小雅ちゃんのポシェット-2018/04/24(火)-母ちゃんとイオンへ-二つの物語

朝の通勤ラッシュを過ぎて出かけるつもりでいたら、小雅が「お店が始まっちゃうから早く行きたい」と珍しく駄々をこねた。
イオンの自転車屋さんは十時から。でも小雅は、どうしても九時にはイオンへ着きたいと言う。
それならば、満員電車をいくつか見送る事になっても良いようにと、私達母娘は七時台の電車で出かける事にした。
上野駅から三駅、乗り換えてもう三駅。更に歩いて十分ほどのイオン。早く着き過ぎても、地下は八時から開いている。
地下にはパン屋さんもあるし、はなまるうどんもある。自転車屋さんが開くまでに、小雅に朝ご飯を食べさせよう。

案の定、子連れパンダには通勤ラッシュは厳しいものだった。小雅を守って電車から押し出される事、数回。
それでも小雅は元気に、私の手をぐいぐいとひいて歩く。上気した表情は、赤ん坊の頃のピンクの毛に見えた。

「良かったー！間に合ったー！」

イオンへ到着したのは九時ちょうどだった。

「小雅、自転車屋さんが開くまで、地下で朝ご飯を食べようか」
「自転車屋さん？」
「そうよ、自転車屋さんは十時からなの。だからそれまで…」
「母ちゃん、あのね。小雅、大事なお買い物があるの！」
「大事なお買い物？自転車じゃないの？」
「違うの。えっとね、小雅ね。一人でお買い物してきてもいい？」
「何を買うの？迷子になるから母ちゃんも一緒に…」
「小雅、もう大きいから一人で行ける！母ちゃんは三階のセリアで待ってて！」
「あっ！小雅！待ちなさい小雅！」

いつも母ちゃんから「お店の中で走っちゃいけないよ」って言われてる。でも今日だけごめんなさい！
シャン子ちゃんが可愛いって言ってくれたバッグ！お店のお姉さんの魔法で、今日から半額のバッグ！
早く行かなきゃ！早く行かなきゃ売り切れちゃう！

「あっ！」

ポテッ！

人とぶつかりそうになって、慌てて立ち止まったらこけちゃった。早く起き上がりたいのに、お膝がじんじんする。

「こら小雅！お店の中で走っちゃいけないって、いつも言ってるでしょ」
「母ちゃん！」
「もう大きいんだから、一人で起き上がれるね？あらあら、ポシェットあんなところまで飛んでっちゃって」

自分が悪いんだから、泣かない泣かない。痛いのも我慢。私は頑張って起き上がった。

「はい、ポシェット。大事なお買い物をするんでしょ？お金が入ってるんだから、しっかり持ちなさい」
「ごめんなさい母ちゃん…」
「ほら、お買い物してきなさい。走っちゃ駄目よ」
「うん！」

私はポシェットを抱きしめて、魔法のバッグのお店を目指した。
このポシェットに、大事な大事なお金が入ってる。母ちゃんが作ってくれた、アクセサリーも入ってる。
このポシェットだって、母ちゃんが手縫いで作ってくれたもの。大切な大切な、小雅のポシェット。

大切な大切な、小雅の…。

振り向くと、少し離れた場所に母ちゃんがいた。母ちゃんが笑顔で手を振ってくれている。

なぜか、急に涙が出てきた。