小雅ちゃんのポシェット-2018/04/23(月)-宝物とカラス

暖かい昼下がり、小雅とシャン子は公園でおままごとをして遊んでいた。
「ただいまでしゅよ～小雅ママ～」
「おかえりシャンパパ はい麦茶どうぞ」
「ふぇ～小雅ママの麦茶はおいしいでしゅな～
おかわりでしゅ！」
「シャンパパ、あんまり飲み過ぎると晩ごはん食べられないわよ～」
「ふぁふぁふぁ！すまんでしゅ小雅ママ」
キャッキャッキャッキャッウフフウフフキャッ

二人がままごと遊びの時は何故か必ず小雅がママでシャン子がパパなのである。

小雅ママがタンポポの花をお皿に盛り付け、シャンパパと二人で「いただきまーす！」と言ったと同時に大きなカラスが二人の頭上をバサーとかすめた
「キャー！！！」二人は悲鳴を上げ頭を抱えてうずくまった
カラスは小雅のポシェットを咥えると満足げに空高く飛んで行った

「あー！小雅のポシェットが！あー！だめー！」

「こらーーカラスしゃん返しなさいでしゅー！
待てーー！」

「待つのでしゅーー！」シャン子は虫取り網を振り回してカラスを追いかけたが小石につまづき転んで泣きだした
「エーーンエーーン！カラ、ヒックヒック、カラシュ、ヒック、カラシュしゃんのバカァ、ヒックヒック！エーーンエーーンエーーン」

カラスに奪われたポシェットには大将からもらった給料袋が入っていたのだ。
小雅はシャン子以上に泣き叫びたいのを必死でこらえ、こぼれ落ちそうな涙を手で拭いながらニコニコしてシャン子を起こして頭を撫でた

「大丈夫シャン子ちゃん？ケガしてない？
泣かないでシャン子ちゃん」

「ヒックヒック、小雅ママのポシェットを返してもらえなかったでしゅよヒックヒック
シャンはダメなパパでしゅよヒックヒック」

「シャンパパ大丈夫よ！ポシェットはまた作ればいいんだからね
今度はシャンパパとお揃いで２つ作るわね」

「シャンパパのも作ってくれるんでしゅかー？小雅ママー？」
「うんうんお揃いで作ろうね」

母ちゃん母ちゃんごめんなさい母ちゃん
小雅は心の中は涙でいっぱいだった。

「ただいま～小雅～」
あら？いつもなら飛んでくるはずの小雅が？どうしたんだろう？
居ないのかしら？
スーパーの荷物を置いて奥の部屋へ行くとタオルケットに包まってシクシク泣いている小雅の姿があった！

「小雅！どうしたの？なんで泣いてるの？なんかあったの？小雅？」
私はタオルケットをめくり小雅を抱きしめた

「母ちゃん母ちゃん小雅ヒックヒック母ちゃんヒックヒック母ちゃんごめんなさいヒックヒック」
小雅は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら謝り続けている

「どうしたんだい小雅、こんなに泣いて なんであやまるの？
母ちゃん怒らないから言ってごらん？」

「ヒックヒック母ちゃん、あのね、ヒック小雅ねヒックヒック今日ね、ヒック お給料袋をねヒックヒックウワーーーンエーーンエーーンエーーンエーーン」

「大丈夫大丈夫小雅大丈夫よ」
私は泣き叫ぶ小雅をきつく抱きしめた

「母ちゃんごめんなさいヒックヒック

お給料袋をねポシェットに入れててねヒックヒック、
おままごとしてたらねヒックヒックカラスさんが来てねヒックヒック
カラスさんがポシェットをね、 ヒックヒック
小雅のポシェットを持って飛んで行ったのウワーーーンウワーーーンエーーンエーーン」

「母ちゃんとお買い物にねヒック行けなくなったのヒックヒックウワーーーンエーーン」

私は驚いたが、涙をポロポロこぼしながら何度も何度もごめんなさいと言ってる小雅が可哀想で仕方なかった
「大丈夫大丈夫小雅。カラスさんおなかぺこぺこだったから小雅のポシェットにお菓子が入ってると思って持って行っちゃったんだよ

カラスさんもお菓子じゃないって気づいたらきっと返しに来てくれるよ。ね？大丈夫よ小雅

明日は小雅が楽しみにしてたイオンでお買い物に行くんでしょ？
ほらもう泣かないの。」

「カラスさん返してくれるの？
でも明日だよイオン
明日までに返してくれるの？」

「うん、母ちゃんがカラスさんのおウチに行って返してもらってくるから大丈夫だよ」

「ほんとに？ほんとに？母ちゃん？絶対に？」

私は咄嗟に嘘を言っていた。カラスの家とか、カラスと会話とか、出来るわけもないのに。でも幼い娘にこれ以上悲しい思いをさせたくなかったから。

永明さんに頂いたチップを使ってカラスから
返してもらった事にしよう。

「小雅、母ちゃん今からカラスさんのおウチに行ってくるからね。」

「うん！母ちゃん！」

泣き腫らした小雅が笑顔を見せた

私は自転車に乗ってコンビニで茶封筒を買い2万円を入れてからアパートに帰った

「ただいま小雅！カラスさん返してくれたよ！」

「ほんとにー？母ちゃんありがとうー！よかったーー！カラスさんありがとうー！母ちゃんこれで明日お買い物に行けるね！」ニコニコニコニコ

「うんお買い物行こうね小雅」ニコニコ

小雅はポシェットの事はすっかり頭から消えていた。

いつものように私が夜の仕事をしていた頃

小雅は絶対に無くさないようにパジャマの中にお金を入れてうつ伏せに眠った 母ちゃんおやすみなさい。
早く明日になあれ♪

土バト「カラスさーん！ちょっとちょっと！ヤバいよアンタ！」
カラス「何だよ藪から棒に、俺ぁ今からパン毛の調達で急いでんだよ」
土バト「そのパンダだよ！アンタ、シャンシャンの友達にちょっかい出したんだって？」
カラス「んー？ああ、んな事あったっけかなー」
土バト「シャンシャン、アンタから友達を守れなかったっつって、ビービー泣いてんだとさ」
カラス「ほぉん」
土バト「アンタ、パン毛なんか毟りに行ったら食われちまうよ」
カラス「！！」
土バト「ちなみにこの事、動物園の鳥類みんなに広まってっから。東も西も」
カラス「！！」
土バト「早いとこ謝ってきなよ、もうすぐ奥さん産卵だろ？」
カラス「……」

お金は永明さんからのチップでごまかせたものの、小雅がいつポシェットの事を思い出してしまうのか。
早ければ明日、イオンへ行く前に気づくかも知れない。どう言い訳すれば小雅を泣かせずに済むかしら？
できるだけ自然な言い訳を。嘘だとバレても、小雅の心が痛まないような優しい嘘を。どうすればいい？

ドサッ、パタン。

考えながら、ウトウトしていたみたい。私は、玄関から聞こえた物音で目を覚ました。
え？玄関から物音？こんな早朝に？新聞屋さん、お隣さんのドアと間違えちゃったのかしら。
小雅を起こしてしまわないように、そっと布団を出て玄関へ近寄ってみた。

「あっ！」

思わず声を上げてしまった。狭い玄関のたたき、小雅の小さな靴のそばに、ポシェットが落ちていた。
ドアの郵便受けから、落とし入れられたようだった。

「まさか、カラスが返しに来た？」

ポシェットを拾い上げると、小石でも詰まっているかのような感触があった。

「ああ、やっぱり返しに来てくれたんだわ…」

ポシェットに入っていたものは、小雅のハンカチと、私が作ってあげたビーズのアクセサリー。
大将から頂いた、小雅の大切なお給料。
そしてカラスの宝物であったろう、いくつかの飾りボタンやビー玉、片方だけのイヤリングが入っていた。

小雅母とシンコママのライン

「シンコママ、おはようございます。朝早くすみません
小雅のポシェットが戻ってきました
シャン子ちゃんが気にしているといけませんので、取り急ぎご報告です」
『おはよー！ポシェット戻って本当に良かったわ！小雅ちゃん喜ぶわね！
シャンも昨日は泣いちゃって泣いちゃって、大変だったのよｗ
ポシェット、誰かが取り返してくれたの？』
「カラスが返しに来たみたいなんですよ
お詫びのつもりなのか、カラスの宝物っぽいものが入れてありました」
（ポシェットの中身の写真添付）
『あー！これ間違いなくカラスが返しに来てる！
前に毛と一緒に持ってかれた私のイヤリングがｗｗ』
「え、このイヤリング、シンコママのだったんですか？
お急ぎでなければ、明日お店に持って行きますね」
『いいのいいの、それ超安物なのよー
良かったら小雅ちゃんのおもちゃにしてあげて
残ってたもう片方は、シャンのおもちゃになってるのよ
シャンと小雅ちゃんでお揃いね♪』