今は昔…
青い空と海、緑の美しい白浜という土地に、16年前、小さな小さな男の子が誕生しました。
そしてその13年後に、今度は小さな小さな女の子が誕生しました。
これは、そんなパンダたちのおはなしです。
「赤ちゃん、75gしかありません」
ベテランの飼育員さんの言葉に、これもベテランの獣医さんが険しい表情になりました
2018年8月、白浜。
皆が息をひそめて見守る保育器の中で、白浜で生まれた17頭目のジャイアントパンダの赤ちゃんは、
一生懸命に呼吸をし、手足を動かし、生きようともがいていました。
けれども、どんなに頑張ってもうまく息ができません。薄桃色の小さな体はすぐに冷えてしまいます。
小さな体の中の小さな小さな心臓の鼓動は時に弱くなり、獣医さんが慌てて指先で胸を押すのでした。
『私の赤ちゃん! 私の赤ちゃん、可哀想に…お母ちゃんはここにおるよ!』
産室から、お母さんの良浜が必死で呼びかけます。
抱きしめてあげたいけれど、良浜にはこの赤ちゃんは自分だけの力では育てられないと分かっているのです。
自分のことも育ててくれた飼育員さん達を信じて、良浜は赤ちゃんを人の手に託したのでした。
『おかあちゃん……さむいよぅ……だっこしてよぅ…』
真夏なのに、そして保育器の中は暖かいのに、赤ちゃんは震えが止まりません。
良浜がまた、悲し気に声を上げます。
最初に体重を告げたベテラン飼育員さんが来て両手で赤ちゃんを包みました。
この飼育員さんも、ずっと赤ちゃんを看病して疲れ切っています。
それでも諦めずに温めようとする手から…何故でしょう、
その時、飼育員さんの心の声が赤ちゃんに伝わってきたのです。
(あの時の子のように小さい赤ちゃん。もう二度と失いたくない。どんなに疲れても、私が頑張らなくては)
『あれ…しいくいんしゃんの、こころのこえが聞こえるでちゅ…』
それに、あの時の子、とは誰でしょう? 赤ちゃんが不思議に思ったその時でした。
『僕のことだよ。飼育員さん、相変わらず頑張り屋さんだね』
優しい声が突然響いて、ふわりと暖かな体温が寄り添いました。
そして白と黒の少し硬い毛の感触も。
赤ちゃんのまだ見えていない目に、けれども確かに光に包まれてにっこり笑う青年のパンダの姿が写ったのでした。
『初めまして、赤ちゃん。君を励ましたくて来たんだ。僕も…とても小さく生まれたから。
僕のお父さんは永明、お母さんは梅梅。僕は君のお兄さんだよ』
『おにいちゃん…おなまえは?』
青年パンダの姿は、飼育員さん達には見えないようでした。それを不思議に思いながら、赤ちゃんは問いかけました。
『名前はね…正式な名前はないんだ。でも、僕のことを「福浜」って呼んでくれるひともいるよ。僕の双子の兄さんが幸浜って名だから』
手足がすらりと長く、ちょっとお鼻も長く、優しそうな青年パンダです。
『僕は父さんに似てるんだよ。浜家の男子はみんなそうだよね』
『あたちも、お鼻ながくなるでちゅか?』
『君は女の子だから…うーん、どうだろ。クール系美少女になるかもね』
『でもあたち…大きくなれるかわからないでちゅ…いまも、とってもくるちいの…』
『苦しいんだね…僕もそうだった。でも頑張るんだ。君は大丈夫、僕が生まれた時よりも大きいんだよ』
赤ちゃんは、その時悟りました。
この優しい福浜は、今はもうこの世界にはいない、お空の上から来たパンダなのです。
白浜で生まれた6頭目の子。5頭目の幸浜と双子で生まれた短い命の赤ちゃんでした。
『…そうだよ、双子で生まれた兄さんは元気だったけど、僕は一日しかここにいられなかった。君よりもっと小さく生まれたからね…。
でもずっと空から、みんなのことは見ていたよ』
赤ちゃんは衝撃を受けて黙りました。でも、聞きたいことがあることに気付いて慌てて顔を上げました。
『おにいちゃん、あたち、いもうとがいるんでちゅ。おかあちゃんのおなかの中で、いっしょにいたでちゅ。
いもうとは、まだうまれないでちゅか?』
良浜のお腹の中、なかなか大きくなれない双子の姉妹は励まし合いながら誕生の日を迎えたのです。
福浜は、しばらくの間黙っていました。とても悲しそうでした。そして、
『…ごめんね…君の妹は…さっき、お空に登って行ったんだ…』
それを聞いた瞬間、赤ちゃんの体温が、また、すーっと下がってゆきました。
3
『ああ、駄目だ、しっかりして! あの子は30gしかなかったんだ。でも君はまだ頑張れる。生きるんだ、生きなきゃ駄目だ!』
『かなしいよぅ…くるしいよぅ…おかあちゃん…さむいよぅ…』
泣き声を上げながら、でも赤ちゃんには涙を流すこともできないのです。
『聞いて。君はこれから、楽しいことがいっぱいなんだ。元気になって保育器から出たら、お母さんにいっぱい甘えて遊んでもらうんだ。
そのうちお名前も決まるよ。氷のケーキやおもちゃや遊具でみんなが笑顔でお祝いしてくれる。
みんな君のことが大好きになる。歩けるようになったらお外にも出て、芝生の上でお日様の光を浴びて走り回るんだ。
光がきらきらして、芝生はきれいな緑で、お父さんもそばにいて、小鳥も鳴いて、走っても走っても足りないくらい楽しくて、
疲れたらお母さんのお腹の上でお昼寝するんだ。世界は、この世界はとても美しいんだ。君はそこで生きていくんだ』
『夢みたいでちゅ…』
肩で息をしながら、赤ちゃんは呟きました。
そんな素晴らしい世界に、そんな楽しい時間にたどり着くまで、あとどれくらい頑張れば良いのでしょう。
それは、なんて遠いところにある希望なのでしょう。
今はこんなに寒くて、息が苦しくて、鼓動はどんどん弱くなっていくというのに。
『僕の可愛い妹。みんなが応援しているよ。…さぁ、聞かせてあげる。耳をすませてごらん』
福浜は赤ちゃんの上に身をかがめ、薄桃色の小さな耳に、大きな手のひらをぴたりと当てました。
赤ちゃんの耳には、ずっと呼び続けているお母さんの声が聞こえています。
そしてその向こうから、お母さんの声の後ろから、初めて聞く穏やかな声が聞こえてきたのです。
『…僕の末娘。大事な大事な我が子。とても小さく生まれたと聞いた…。良浜は大丈夫やろうか。
家族のためなら、父さんはなんでもする。どうか無事に生き延びて、可愛い姿を見せておくれ』
4
赤ちゃんが驚いて福浜を見上げると、福浜は微笑んで耳に当てた手のひらに念を込めました。
そうすると、お父さんの永明の声の更に向こうから、若々しく愛らしい声も聞こえてきたのです。
『可哀想に、今頃心細い思いをしてるんやね。お乳が飲めればきっと元気になる。きっと…』
『小さく生まれた妹…私の大事な妹。神さま、どうか赤ちゃんをお守りください!』
『赤ちゃん、結をお姉ちゃんにしてくれてありがとう! きっと会えるよね、結、信じてるよ!』
お母さん、お父さん、そして桜浜、桃浜、結浜の心の声に、赤ちゃんは胸が高鳴りました。
『家族だけじゃない、ニュースを見た仲間も心配してくれてるよ。さぁ、もっと耳を澄ませて』
福浜に言われて、全身を耳にして集中すると、声は次々と聞こえてくるのです。
『白浜の赤ちゃん、一日も早く元気になって! 何かしてあげられることはないだろうか』
『良浜さんも心配でしょう…。大事な初乳は飲めたのかしら。どうか頑張って!』
『きっと元気になるでしゅよ。そしたら、一緒に日本パンダ界のアイドル君臨でしゅ!』
『タンタンが祈ってるなの。タンタンの赤ちゃんたちも、コウコウたちもきっと見守ってるなの!』
励ましの声は幾重にも重なり、赤ちゃんの体を包んで少しずつ温めてゆくようでした。
声は更に遠くから、海を渡って届きはじめました。
『ラウ姉ちゃんの子や、きっと強い子に決まってる。大丈夫、ラウ姉のフライングボディプレスは最強や!』
『僕たちがついてるよ! 浜家の大家族みんなで応援してるんやから大丈夫!』
『そうや! 浜家はブリーディングセンターがぎゅうぎゅう詰めになるほどの大家族や!』
『小さく生まれても、すぐにうちの子みたいに丸々と! ええ、丸々と元気な子パンダに成長するわ!』
『赤ちゃんおばちゃんが元気になるまで、カボチャ断ちの祈願するアルよ!』
そして、
『あの日、小さく生まれて一日しか一緒にいられなかった僕の双子の弟。忘れないよ。どうか妹を励ましてあげて!』
『分かってるよ、幸浜兄ちゃん』
その声に力強く頷き、福浜は赤ちゃんの耳から手を離してしっかりと抱きかかえました。
『赤ちゃん、とても大切なひとに会いに行くよ。しっかり掴まって!』
続きます
涙腺崩壊でしゅグスグス
いろんなパンダさんが登場してるけど話し方で誰かわかるって…すごい作家さんがまた現れましたね
ここは本当に才能の宝庫
すごい超大作キタ━(゚∀゚)━!!!
読みながらめっちゃ泣いてしまった…
後半も楽しみにしております!
ワイスレにとんでもない新星が現れたわ…!
初めてとは思えない
明日が楽しみ
すんなり入ってくるので長さは感じないです!素敵なお話ありがとうございます。
後半は更に泣きそう…
>>105
ありがとうございます!続きも楽しみにしています のんびり行きまひょw
ピキちゃんが生まれた時の新聞記事を切り抜いてます この子が無事成長しますようにと祈りながら切り取ってた
成長してくれたら絶対会いに行く!という自己の誓いはまだ果たせてませんがwいつか日本にいる間に行きたいわ 白浜家に
返すときは中にりんごとか入れなくてもいいでしゅからね
ほんとにりんごとかいいでしゅからね グフッ
いらっしゃ~い
「はあ、しいなりんごしゃんはカッコいいでしゅね りんごというお名前もすばらしいでしゅオカシポリポリ ふわぁ2355を見たら寝ましゅかね」
プミピキピギャーデンワヤデー♪
「ん?ピキしゃん、こんな時間にどうちたんでしゅかね ピッ あいもちもち」
「せんぱい、夜遅くごめんなしゃい すごい新人が現れたんや その人、白浜の美少女の話を書いてくれてな、感動もんやねん ぜひ読んでやチュルチュル」
「白浜の美少女?誰かちらね あ、それよりピキしゃん、あさってのことなんでしゅけどね」
「あさって? 何かあったけ あ、おかんがうるさいから電話切るわ ほなおやすみープチッ」
「あ、ピキしゃん? 切れまちたプミー とうしゃんもかあしゃんもあさってのこと忘れてるみたいだし、どうなってるんでしゅかね やけシャンメリーしようかちら」
作家さん、感動して続きが気になって夜しか寝られません
また続きをお願いします スヤァ
プミちゃん今日は二日酔いかな?
明日はシャンメリー飲んでもシンコさん怒らないと思うよw
プミちゃん、2355観てから寝てるんだ
なにからなにまでかわいい
当時あまりにも小さく産まれた赤ちゃん(後の態度が社長)が心配で毎日祈るような気持ちで公式さんの情報を見ていた事を思い出した
後半も楽しみにしています…!
ゴワゴワを3枚グショグショにしたので洗濯して持ち主におリンゴを入れて返却せねば…
新星さん手強いですね
やけシャンメリーしなくてもきっと明日はプミの元にいっぱいのプレゼントと
たくさんの訪問者が訪れて賑やかな日になるから大丈夫!
皆忘れる訳ないよプミちゃんサプライズの夢でも見ておやすみ
ゴワゴワ 借ります。。朝から泣きました
続きを楽しみにしてます!
「ときをもどしょう!」
わあ!楽しみです!ぜひぜひお願いします
何もかまうことはないんじゃ
好きに書いたらいいんじゃよ フォフォフォ
楽しみです!
>>87
もちろんウェルカメ じゃなくてウェルカムですよ♪
ここの皆さんも同じだと思いますよ ぇぇ
昔のアドベンの事詳しくないのでむしろ知りたいです お願いします
このスレ読んで楽しんでる時点で仲間ですよ!
楽しみに待ってま〜す!
>>105
例のゴワゴワ抱えてお話の続き楽しみに待ってます
そうだったのかー全然気にならんかったw
wwwwww
これでまだ半分です…。
後半はまた明日にでも投下させていただきますね。