母ちゃんポシェット編、下手くそで長くなるので二夜に分けさせてください。
イオンの休憩スペースで、眠ってしまった小雅の頭を撫でていた。シャン子ちゃんと比べると、大きくなったなって思っていた。
でも、私の膝へ頭を預けて眠る小雅は、まだ小さい。泣いて鼻が詰まったのか、少し口を開けて寝息を立てる小雅の顔は、まだ幼い。
『小yちゃんの前では心配かけまいといつもニコニコしててさ、小雅ちゃんなりに色々我慢してんだよ』
大将の言葉を思い出す。
そう、小雅は思いやりある優しい子。私に心配かけないように、明るく振る舞っている。大将から言われなくたって知っている。
知っているのに、私はこの子に我慢をさせている。この子の優しさに甘えて、我慢をさせてしまっている。
まだ、こんなに小さいのに。
まだ、こんなにも幼いのに。
「ごめんね、小雅…」
欲しがっていた物だって、私は勘違いをしていた。シャン子ちゃんの自転車を見て以来、買い物の後の待ち合わせは自転車売場だったから。
お店の人へ「母ちゃんが来るまで見ていてもいいですか?」と、目を輝かせて尋ねている姿を見ていたから。
お店の人のご厚意で、あの自転車にまたがらせて頂いて。シャン子ちゃんと遊んでいる時のような笑顔を見てきたから。
でも…小雅が欲しがっていた物は、ピカピカの硬いバッグだった。憧れだと言っていた。正直、私にとってはショックな言葉だった。
大将から言われなくたって知っている?私は小雅の何を知っているの?私は小雅の何を見てきたの?母親のくせに。
我が子の憧れに気づかなかった私。
我が子に多くを我慢させてきた私。
「ごめんね、ごめんね小雅…」
頭を撫でる手に少し力が入ってしまったのか、小雅がぱちりと目を開けた。
「小雅?ごめんね、起こしちゃったね」
「ううん…寝ちゃってごめんね母ちゃん…」
小雅の頭の重みと暖かさが、私の膝から離れた。もう少しだけ触れていたくて、私は小雅の顔を両手でそっと包んだ。
小雅の目を見つめて、一言一言ゆっくりと言い聞かせる。
「小雅、ピカピカの硬いバッグ、買いに行っておいで」
「えっ…ううん、小雅は母ちゃんのポシェットが…」
「小雅が本当に欲しくって、本当に必要だと思って買うんだったら、それは無駄遣いじゃないんだよ」
「母ちゃん…」
「小雅が物を大事にする子だって、母ちゃん知ってる。母ちゃんが作ったポシェット、大事に使ってくれてありがとう」
「うん…」
「だからピカピカのバッグだって、小雅なら大事に長く長く使うだろうなって。母ちゃん信じてるよ」
「うん…」
「大将はね、小雅が小雅の欲しいものを買いなさいって、お給料をくださったの。自分にご褒美を買いなさいって」
「でも…」
「本当は母ちゃんね、小雅は自転車を欲しいんだって勘違いしてた。だからバッグだなんてびっくりしちゃったけど…」
「うん…」
「自分へのご褒美なんだから、自分の欲しいものを買いなさい。憧れのバッグ、お鼻ちーんして買いに行っておいで」
「…うん!」
およそ二時間ぶりの小雅の笑顔。その鼻先をティッシュ越しに軽く摘まんでやって、私も笑った。