしないで我慢してたじゃないか。たまには思い切って使っておいで。足りなくなったら、かあちゃんがお小遣いあげるから」
「うん!ありがとう、かあちゃん」
小Y頭さんは、笑顔になった小雅を見て安心しました。
「毛糸と…これは紅茶かい?可愛らしい箱だねぇ」
「これはね、ココアなんだ!セリアの隣のお店で売ってたの。可愛いなーって思って、大家さんと大将とかあちゃんの分を買ってきたんだ」
「あらあらまあまあ、みんなに買ってきてくれたのかい。大家さんや大将も喜ぶよ!」
「エヘヘ喜んでくれるかな。毛糸はね、ピキちゃんの妹のベビちゃんにソックスを編もうと思ってるんだ。それと、かあちゃんにはレッグウォーマー編むの」
「良浜さんやピキちゃん喜んでくれるよ。かあちゃんにまで編んでくれるのかい。うれしいねぇ、ありがとうねニコニコ」
すると小Y頭さんは、毛糸玉に隠れていた色鮮やかな小さな2つのおもちゃに気付きました。
「小雅、これは…?」
小雅は小さな2つのおもちゃに手を伸ばし、優しく撫でながら言いました。
「……これはね、あの子たちの…。あの子たち、今ならこのおもちゃで遊べるかな…って思って…」
「…そう…あの子たちの…」
小Y頭さんはしんみりとそう呟くと、小雅の目に涙が溢れていることに気付きました。
そして、
「ああ本当だねぇ!あの子たち喜ぶよー!こっちが僕のだ!私のだー!ってケンカを始めちゃうかもしれないねぇ!」と小Y頭さんはあえて大げさなくらい明るい声で言いました。
小雅が悲しみでいっぱいにならないようにと…。
すると小雅は、
「うん!そうだね!これは順順のだよー!ちがうもん溜溜のだもん!って取り合いになっちゃうね」
そう言い終えると、小Y頭さんに気付かれないようにと涙をそっと拭いたのでした。
その姿を見ていた小Y頭さんは、
「そうだ!」と両手をパンッと叩きました。
「今日は、雪見鍋にしようかね!」
「雪見鍋?」
「そう!雪見鍋!鍋に大根おろしをたっぷり入れるとね、まるで雪が積もったように見えるだろ?だから雪見鍋っていうんだよ。それに今夜はちょうど雪が降ってるからね、雪を眺めながら温かいお鍋にしようかね」
「わー!美味しそうー!小雅、かあちゃんの作ったごはんだーい好き!」
「うふふ、ありがとう。いつも小雅がお手伝いしてくれるからね。かあちゃんと小雅の共同作業だねぇ」
「うん!今日も小雅お手伝いするね」
小雅はそう言うと、コタツの上に置いたものを袋の中に片付け始めました。
それを見て、小Y頭さんはスッと席を立って、洗面所に向かいました。
そして携帯電話をポケットから取り出して電話をかけました。
「もしもし、シンコママですか?小Y頭です」
「まぁ!小Yちゃん、お久しぶりねぇ。元気にしてた?」
「ええ、おかげさまで。ママもお元気そうで何よりです」
「こんなご時世だけど気持ちだけは明るくしてないとね!それで何かご用だったかしら?」
「ええ、ひとつお願いがあって…」
小Y頭さんはシンコママにひとしきり話をすると、電話を切りました。
台所に戻り、夕飯の支度に取り掛かろうとしていると、
小雅がお手伝いするために洗面所で手を洗い始めていました。
ぷるるる♪ぷるるる♪
「小雅、電話に出てくれるかい?かあちゃん、ちょっと手が離せないんだ」
「はーい!待って待って!今出まーす」バタバタバタ…
「はい、もしもし。あー!シャン子ちゃん!どうしたの?…うん、うん…」
小Y頭さんは電話の相手が誰か最初から分かっていました。
そう、さっきシンコママに電話をして、シャン子ちゃんから小雅ちゃんへ電話をかけてくれないか、とお願いしたのです。
つい悲しさや寂しさを我慢して、心に仕舞ってしまう小雅。
そんな小雅の心を明るくするにはシャン子ちゃんとのおしゃべりが一番だと思ったのです。
明るくて気風がいいシンコママと元気いっぱいのシャン子ちゃんにいつも助けられていると、小Y頭さんはあらためて感謝したのでした。
お鍋の支度をしていると、背後の方で楽しそうにおしゃべりしては声を上げて笑っている小雅の声が聞こえてきます。
それを聞いて小Y頭さんも自然と笑みがこぼれてくるのでした。
まだまだ寒い冬の夜、小Y頭さんと小雅ちゃんはコタツに入って、雪見鍋で心も体もぽっかぽか。
食後には、小Y頭さんと小雅ちゃんはココアを飲みながら、写真立ての中の順順と溜溜も一緒に、長い長い夜を楽しいおしゃべりをして過ごします。
「かあちゃん見て見て!まんまるお月さまと雪だよー!」
「ホントだねぇ、綺麗だねぇ」
ワイワイキャッキャッアハハ
賑やかに夜は更けていきます。
おしまい
なんて可愛くて優しい親子なんでしょう 寒いけど心が暖まりました ありがとう
明日はうちも雪見鍋にします!
>>862
読みごたえたっぷり!作家さんありがとうございます!
小雅ちゃん、天国のチビちゃんたちきっとすごく喜んでると思うよ
小Y頭さん心配ですね
どうしたんだろう…
健気な小雅ちゃんと母ちゃんのお話大好き
やさしさにウルウルきちゃった
あのゴワゴワ貸してください…
素敵な話に目から汗がでまちた。
小Y頭さんは半年以上姿見せてないという話なので心配です。。。
元気だといいんだけど。
小雅母子にほっこりしました!
わたくちにもゴワゴワを…お願いします
リアル小雅ママも心配です
お話本当にありがとうございます
そしてわたくしにもゴワゴワを…
小雅母子の健気に慎ましく生きてるお話し、大好きです。双子ちゃんも梅梅さんの保育園で元気にしてるといいな。