おちごと日記-2018/12/21(金)-記念切手（コラボ）

「はい、シャンシャンの切手シートね かわいいでしょう、この子 ウフフ」
俺の娘だから至極当然なのである
「何部ですか？」
「ぜ、全部ください」
「一部2000円ですがよろしいかしら？ ウフフ」
し、しまった
さっきスイカにチャージをしたから現金はあまり残ってなかった
仕方ないのでとりあえず一部買うことにした
ようやく手に入れた娘の切手
夜、ゆっくりと眺めることにしよう

再び東京駅から山手線に乗り、上野で下車
動物園に向かった
その時、
ヒユウゥゥゥ
北風がふいた
変装用の帽子が飛ばされないように、とっさに頭を両手で押さえた
そして切手シートは…

娘の切手シートは北風に乗ってはらはらと上昇し、上野の森の方向に飛んでいった
「ああーっ、苦労して買ったのに」
どの木に引っ掛かったかはわかっている
今すぐに登って取りたい
でもそんなことをしたらまずい
それに部屋に戻る時間が迫っている
俺は木の場所がわかるように目印をつけて、とりあえず動物園に戻ることにした
待ってろよ、夜になったら取りにいくからな

「あわわわ、シャンちゃん、テレビ見てたんじゃなかった？」
「うん、おわったよ とおしゃんがお外に出たからシャンもついてきたの エヘヘ」
参ったな
「父さんはちょっと木に登るからシャンちゃんは下で待ってて」
「うん 覗きのおじしゃんごっこをするんでしゅね」
どこで覚えたんだ、そんなこと
娘を下で待たせて俺は素早く登った
切手シートが引っ掛かってる枝まできた
手を伸ばしたがもう少しのところで届かない
枝が細くてこれ以上進むと折れそうだ
どうすればいいんだ
…そうだ
俺は一旦降りた
「シャンちゃん、お願いがあるんだけど」

「なんでしゅか？」
「上の枝のところにひらひらしてるものがあるんだけど、わかる？」
「うん、わかりましゅよ あれを取りに行くんでしゅか？」
さすが俺の娘だ、察しがいい
「そうだよ あれは父さんの大切なものでね、シャンちゃんに取ってきて欲しいんだけどできる？」
「まかせてくだしゃい ｴﾍﾝ」
娘にとっては初めて登る高さなので、念のためロープを娘の体に巻き付けた
「慌てなくていいからね、ゆっくり登るんだよ」
「あいっ」
妻にこんなところを見られたら大目玉を食らうかもしれないから、ゆっくりと言いながらも内心は焦っていた
風もやみ、満月なので月明かりでもシートの場所はわかる
満月をバックに木登りをする娘のシルエットは頼もしささえ感じた
その時だった
「あら、リー君、何してるの？」
あわわわわわ…

「シシシ、シンちゃん、は、早いね おかえり」
「何言ってるの いつも通りよ お土産に焼き芋買ってきたけど何してるの？ え？まさか登ってるのシャン？」
妻の目が三角になってきた
「シャンはまだ子供よ いくらお転婆でもこの高さはまだ早いわ」
「シンちゃん、落ち着いて これには訳が…」
「とおしゃん、とれまちたよー」
「おうー ゆっくり降りておいで」
娘は切手シートを口にくわえてゆっくりと降りてきた
妻もその様子をみていた
満月をバックに娘のシルエットがうつる
「かぐや姫…」
妻はそう呟き、一筋の涙を流したのを俺は見たけど黙っておいた

娘は切手シートをくわえて無事に降りてきた
「はい、とおしゃん あ、おかえりなさい、かあしゃん」
渡された切手シートにはうっすらと娘の歯形がついていたが、それもご愛嬌
「ああ、よかった もうドキドキしたわよ」
「シャンはおねえしゃんでしゅからこれくらいへっちゃらでしゅ」
「シャンちゃん、ありがとう 父さんはシャンが取ってきてくれたこれを大事にするからね」
「とおしゃん、おうちで見せてもらっていい？」
「もちろんだよ」
「さあ早く帰りましょ せっかくの焼き芋が冷めちゃうわよ ウフフ」
俺達は月明かりの下で枯れ葉を踏みながら帰っていった

おわり